【英国歌付き】A.ロンベルク:フルート五重奏曲 ホ短調 作品41の1 | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Andreas Romberg : Flute Quintet in e-minor, Op.41 No.1
 
 型にはまらない珍しい編成ゆえに割を食って見過される作品がある。「フルート五重奏曲」というのがその一つで、ボッケリーニやJ.M.クラウスのように弦楽四重奏曲にフルートが加わる五重奏曲もちょっと大仰な感じになる。フルートの音色の軽さを考えれば伴奏は弦楽三重奏で十分と考えられ、一般的にはいわゆる「フルート四重奏曲」の編成が広く定着したのだろうと思われる。
 

 

 ところがもっとややこしい編成パターンの曲があった。同じく「フルート五重奏曲」なのだが、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ2台、チェロとなっているがゆえに、わざわざヴィオラ奏者をもう一人探さなければならないこともあり、演奏機会が少なく、どうしても見過されてしまう。ハイドンやベートーヴェンと親交があったアンドレアス・ロンベルク (Andreas Jacob Romberg, 1767-1821) は、従弟でチェロ奏者のベルンハルト・ロンベルク(Bernhard Romberg, 1767-1841) と一緒に欧州各地を公演して巡り、人気を博していた。この人はどういうわけかこの変則のフルート五重奏曲ばかり沢山書いていて、後世ではあまり相手にされなくなってしまったのだ。

 作品41の1はフルート向けにしては珍しい短調の曲で思わず耳目を引きつけ、また途中で英国歌 (God save the Queen)が奏されるという意外性もあって注目されやすい。


 

 楽譜は英国HH社の出版譜のほか、IMSLPでも1811年パリのガンバーロ社(Gambalo)が初版と思われる譜面が参照できる。
https://imslp.org/wiki/3_Flute_Quintets%2C_Op.41_(Romberg%2C_Andreas)


第1楽章:アレグロ
Flute Quintet in E Minor, Op. 41, No. 1: I. Allegro

           Brunner(fl), Simcisko(vn), Telecky(va), Cut(va), Alexander(vc)

 冒頭から弦の刻みの中をチェロが半音を引っかけたような短調のテーマを奏で、フルートがそれをフォローする。


 第2主題はのびやかにフルートとヴァイオリンが歌い交わす。


第2楽章:メヌエット、アレグレット・モデラート
Flute Quintet in E Minor, Op. 41, No. 1: II. Minuetto: Allegretto moderato

         Brunner(fl), Simcisko(vn), Telecky(va), Cut(va), Alexander(vc)

 同名調のホ長調に転じて、4分の3拍子の快活なメヌエット。ヴァイオリンがテーマを率いる。フルートは伴奏形。

 トリオ1になるとホ短調に転じ、フルートのソロでやはり半音に引っかけるような音型のテーマを奏でる。


第3楽章:ラルゲット
Romberg: Quintet Op. 41 No.1, III.Larghetto

                     Ardinghello Ensemble:  Karl Kaiser(fl)

 Youtube では最新録音のアルディンゲロ・アンサンブルの音源はこの第3楽章のみ掲載されている。(Spotify では全曲聴ける) 冒頭はフルートが休みで、弦楽だけで折り目正しいハ長調のテーマが奏される。


 中間部に入ると突然、あまりにもなじみのある英国歌が弦楽だけで、まるで変奏のように登場する。冒頭のテーマと雰囲気がよく似ているからかもしれない。
 国歌とは、しばしば人々に厳粛な態度を強要する暗黙の呪文のようなものだと思う。奏される時には、起立し、胸に手を当てて、真顔になり、国家に対する尊厳を表することが多い。この楽章のように意外性をもって登場する場合には実際英国民はどう反応するのだろうか?


第4楽章:フィナーレ、アレグレット・ヴィヴァーチェ
Flute Quintet in E Minor, Op. 41, No. 1: IV. Finale: Allegretto vivace

      V. Brunner(fl), Simcisko(vn), Telecky(va), Cut(va), Alexander(vc)



 表意記号でアレグレット・ヴィヴァーチェとはちょっと意外な表記だと思う。フィナーレでもそれほど速くはない。ホ短調のテーマだからかも知れない。フルートのソロに弦が合いの手を入れる。


 この楽章はロンド風に風合いの異なるテーマが代わる代わる出てくる。次にヴァイオリンが奏でるテーマは譜例では臨時記号になっているが、和声上はホ長調に転じていて明朗だ。

 

 

 

 

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