(はじめてこのブログをご覧になる方は、第1話 よりお読みください。)


第119話 変人



「何も特別なことはしてませんよ。ただ、
武さんの今の状況を武さん自身に見て
もらっただけです。」

「はあ。」

「あ、家にこもっているのが悪いとかそういう
ことを言ったんじゃないですよ。」

浅井は、涼子の雰囲気を察して、誤解されないよう
先回りをして言った。


「じゃなくて、彼そのものの状態を見えるように
してあげただけなんです。」

「見えるように・・・ですか・・・。よくわからないの
ですが、いったいどういうことですか?」

「彼自身の状態を絵に表して見せたんですよ。」

浅井があまりにも突拍子もないことを言い出すので、
涼子は、浅井のオフィスに来たことを後悔しはじめていた。

「やっぱりこの人、変わっているだけなんだわ。」

まさか涼子は、その後、この“変人”に師事することに
なるとは、このときは夢にも思わなかった。


続く・・・・・・

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第118話 狭いオフィス



「一度、浅井さんのオフィスに伺って、お話を
伺いたいんですけど、お時間とって頂けませんか?」

自分が関わってもダメだったクライアントにいったい
何があったのか、どうしても知りたかった涼子は、
浅井にどうしても話を聞きたかった。

「いいですよ。ご都合を教えてください。」


あっさりとアポを取れた涼子は、翌日、
浅井のオフィスに来た。

8畳の広さしかないワンルームマンション。
浅井のオフィスは、あまりにも狭く、
明らかにたまっていると思われる書類の山が
二つ三つあり、お世辞にも仕事ができそうな人が
働いているようには見えなかった。


「いらっしゃい。今日はどうしました?」

浅井は、くったくない笑顔で涼子に話しかけた。

黒いスーツに身を包んだ涼子は、
真剣な表情で単刀直入に切り出した。

「武さんが急に前向きになった理由が知りたくて
伺いました。いったい武さんに何があったのか
教えて頂けませんでしょうか?」

「何も特別なことはしてませんよ。ただ、
武さんの今の状況を武さん自身に見て
もらっただけです。」


続く・・・・・・

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第117話 エリートの疑問


「斉藤さん、武くんのことなら、私が相談に
のることになりましたので、心配には及びませんよ。」

涼子は、注意深く浅井を観察した。

無精ひげを生やし、ゆるんだネクタイの結び目から
見える、Yシャツのはずれた第一ボタン。
一見、仕事ができそうな男には見えない。


「と言いますと?」

「さっき1時間くらい前に、武さんとお話して、
前向きにチャレンジしてみるってことになったんです。
ね?武さん。」

武は、黙ってうなづいた。

(施設NO.1の就職率の私ですら、
何回話してもダメだったのに、いったいなにが
あったのかしら。)

涼子は、あごを人差し指でさわった。
それは、わけがわからないことに遭遇した
ときのクセなのだ。

「・・・それはよかったです。武くん。
がんばってね。」

そう言いながら、涼子は、仕事が楽しくなるコンサル
タントを名乗る怪しい男に興味を引かれるのを止める
ことはできなかった。

そうなると、涼子の出る幕はない。
間もなく武の家を後にした。


それから、数日後・・・・・・

涼子は、浅井の名刺を取り出し、どうしても
武に何が起きたのか知りたくて、電話の受話器を
にぎった。

続く・・・・・・