なぜ自民等の議員の多くが「選択的夫婦別姓」に反対するのか。 -これは憲法改正問題と繋がっている- | 野良猫の目

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私は選択的夫婦別姓制度を採用すべきと考えているのですが、衆議院選にあたって、報道が政党が択的夫婦別姓制度について、「ジェンダー平等」問題の一つとして取り上げていたことに違和感を覚えていました。

 

 

1.現行法制下では、姓(氏)の選択に係る男女の差別的扱いはありません。

戸籍法では、婚姻届を出すときに、夫となる者又は妻となる者の姓を届け出るものとされています。そして新たに夫婦の戸籍が作られます。その意味で、戸籍法上の扱いとしては男女の差別的な扱いはありません

 

選択的夫婦別姓制度を導入する目的は、妻であれ夫であれ、改姓をした者に強いられる不利益解消のためのものと単純に理解しています。それは、相続や扶養に法的な効果が生じる養子縁組とは全く別の問題です。政治で解決すべき多くのジェンダー問題があることは承知していますが、上の記事の「政治が積極的に取り組んでほしい課題」のグラフにある「ジェンダ-平等(選択的夫婦別姓制度など)」の記載のように選択的夫婦別姓制度をジェンダ-平等の課題の代表的なもののように捉えるのは間違いです。

厚生労働省の調査では、夫婦の96%が夫の姓を選択して届け出ています。制度的には男女平等なのに、なぜ結果的に夫の姓50%、妻の姓50%というようにはならないのか、その理由は、政治で解決すべき法制度の問題ではなく、国民の意識にあると考えられます。

 

 

2.なぜ、多くの夫婦が「夫の姓」を選択するのか。 -法律が変わっても変わらぬイエの呪縛- 

新憲法の施行とともに戸籍にかかる制度も変わりましたが、人々の意識は法制度が変わったからと言って、頭の中(意識)は即座に切り替わるわけではありません。私たち夫婦の世代のように“戦前育ちの親”のもとに生まれた者達はそれを生活の中で実感してきました。例えば、長男は稼業を継ぐのが当たり前と考えていた父親が無断で長男との共同名義で漁船を買い、漁師を引き継ぐつもりのない長男が知らぬ間に借金を背負ってしまったというテレビドラマがありました。私の世代では「あってはいけないことだけどあり得ること」としてドラマに共感していたのですが、少し若い世代が見たならば「あり得ないこと」として捉えていたでしょう。

 

結婚についても同じ事がいえるでしょう。私が結婚した昭和50年代ですら、戦前育ちの親たちは、娘が結婚することを「イエを出ていく。」と表現していましたし、結婚して妻の姓を選択しようものなら、「娘はいずれ戻ってきてイエを継ぐ。」というように勘ぐりも含めて親や兄弟は捉えるでしょうし、近所でも噂されるだろうとのことでした。そのため、農家や商店などで第1子が女(長女)である場合には、女性がイエを引き継ぐ意思がない場合は、夫の姓を名乗らざるを得ないと聞かされました。

 

そして今でも、男性が妻の姓に変わると「養子縁組なの?」とか「婿養子?」といまだに聞かれることがあるそうです。また、勤務先でも、私よりも若い職員同士で「○○くん、養子になったの」とかと噂しているのを聞かされたことがあります。「妻の姓を名乗ること=同時に妻の親の養子になる」という刷り込みはまだあるようです。残念ながら、このような戦前の亡霊に憑依されている人達が、私よりも遙かに若い世代にも、少なからずいるというのが実感です。余談ですが、このことは結婚時の姓の選択に限らず、家庭内での“家事”についても戦前の亡霊に憑依されているのではないかと、現役の子育て世代の人にすら感じることがあって驚きます。選択的夫婦別姓制度を導入しても、夫の姓を名乗る人の割合は殆ど減らないのではないかと言われていますが、ここにその原因の一つがあるように思います。

 

