自分でもちゃんと説明出来ているのか心配な回。大丈夫か?

🔵傾斜装甲や曲面装甲


第二次世界大戦で「砲弾の革新」といえる弾が活躍することになる。それが成形炸薬(HEAT弾)である。

それまでに、装甲の素材の作り方や、戦車の組み立て方に工夫が施され、さらに「傾斜装甲」「曲面装甲」が考案された。

傾斜装甲についてはT-34の時、語ったから、読んで♪⬇



曲面装甲については、例を上げると砲塔がお椀型の丸みを帯びた装甲である。コレは鋳造法の強み(溶かしたドロドロの鉄を型に流し込んで、成形する方法)である、「自由な形に作れる」を活かした方法だ。装甲を曲面仕上げにすると、弾が真正面に直撃する確率を大幅に減らし、浅い角度で当れば弾の先端を滑べらせ、あさっての方向に弾き飛ばす事も期待できた。

だがこうした工夫で防御は全て大丈夫!…という訳には行かなくなった。成形炸薬弾(HEAT弾)が戦場に登場したからだ。

その成形炸薬弾の対策として「中空装甲(スペースドアーマー)」が考案される事になるのだが、スペースドアーマーの説明の前に成形炸薬弾の性質と弱点を説明しておかないといけない。


🔵成形炸薬弾(HEAT弾)について


成形炸薬弾(HEAT弾)について以前ブログに書いたので紹介⬇。先ずは読んで欲しい。同じ説明をまた書くのは嫌なので。
 


読んだ?読んだ?

だがこの説明。まだ「成形炸薬弾について、およそ7割」しかしていない。


実は説明していない部分の説明が、結構面倒だからだ。しかし説明していない残りをここらで消化していかないと、中空装甲の構造の説明が理解出来ない。

というわけで残りの3割の内、「約2割」の説明に入る。(残り1割はまたあとで。残り1割もまた、説明が面倒なのだっ!)



🔵成形炸薬弾の起こす現象の「誤解」と、成形炸薬の効果を無効にした「空間」

発見は偶然だった。それは大戦時、当時のドイツの新鋭戦車「パンター」に取り付けられ、ドイツ軍人が「シュルツェン(前掛け)」と呼んだ、側面の追加装甲で起こることになる。

この頃のドイツ軍の戦車はソ連軍の歩兵がぶっ放す「対戦車ライフル」が放つ徹甲弾に悩まされていた。

草むらや物陰に潜むソ連軍対戦車ライフル小隊は、通過するドイツ戦車を待ち伏せ、戦車を指揮する車長が頭を出していたら車長を、あるいは操縦手を。それが出来なければ、対戦車ライフルで戦車の起動輪などを破壊して、戦車を擱座(かくざ 動けないようにする事)させていた。

このソ連のライフル小隊の放つ弾や、従来のAP弾(徹甲弾)などに悩まされたドイツ軍は、履帯部に「シュルツェン(前掛け)」と称した薄い鉄板(防御板)を配置。起動輪を鉄の板で隠した仕様の戦車を現場に送り出す。


⬆側面にシュルツェンを取り付けたⅣ号戦車

こうすれば撃たれても、このシュルツェンで弾の威力の減殺や弾の軌道をずらし、起動輪の破壊は防げるはずだ。と、目論んで新型のパンター戦車や、追加生産分のⅣ号戦車などに取り付けたわけだ。


実際にシュルツェンはソ連軍ライフル隊からの攻撃による被害も、またロケット弾による被害も軽減したのだが、何より驚かせたのは、HEAT弾の直撃を受けても当たった場所がシュルツェンだと、車両本体の被害が軽微で済んでいるという現場からの報告が相次いだ事だ。

ただの薄い鋼板がHEAT弾に優るわけがない。でも事実、薄い鋼板が戦車本体を守っている。

その理由を検証した結果、「シュルツェンと本体の間にある空間」が、爆発するHEAT弾による効果を大きく削いでいた事が分かるのだ。


🔵HEAT弾による貫通の仕組と誤解


HEAT弾が標的に当たると、虫眼鏡が太陽のエネルギーを一点に集め、燃えるものが引火するほどの熱を作り出すように、凄まじい爆発のエネルギーが1つの方向と1つの点に集束し、突き進む。その集中した爆風の速度はマッハ20以上。これはHEAT弾に仕掛けられた爆発が一点に集束するように工夫した円錐形の「コーン」がまるで「爆風の虫眼鏡」のような効果をもたらし、さらに爆発で発生し、コーンによってエネルギーが一方向・一点に集められ集中。これにより『超高圧』が弾と装甲の接触面で発生し、超高圧によって接触面の金属(装甲)は『液状化』。穴が発生し、その穴は装甲を破るまで突き進む。 このときコーンの素材である金属が溶け、これが標的の戦車の装甲をマッハ20越えの速度に乗って突き進む。と、同時にエネルギーを受けている側の装甲の金属も溶けてコーンの金属と混じり、装甲に坑を穿つパワーとなって突き進む。

