書いた本人もすっかり忘れていたのだが(笑)、そろそろ続きを書こうと思う。
前回記事『今に生きる大口真神伝説 ①』はこちら。
【上田公長筆「月に狼図」江戸時代】
ニホンオオカミとは一体どのような動物なのだろうか。
これほど有名な存在であるにも関わらず、これほど謎の多い動物もそうはいないだろう。
現在でも生存説や目撃談が根強く残っているのだが、
そもそも本物の生きたニホンオオカミを見た人間などこの世に存在しないのだ。
ニホンオオカミの正式な記録は明治38年(1905年)1月23日、
奈良県東吉野村鷲家口での捕獲記録を最後に途絶えている。
(因みに明治38年といえば日露戦争の真っ只中だ)
それから既に107年という長い年月が経過しているのだ。
無論、現在は絶滅種とされている。
だが、記録が途絶えているからと言って、明治38年以降は一切存在しなかったという事にはならないし、
その後も何処かで細々と生息し続けていたとしても、誰もそれを否定する事は出来ないだろう。
だが、ニホンオオカミが存在したという重要な証である標本などの資料は極端に少ないのが現状だ。
全身剥製標本は国内に3体、国外に1体(タイプ標本)、世界にわずか4体しか存在しない。
当然だが、全て100年ほど前に製作された物ばかりだ。その完成度はお世辞にも高いとは言い難い。
毛皮標本も国内に8例ほど。骨格標本はそれなりにあるようだが多くはないだろう。
私が調べた印象では詳細な文献も絵画も多いとは思えない。
これはニホンオオカミの保護や研究がいかになされて来なかったか、という事に他ならない。
しかし、だからこそ謎が謎を呼び、好奇心や探究心を掻き立て、
さらに山の神として祀る風習が残っている事などから、
人々の心を惹き付けてやまない「神獣」へとその存在を昇華させたのであろう。
ここで定説となっているデータを紹介する。
脊椎動物亜門哺乳類綱ネコ目(食肉目)
イヌ科イヌ属に属する。
大陸のハイイロオオカミの亜種(Canis lupus hodophilax )であるとする説と、
独立種である(Canis hodophilax)とする二つの説が存在する。
イリオモテヤマネコの存在を証明した事で知られる日本の動物分類学の権威、
今泉吉典氏は独立種であるとの見解である。
体長95~114㎝、尾長約30㎝、肩高約55㎝、体重約15kg、が定説となっている。
タイリクオオカミの大型固体が体長150㎝を越える事を考えると、かなり小型のオオカミだと言える。
大きめの四国犬くらいだと思えば良いだろう。
【ニホンオオカミ剥製標本 ライデン博物館】
オランダのライデン自然博物館が所蔵するニホンオオカミの剥製がタイプ標本
(その種を定義する為の基準となる標本)なのだが、その頭骨のサイズは全長186mmだという。
ちなみにタイリクオオカミは240~280mm、四国犬の牡の平均が195mmである。
新種記載時の剥製標本や頭骨が小型であったことから、
ニホンオオカミは世界最小のオオカミであると定義付られた。
【ニホンオオカミ骨格標本 国立科学博物館】
ところが、その定説を覆すような標本も存在する。
それは高知県仁淀川町の古い民家で発見されたニホンオオカミの頭骨だ。
それはなんと全長が236mmもある。
さらに北九州で240mmの頭骨が発見されたという話もある。
これは四国犬を凌駕しタイリクオオカミにも迫る大きさだ。
高知県内では寒系のエゾオオカミであると鑑定された縄文時代の
巨大な頭骨化石が出土していることから、その末裔ではないか?とする説もある。
だがこれらの頭骨はニホンオオカミと鑑定されたものであり、
発見された高知県の民家に伝わる記録では天保8年(1837年)に火縄銃で射殺された固体のものだ。
その証拠に弾痕も残っている。
ベルクマンの法則に当てはめてみても、日本の南部に位置する四国や九州で
これほどの大型固体が存在したことは不自然極まりない。
だとすれば、ニホンオオカミは定説ほど小型なオオカミではなかったのではないか?
という疑問が湧いて来る。
何しろ剥製標本がたったの4体しか存在しない中で新種記載された動物だ。
現存する標本も極端に少なく、分類学的な決着もついていない。
そして形態すらもはっきりしない。詳細な記述や絵も少ない。
そもそもオオカミという動物は非常に警戒心が強く、生態を観察すること自体が難しいと言われている。
草原や森林に生息する大陸のオオカミですらそうなのだ。
ましてや日本の深い山岳地帯に生息したニホンオオカミなど、
ほとんど目撃される事は無かったのではないか?とも言われている。
だから詳細な記述や絵も少ないのではないだろうか。
冒頭でニホンオオカミは謎の多い動物だと書いたが、謎が多いどころか、
生物学的にはほとんど何も分かっていないという事なのである。
種の基準となるオランダのタイプ標本が本当にニホンオオカミであるのかを疑う学者もいる、
というほど謎だらけなのだ。
そして、その謎を更にややこしくする問題がある。
「山犬(ヤマイヌ)」と「狼犬」の存在である。
次回はそのヤマイヌ、狼犬との関係、そして絶滅の謎について触れたいと思う。
つづく。






























