美術作家 肥沼義幸の制作日記 -979ページ目

Brain Box

11月25日から1週間、ライクス・アカデミーでの
オープン・スタジオがあるのですが、現在その準備を
たんたんとこなしています。

毎年、ライクスのアドバイザーがキュレーションして展示
をします。今年はそれに合わせて各作家が制作する上で
どのような映像媒体におけるインタビューやプレゼン
テーションから、インスピレーションを受けたり、または
作品との関係性があるのか?を映像から探ってみようとの
事でした。各自、5分以内の映像をYou tubeなどから探し
てきてオープンスタジオの期間にプロジェクト・ルームを
使って上映するのです。
今年のキュレーション担当アドバイザーの
HansとRoyはそれを「Brain Box」と決めました。

この話しを聞いた時に、これは自身のペインティング
プロセスをもう一度考えるいいチャンスだと思いました。
即決で僕は世界的に有名なクライマーの山野井泰史さん
のインタビューパートを選びました。



山野井泰史さんと妻の妙子さんは2002年チベット
ギャチュンカン北壁 7952mに挑み、泰史さんが登頂。
しかし下山中に雪崩にあってしまい、クライマーの命で
ある手の指と足の指を凍傷により失ってしまいました。

クライマーはアタック(山頂を目指す最後のプロセス)
をする前に何度もイメージトレーニングを繰り返し、
どのようなルートを切り開いて頂上を目指すのかを
考えます。これは、画家にとっての下絵、習作とも
言えると思います。

しかし、本番のキャンバス(タブロー)に挑む時
例え、何度も頭の中で構図、筆跡、色彩を描いても
必ず完成までに1回または2回、事件が画面上に起きるの
です。僕はこれを「絵画の遭難」と呼んでいて、
ここからが絵画が死ぬか生きるかの分かれ道だと思って
います。もちろん失敗してしまう事がほとんどですが、
そのような状況下、試されるのは日々の経験と偶発性を
味方し、乗り切るための精神力かもしれないと思います。

また、この映像は拘束(失う、または制限がある)された
状態での制作は、マシュー・バーニーの「拘束の
ドローイング」とも少し被るのですが、僕が日常生活に
おいて、もし何かのアクシデントで利き腕や目を失った
場合を想定した時、果たしてどう描いて(生きて)いく
のか?プロフェショナルな登山家にとって指を失う事と
芸術家にとっての手と目(脳)の関係性を再度、考え直し
ました。

$美術作家 肥沼義幸の制作日記