このマッハ20以上の速度が起こす、超高圧を作り出しているエネルギーと溶けた金属を併せて「メタルジェット」という。

このメタルジェットが標的の戦車の装甲をも溶かし、この溶けて液状化した装甲(鋼鉄)をも「メタルジェットの一部」にし、狙った目標の装甲を超高圧下で溶かし装甲に穴を穿ちながら突き進む。この現象を「侵徹(しんてつ)」という。




HEAT弾(成形炸薬弾)の基本的な構造図


メタルジェットの発生の仕組みと、メタルジェットによる装甲の貫徹に至る概念図


これが成形コーンの現物。円錐形の漏斗状の物体


この成形コーンを……


装薬を一杯詰めた弾体に蓋をする形ではめる


ここでよく起こる誤解は「メタルジェットとは金属が溶けるぐらいだから灼熱のジェットであろう。」……というものだ。

確かにメタルジェット発生時、金属は液状化しているのだが、例えば鉄の融点は約1500℃なんだが、だからメタルジェットも1500℃で、突き抜けたメタルジェットは中にいる戦車兵達を、その灼熱で殺傷する……という訳ではないのだ。


標的の車両の装甲に穴を穿(うが)つ超高速のジェットの噴流が、装甲に接触して穿つ穴の中で起きていることは「超高圧の世界」であり、この超高圧の中では金属は本来、溶ける温度である融点より、遥かに低い温度で「液状化する(溶けてしまう)」のだ。

そしてこの成形炸薬弾におけるメタルジェットの噴流による効果が最大限で発揮される条件は目標の装甲そのものに、正対(真正面)で接触。超高圧のメタルジェットで穴を穿ち、出来た穴の中で超高圧状態が維持される状況で、メタルジェットは維持され、穴を穿ちながら突き進む。ということだ。

そして、突き進むメタルジェットが穴を穿ちきり、標的の車両の室内に飛び込んだ瞬間、超高圧の状態から解放され、溶けたメタルは一瞬で元の個体の金属に戻り、メタルジェットの現象は消滅するものの、猛烈な爆風が標的車両の密閉された装甲車両の室内に飛び込み、凄まじい爆風に乗っている固体に戻った金属で室内の人員や機器を破壊。そしてその後すぐに車内に殺到する熱風が、車内に残っている弾を飛ばす装薬(火薬)の引火を誘い、火薬庫が誘爆する。


だが、くどいようだが火薬が引火する程の熱が発生するとは言え、メタルジェットの熱そのものは金属をも溶かす程の(鉄なら1500℃以上)高熱ではない。金属が溶けている(液状化している)のはあくまで「超高圧状態の中にいるから」だ。ここまでがメタルジェットの全体のおよそ9割の説明である。

(残り1割はまたあとで)


この現象がHEAT弾が装甲に着弾してから貫通まで、目の瞬(まばた)きよりはるかにはやい、一瞬より短い時間内で起こる。



🔵そして生まれた「中空装甲(スペースドアーマー)」


では、どうやったらこのHEAT弾が巻き起こす効果から防御が出来るのか? 防御方法の答えは既に出ていた。シュルツェンである。シュルツェンを取り付けた戦車の状態は、第一の装甲(シュルツェン)➡空間➡第二の装甲(本体車両の装甲)の順になっている。

メタルジェットはHEAT弾が最初に直撃した装甲のみに発生する。

つまり第一の装甲➡空間➡第二の装甲の並びで、第一の装甲にHEAT弾が接触した場合、HEAT弾の効果の殆どは第一の装甲にのみ働く。

何故なら、第一の装甲と第二の装甲の間に「空間」があるからだ。

メタルジェットは接触によって発生した「穴の中で作り出された超高圧状態の中」で生まれるもの。だから、その次の空間に飛び出すと、マッハを軽く越える凄まじいジェットの爆風は、空間に飛び出した瞬間に四方八方に拡散。あっと言う間にメタルジェットの現象は減殺・消滅してしまい、第二の装甲に穴を穿つ力を失うのだ。

これがシュルツェンがHEAT弾を防いだ時に起きる現象であり検証の結果、この仕組みが解明された。


「ならば、シュルツェンを取付けた時みたいな、装甲➡空間➡装甲の二重構造を最初から戦車に組み込めばいいじゃん。」

…で生まれたのが「空間装甲(スペースドアーマー)」である。


⬆空間装甲を組み込んだ砲塔のイメージ図


このアイデアは良いが、車体全部を二重にするには手間がかかるので、この方式を採用した戦車の多くは、一番敵の砲弾を受けやすい砲塔のみに採用した。

それよりは、砲塔や車体の周りを鉄板で取り囲むように取り付けるほうが工作は遥かに楽なので、結局シュルツェンの様式ほうが活用された。


⬆車体側面に鉄板を取り付け、スペースドアーマーにし、HEAT弾対策をしている装甲車。



⬆写真に表示されている1番が徹甲弾(AP弾)貫通で出来た穴。写真中央付近の3番(3に見えないだろうが)に相当する小さな穴が成形炸薬弾による貫通痕である。一見、徹甲弾の方が貫通したら車内の戦車兵が酷い目に会いそうだが、貫通してしまえば、徹甲弾・成形炸薬弾(HEAT)、どちらも同じ。戦車兵の運命は地獄となる。