ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第6番 変ロ長調 作品18の6 | 室内楽の聴譜奏ノート

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室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Beethoven : String Quartet No.6 in B♭major, Op.18 No.6
 

思い返せばここ丸2年以上、この曲とはご無沙汰だった。この曲が合奏の場で敬遠されがちな主な理由は、第3楽章の合わせにくさにある。作品18の弦楽四重奏曲6曲は、ベートーヴェンの20代の作曲活動の集大成でもあるが、初期作品の中で名曲とされる第1番へ長調、第4番ハ短調に次いでこの6番が親しみやすい。今回は新年早々、いつも本番さながらの周到さで奏くY氏、百戦練磨のZ氏、謙虚な演奏巧者の I 氏と合わせることができた。曲想が頭に残り、脳内で反芻する曲の一つである。

引用譜例は Imslp のブライトコップ版(Breitkopf & Härtel)を使用。
http://imslp.org/wiki/String_Quartet_No.6,_Op.18_No.6_(Beethoven,_Ludwig_van)


第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ

 快活な上昇志向のテーマが第1ヴァイオリンとチェロの間で対話するように交互にやり取りされる。歯切れよく、快い。


第2楽章: アダージオ・マ・ノン・トロッポ

 古い柱時計のような規則正しさと平穏さを感じさせる愛すべき一章である。拍子記号が2/4だが、せめて4/4で書いてくれた方が音符の奏く長さを感じるので、演奏者にはわかりやすかったかもしれない。


第3楽章:スケルツォ アレグロ

 この曲の最大の難関。リズムが3/4と6/8の間で各声部が交錯する。ベタで書けばどちらでも1小節に♪で6個になるが、リズムを3つに取るか2つに取るかで、体感は微妙に異なってくる。さらにヴァイオリンがシンコペーションで拍頭を消す動きをするため、合わせにくいパッセージとなっている。正直に白状するが、筆者も長年うまく合わせられずに(もちろんメンバー個々の問題もあるが)適当にお茶を濁しながらもひそかに苦しんでいた。アンサンブルがうまく嚙み合ったときには爽快感と達成感がある。


第4楽章:(序奏部分)ラ・マリンコニーア、アダージオ

 表題が「ラ・マリンコニーア」(La Malinconia) となっている。いわゆる「メランコリー」で、「憂愁」というか「感傷的」という意味らしい。「この部分は最大限の繊細さをもって取り扱わなければならない。」という注釈書きをベートーヴェンが書いている。(Questo pezzo ........)
 しかし曲想は、漠然とした不安で追い詰められるような心理状態を、半音ずつ上がるチェロのパッセージでなどで表している。チェロには、歌舞伎の舞台で大見得を切るように、多少ハッタリを効かせて緊張感を高め、劇的効果を生じさせる努力が必要になる。(若い頃はこうした芝居ッ気に思わず自分で吹き出してしまうこともあった。)ロマン主義の萌芽を感じさせる部分である。

第4楽章: (主要部分)アレグレット・クァジ・アレグロ

 それに続く主要部分は、緊張から解き放たれたように、軽快な3拍子が第1ヴァイオリンから始まる。伴奏部の音符♪♩ (タン・ター)のリズムが特徴的だ。