Dvorak : Piano Quintet No.2 in A-major Op.81 B.155
常用していたパソコンが急に使えなくなった。息子が見に来て半日かけていじってもダメだった。ここ一週間はパソコンなしの生活が続いた。不幸中の幸いは、外出時用のタブレットが使えたので、完全隔離とはならずに済んだのだが、いかにクラウドとパソコンに日頃の大半の事物を詰め込んでいたかを知って愕然とした。
もう一つの驚きは、断捨離を進めて来たものの、結局それらの物をデジタル化して積み替えただけに過ぎなかったことだった。音楽はCDからストリーミングに変わり、プレイリストの作り放題になった。書物もデジタル化(Kindle化)しただけだとしたら、これはまやかしの断捨離ではなかったのかとつい思ってしまう。
ドヴォルザークは多弁・多作な作曲家だったと思う。若い頃の作品は語りたいことが多く、それを作品に盛り込み過ぎて、ごつくて消化不良になりそうなものが目立った。表現意欲と作曲形態の絶妙なバランスと言うのだろうか、交響曲をはじめ室内楽曲で傑作を連発するようになったのは年齢的に40代以降であり、作品番号としては80台、90台になる。その旋律とリズムと和声の斬新な美しさは聴く者、奏く者双方を魅了し、充足感を与えてくれる。
楽譜は IMSLP にピアノ譜(スコア)および弦パート譜が収納されている。チェコのアルティア(Artia)版が見やすい。
Dvorak : Piano Quintet No.2 in A-major Op.81
第1楽章:アレグロ・マ・ノン・タント
Piano Quintet No. 2 in A major, Op. 81 (B. 155) - Allegro, ma non tanto
Pavel Haas Quartet · Boris Giltburg(Pf)
冒頭のチェロが奏でるゆったりしたテーマは豊饒な牧野を思わせる。30代の頃、まだ弓の使い方が下手で、音を伸ばす個所で弓が足りずに苦しくなって、指導者から注意されたことを今でも思い出す。
続いて弦四部の強奏で、力強い新たなテーマが登場する。ここでは第2ヴァイオリンが主導する。
続く経過句もフォルテッシモで飛び跳ねるようなモティーフになる。
ドヴォルザークの世代にはすでに古風なソナタ形式は形骸化し、複数多種のテーマを次々に盛り込んで絡み合い展開していく。ピアノによる絢爛な三連音符のパッセージにも魅了される。
憂いに満ちた第二主題風のテーマがヴィオラによって奏でられる。まるで上目遣いの恨めしそうな眼差しを思わせる。
第2楽章:ドゥムカ、アンダンテ・コン・モート
Dvořák: Piano Quintet in A, Op. 81 - 2. Dumka (Andante con moto)
Takács Quartet · Andreas Haefliger(Pf)
ドゥムカとは、ウクライナを中心に東欧で歌われている民謡の一種で「哀歌」と訳されている。冒頭のピアノのソロが寂寥感に満ちた心情を表わしている。続くヴィオラの旋律にはスラヴ的な、足を引き摺るような暗さがある。
次の第1ヴァイオリンによるテーマは草原を駆けるそよ風のように優しい。
その動きを発展させたパッセージをピアノが引き継ぐ。
そのテーマはさらに弦の各部に響きあう高まりを見せる。この楽章だけでも十分味わいが深まる。
第3楽章:スケルツォ、フリアント、モルト・ヴィヴァーチェ
Dvořák: Piano Quintet In A, Op. 81, B. 155 - 3. Scherzo (Furiant) (Molto vivace)
Menahem Pressler(Pf) · Emerson String Quartet
フリアント(Furiant) はチェコ独特の民族舞踊の一つで、勢いのある4分の3拍子のリズムに巻き込まれる。途中でヘミオラ風に2拍子で畳みかけるパッセージが出るが、それも元々のフリアントの節回しに含まれるものだという。
続いて現れるチェロの力強いメロディもボヘミアの広がりを感じさせる。
中間部はなだらかなヴィオラの起伏のあるテーマに合わせて、第2ヴァイオリンとチェロが交互にピチカートで合いの手を入れる。
第4楽章:フィナーレ、アレグロ
Dvorak Piano Quintet No.2 in A major op.81 - (4/4)
Panocha Quartet & Andras Schiff(Pf)
フィナーレに多用される速い4分の2拍子。特徴のある華やかなテーマがピアノを中心に各パートで繰り返されて発展していく。
第1ヴァイオリンからそれに対抗するような新しいテーマが出てくる。2つのテーマが絡み合って華麗なアンサンブルに盛り上がる。