Berwald : String Quartet No.2 in a-minor
高齢者にとって医師から告げられる余命宣告ほど脅威となるものはない。すべての人間は平均寿命の歳が近づいてくると「少なくとも自分だけはもう少し長く生きたい」と望むようになる。それでもよくよく考えてみれば「あと10数年です」と宣告されるのと変わらないのではないか。それでも「あと半年」と言われるよりはましな気がする。しかし、仮に「あと半年」と言われたとしても毎日の生活を大きく変化させることにはならないだろう。平生の生活を繰り返すことが何よりも至高の愉楽なのだから。
フランツ・ベルワルド(Franz Berwald, 1796~1868) というスウェーデンの作曲家は年代的にはシューベルトと同世代のロマン派初期に属するのだが、生計のため30代からの10数年間は作曲からまったく離れてひたすら色々な職業で働いた。もともと彼の音楽はアクが強く、特異な語法があり、国内では批判され、なかなか認められなかったので、45歳以降はウィーンに移り住んで作曲を再開した。この10年以上の空白ゆえに、後の年代の作風を感じさせるような様相を帯びた気がする。
ここに取り上げた弦楽四重奏曲 第2番 イ短調の曲は、10数年前にある新書版で「彼のクセ強の作風の割にはまともな範囲でうまく収まった秀作だ」と推薦する記事を読んで以来、注目するようになって、時々は再聴もしている。(その書名や著者については今となっては全く思い出せない。)
1849年、53歳の作品だが、実際の初演も楽譜の出版も、作曲後50年以上、没後30年以上経過してからだったので、20世紀になってようやく評価されたということになる。時代に先んじた作曲家だったのだろうか。
初演 1902年10月15日
初出版 1903年 - Stockholm: Elkan & Schildknecht
楽譜は IMSLP のサイトに独ベーレンライター社版のスコアとパート譜が収容されている。
Berwald : String Quartet No.2 in a-minor
Franz Berwald: Complete Works, Vol.11
Kassel: Bärenreiter, 1966
下記のKMSA 室内楽譜面倉庫でもパート譜が参照できる。
Berwald : SQ No.2 a-moll
第1楽章:序奏~アレグロ~ウンポコ・メノ・アレグロ
String Quartet No. 2 in A Minor: I. Introduzione ~ Allegro
Yggdrasil Quartet
アダージォの序奏部から北国の早春を思わせる肌を切るような冷気を感じる静けさ。第1ヴァイオリンの旋律が美しい。
そのまま主部になだれ込んで、生命の躍動を思わせる複数のモティーフが入り乱れる。
主題というよりも多彩なモティーフが次々に現われる。ここでは坂を駆け上っては滑り降りるような動きを感じる。
自然界に潜む野蛮なリズムはむしろ現代風に聞こえる。
次のメノ・アレグロ部分では第1ヴァイオリンによる憂いに満ちたメロディが歌われる。
それは発展して、優しく懐かしいパッセージへと受け継がれる。この変化の多様性がこの楽章の魅力でもある。
第2楽章:アダージォ
String Quartet No. 2 in A Minor: II. Adagio
Yggdrasil Quartet
この曲は4楽章を通して楽章の間に区切りがなく、アタッカで(休まずに)次の楽章に入る。しみじみと歌われる第1ヴァイオリンの旋律も味わい深い。
ピアニシッシモ( ppp ) からいきなりフォルテの荒々しさの叫びに変化するのも自然界の厳しさを思わせる。
(ここでは引用していないが、第1ヴァイオリンの付点休符をはさんだ装飾も印象的だ。)
チェロが心臓の鼓動のように連続するリズムの上を優しく包み込むようなハーモニーが美しい。
第3楽章:スケルツォ、アレグロ・アッサイ
String Quartet No. 2 in A Minor: III. Scherzo: Allegro assai
Fryden String Quartet
いきなり飛びこむスケルツォ楽章はヘ長調の速いパッセージに面食らう。低弦部の刻みに乗って蝶が舞うように進む。
同時代のメンデルスゾーンよりも先を行くような軽妙さと荒々しさがある。
第4楽章:フィナーレ、アレグロ・モルト
String Quartet No. 2 in A Minor: IV. Finale: Allegro molto
Fryden String Quartet
楽章のつなぎ目に変なパッセージが挿入されているが、そのままイ長調のフィナーレに入る。テーマは子供じみたおどけたもので、親しみがある。
このテーマは途中で変容して倍の長さになったりする。楽章としては楽しげに終わる。
*参考Wikipedia:フランツ・ベルワルド
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