(はじめてこのブログをご覧になる方は、第1話 よりお読みください。)


第79話 失恋の痛み


「・・・わかりません。」


一瞬、彼女はまるでケガした子犬のような目をした。

何か思い出しでもしたのか。


動物が、こころ傷ついて痛がっているのって見た

ことあります? 落ち込んでいるライオンとか。」


「・・・ないです(苦笑)。」


「でもケガして痛がっている動物は見たことあります

よね?」


「それならあります。ケガを負った動物は痛そうに

します。」


「そうですよね。この『傷』と『痛み』の関係ってなんだと

思います?」


「動物だと、痛みを感じることが、何かしら生命の危機を

知らせるシグナルみたいなものになってるように思い

ます。ということは、人間が、こころが傷ついて痛いっていうのは・・・」


「というのは?」


こころの危険を知らせるシグナル、でしょうか?」


「うん、いいですね。動物は、身の危険に対して痛み

を感じて危険を回避し、人は、身の危険だけでなく、

こころの危険に対しても、痛みを感じることで危険を

回避しようとするのかもしれませんね。」


「そんな気がします。」


「そして、一度味わった痛みは忘れないのです。

さて、それでは一般的に傷つくと言うと、なにが

思い浮かびますか?」


「・・・失恋、でしょうか(苦笑)。」


「うん、僕もです(笑)。好きな異性から別れを

告げられる。つまり、好きな人を失うわけです。」


「はい。昨日までそばにいた人がいなくなるのっ

て、すごく寂しいですよね。楽しかったときのことを

思い出したり、フラれた原因とか泣きながら考えたり・・・。」


「そうそう。僕もいろいろ反省したりしたもんですよ。」


「ええ、私もです。だから、次に付き合った人

には、二度と同じ失敗をしないようにと気をつけます。」


「うん、わかります。同じ辛さを味わいたくないです

からね。痛みは忘れない。


「はい。」


続く・・・・・

第78話 本来持っている力


「開き直れた?」


「はい!そうみたいです。100パーセントと

いうわけではないですけど、ずいぶんラクになりました。」


というわりには今ひとつ、笑顔が出てこない。


「それは、よかった。ところで、水島さん、あなたすごいですよ!

僕がお願いした宿題は、ただ自分の弱いところやコンプレッ

クスを書き出して考えてみることだったんです。」


「ええ。それが・・・?」


「なのに、あなたはそれ以上のこと、実は、あとで

教えようと思ってたんですけど、『自分を客観的に

見る』ということを、教わる前にやってしまった!

うん、すごい!この『客観的』というのがすごくすごく大切なんです。」


「はあ。」


「ものごとを自分の中からしか見ないと、どうし

ても主観的になってしまい、決めつけてしまう

傾向が強くなります。すると、本質的な部分と

いうのが見えなくなってしまうんですね。


だから、ときには自分の主観を離れて、客観

的に見ることが大切なんです。そうすれば、

ものごとをより正しくとらえることができる。」


「そうなんですか。」


「これを私は、『客観視』と呼んで、私の教える

ことの中でも、かなり重要なテクニックとして

位置づけているんです。だから、意識せずに

冷静に自分を客観視できたあなたはすごいですよ。」


「そんなにほめられると、なんだか居心地悪いです(笑)。」


「いえいえ、あなたには、本来、問題を解決

する能力があるんです。でも、何かあった

ときに、マイナスに考える自分が出てきて、

解決できるものを解決できなくしているだけ

なんですよ。」


「そうでしょうか。ええ、でも少し自信がわい

てきました。」


少しすっきりした顔で彼女が僕の顔を見た。

うん、なかなかいい顔だ。


「そう!自信を持ってください。それでは今日の

テーマ、いきますよ。ちょっと考えてみて欲しい

んですが、なぜ人のこころは傷つくのでしょう?」


続く・・・・・・

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第77話 宿題


カウンセリング第3週目。

ちゃんと時間通りだ。遅れないよう、早めに来てくれているようだ。
今日も習い事の帰りか、花の大きな包みを抱えている。

花の明るさとは対照的に、彼女自身はなんとなく暗いイメージだ。


「こんにちは。前回の宿題はやってみました?」


「はい。コンプレックスの修理ですよね。私なりに

いろいろと考えてみました。」


まじめだ。言われたことはきちんと守る。


「どんなことを考えました?」


「私、暗いし人見知りだから、その場その場に

なかなか溶け込めなくて。そんな自分がキライ

だったんです。でも、学生のころ、仲のよかった

友達に、『癒し系だ』って言われたことがある

を思い出したんです。」


少し恥ずかしそうに彼女が言った。


「私もそう思いますよ。」


これは素直な感想。暗いというのではなく

大人しすぎるというのが私の意見だ。


「え?ほんとですか?えっと、だから、暗いって

決めつけるんじゃなくて、自分を客観的に自己

分析してみたんです。」


「うん、それで?」


「ノートに書き出してみました。見ていただけますか?」


そういうと、足下に置いたバッグから薄いブルーのノートを取り出し、僕の前に広げた。


「ふむふむ。・・・長所は、やさしい、大人しい、

弱い人を助けたい気持ちが強い、人の痛みが

わかる、人のことを気にする、礼儀正しい。」


「恥ずかしいですね、自分で長所を言うのって。」


「いえいえ、客観的に自分を見るってとてもいい

ことですよ。そして、短所は、小心者、人のことを

気にしすぎる、自信がない、口下手、気が弱い、

グループに入っていけない、内向的。」


「どうでしょう?」


「合ってるんじゃないですか?(笑)」


「よかった、のかな(笑)。それでですね、書き

出した長所と短所をよく見てみたんです。

そしたら、短所と長所って表裏一体なんじゃ

ないかなって思えてきて。」


「ほう!」


「もしかして、短所なくしたら、長所も消え

ちゃうんじゃないかな、と。」


「うんうん。それで?」


短所だけど長所でもあるのなら、なにも

悲観することないんじゃないかって。

このままでいいじゃないって。」


「開き直れた?」


「はい!そうみたいです。100パーセントと

いうわけではないですけど、ずいぶんラクになりました。」


というわりには今ひとつ、笑顔が出てこない。


続く・・・