と、ここまで書いたところで、Youtube上で行われた竹田恒泰氏と田村○○氏の対談の情報が入ってきたので、これを聞いてみました。

 結論だけ言いますが、竹田氏は戸籍に関して「夫婦別姓の場合、竹田家の戸籍に入るか○○家の戸籍に入るのかわからなくなる(要旨)。」という戦前の戸籍を前提とした説明をしていました。竹田氏が現在の戸籍制度を知らずにのような説明をしていたのか、現在の戸籍制度を知っていながら敢えて意図的に嘘の説明をやっていたか分かりませんが、田村氏がやんわりと「結婚により新しい戸籍ができる(要旨)。」と竹田氏の「片方のイエの戸籍に入る。」という旨の説明を否定すると、竹田氏はばつ悪そうに自分の言ったことを軌道修正していました。このときの田村氏の話の回し方には、ゲスト(竹田氏)の面子を潰さない“話し方のプロ”としての配慮を感じさせるものがありました。思わず「上手いなぁ」と唸りました。

 

むしろジェンダー平等の問題として捉えるべきは、こうした「女は男のイエに入るもの」という旧イエ制度の呪縛に捕らわれている意識であり、それを利用しようとする反動主義者であって、現在の戸籍制度ではありません。

このように法制度的な問題と社会の意識の問題とを切り分けた上で、法制度については、男女ともに「姓を変更することを法律によって強いられることによって生じる諸々の不利益を解消する。」という視点から運動することで、ジェンダー問題から一線を画すべきでしょう。このように線引きをしないと、選択的夫婦別姓が偏執狂的なアンチフェミニズムの標的にされてしまうように思えます。

 

 

3.選択的夫婦別姓は、自民党憲法改正草案の目指す方向性に合わない。

選択的夫婦別姓に大方の自民党の議員が反対していると聞いて、最初に頭に浮かんだのが自民党の憲法改正草案(平成24年)のことです。既に今までにここのブログに書いたことの繰り返しですが、自民党の政策の多くは平成24年の憲法改正草案を先取りしたものです。自民党によって事実上の憲法改正作業は着々と進められていますが、選択的夫婦別姓制度はこの改正草案の方向性とは相容れないもののように思います。

 

自民党は、憲法改正草案で、憲法第24条に次の1項を入れようとしています。

 

【自民党憲法改正草案第24条1項】

家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は互いに助け合わなければならない。

 

この項は、一見世界人権宣言第16条第3項を踏襲したように見えますが、何よりも許せないことに、世界人権宣言を模倣しながらその主旨を改竄し、まったく正反対のものとしています。

 

【世界人権宣言第16条第3項】

3 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

 

そして、このことから、自民党憲法改正草案では以下の2点を目論んでいるということができます。

① 世界人権宣言では、「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって」と家庭を家族を構成する個人の集合体と捉えているが、自民党改憲草案ではこれを改竄して、家庭を「社会の自然かつ基礎的な単位」と位置づけることで、家庭を構成する個人を家庭に埋没させている

② 世界人権宣言で「家庭は……社会及び国の保護を受ける権利を有する。」とあるのを、自民党憲法改正草案で「家族は互いに助け合わなければならない。」と入れ替えることで、世界人権宣言で社会及び統治機構としての国家に義務付けられた「家庭の保護」を投げ捨て、国家が国民に義務付けるものとして家庭の保護の責任を家族に転嫁している。

 

こうして個人主義を否定し、家長を復活させようとしているのだろうと推察しています。これにより、自助を前提としたイエの延長としての国家、即ち、家族的な“絆”により結合された国家感を押し進めようとしているのではないでしょうか。憲法改正でこうしたことを目論む自民党政権にとって、家庭にあっても個人に基軸をおく選択式夫婦別姓制度は、受け入れ難いものなのかも知れません。

 

 

 

時期的には#MeTooが出てきたあたりからでしょうか、フェミニストの人たちは、性的な要素が絡むと何でも、「ジェンダー平等」という切り口から議論を始めようとする傾向があるように感じています。しかし、選択的夫婦別姓の制度的問題を「ジェンダー平等の問題だ」とか「ジェンダー平等の問題意識に欠けている」というような「ジェンダー問題」に固執した取り組み方をしていると、却って自民党が目論んでいるところから目を逸らされ、また、場合によっては自民党の都合の良いように利用されてしまうような気がします(都合の良いように利用する具体的な例が一つ思い付いているのですが省略します。)。

 

 

 

【参考】

日本国憲法第24条

第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 

世界人権宣言 第16条

1 成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。

2 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。

3 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

 

自民党改憲草案第24条

第24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は互いに助け合わなければならない。

2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。