ヴィオッティ:協奏的四重奏曲 第1番 ヘ長調  WII:13  G.112 | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Giovanni Battista Viotti : Quartetto Concertante in F major, WII:13  G.112


この8月の室内楽の会もやはり全面中止になった。あわよくば奏けるかなと、このヴィオッティの弦楽四重奏曲を用意していたが、当分お預けになった。この曲は数年前に一度合わせる機会があったが、久しぶりに再奏したいと思っていた。

一般的にカルテットをやりましょう、と言ってもその場合は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスというドイツ・オーストリアの大作曲家の曲というのが王道だ。近代フランス物は難物過ぎるし、「ではイタリア物はどうですか?」と言い出しても聞かれた相手は全員「???」という反応になる。

イタリアの弦楽四重奏曲といえば、とりあえずボッケリーニ、またはレア物としてのヴェルディのが思い当たるくらいだが、実はバロック期から古典派へ時代が変遷する間に、イタリアでも弦楽四重奏曲のスタイルが数多く試され、作曲されていたのである。ハイドンがその様式を完成させたという功績はたしかに認めるにしても、ハイドン一人だけで頑張ったわけではなかったのだ。古典派時代でも当初イタリアは音楽先進国の立場にあって、欧州各地にイタリア人作曲家が招聘されて宮廷音楽家や教会の楽長となっていた。

そして何よりも注目すべきは、少年モーツァルトが勉強のためイタリアを訪れ、各地で作曲家たちの作品に触発され、自身最初の弦楽四重奏曲「ロディ」(Lodi) K.80を書き上げたのもイタリアでのことだったことである。以前、パイジェッロの弦四の記事を書いたことがあるが、その曲も当時イタリアでは一般的だった三楽章構成で、モーツァルトもそれらをお手本にしたと思われる。

現在、CD録音が聴けて、楽譜が入手できる弦楽四重奏曲を残していたイタリア人は十数名にのぼる。今回のヴィオッティもその一人で、ここ数年で続々と演奏が出されるようになった。

課題曲は、作品番号無しの協奏的四重奏曲第1番へ長調、カルテットだけの整理番号で13番目で、かなり晩年の1815年60歳での作品である。ヴィオッティはヴァイオリンの名手で協奏曲を29曲書いているので、他の曲もヴァイオリンの独壇場だろうという先入観に囚われそうだが、この協奏的四重奏曲は各パートの見せ場も均等に用意されていて、バランス良く、しかもイタリア人の得意とする「歌い上げ」が随所で感じられるなかなかの名品だと思う。


引用譜例は、イタリアのザニボン社版(Zanibon)の印刷譜で、下記URLの「KMSA室内楽譜面倉庫」でパート譜を参照できる。
https://onedrive.live.com/?authkey=%21ACN8DNizjzp5md4&id=2C898DB920FC5C30%219709&cid=2C898DB920FC5C30


演奏は、最近ヴィオッティの弦楽四重奏曲全集を録音したヴィオッティ四重奏団 Viotti String Quartet のものがYoutubeで聴ける。

 

Quartetto concertante No. 1 in F Major: II. Minuetto più tosto presto
https://www.youtube.com/watch?v=U59QnSuUU-w

Quartetto concertante No. 1 in F Major: III. Andante
https://www.youtube.com/watch?v=pTPj1Vecumg

Quartetto concertante No. 1 in F Major: IV. Allegretto con un po' di moto
https://www.youtube.com/watch?v=GQ8vcLHsWfk


第1楽章 モデラート

 

割合にゆったりしたテンポで主題が第1ヴァイオリンで歌われる。
 

すぐに(①から)第2ヴァイオリンに引き継がれ、そのテーマを少し展開させていく。

 

次にヴィオラが後を受けて短いソロで歌い、再び第1ヴァイオリンに主導権が戻る。このようにまるでパッチワークのように、あるいは短距離リレーのようにバトンの受け渡しが巧みに行われるのも楽しい試みだと思う。他にも細かなパッセージの絡み合いなどもあって、コンチェルタンテの名前に合った構成となっている。
 

チェロにも時々お鉢が回ってくる。こうしたカンタービレの節回しをたっぷり歌わせて貰えるのもイタリア人の特性だと思う。


第2楽章 ミヌエット・ピゥトスト・プレスト

イタリア人の弦四のメヌエット楽章は、テンポがほとんどプレストのように速いものが多い。これはドイツ・オーストリアのメヌエット楽章との大きな違いだ。祭礼の踊り風で、スケルツォのニュアンスに近いのかも知れない。


第3楽章 アンダンテ

2/4の弱起の曲で、可愛らしい変奏曲形式になっている。
 

途中から12/8のパストラーレ風に変わって、チェロの中音域で面々と憧憬の念が歌われる。


第4楽章 アレグレット・コヌンポーディモート

少し活発な動きを含んだアレグレット。細かい下降形の三連符の連続がテーマで始まる。

 

それを受けてチェロが装飾音符交じりの別のテーマで歌い返す。

 

三連音符のテーマは展開しながら四つのパートで互いに掛け合いをしたり、絡み合ったりしながら動いていく。フィナーレにふさわしい盛り上がりだ。