今回は「運動エネルギー弾より面倒そうな」科学エネルギー弾の話。面倒だわ〜



🔵科学エネルギー弾とは


科学エネルギー弾とはそもそもは、砲弾内に詰められた「炸薬」の爆発エネルギーによって装甲を貫徹(打ち破り)するものだった。


だが、戦車の急速な重装甲化により、炸薬のエネルギーだけの打ち破りは困難になる。


だが、炸薬の質と量が多ければ、また敵車両の装甲が薄ければ貫徹は可能だし、貫徹出来なくとも炸薬による爆発で一定のダメージを与える事が可能で、普通の榴弾でも大口径砲が放つ大型榴弾ならば、戦車に大ダメージを与え、砲塔の回転部に歪みを生じさせ、砲塔の回転を不可能にさせることも起こせる。



例えば第二次世界大戦の戦訓では、軽戦車の砲塔部に、105mm級の榴弾が直撃すると、砲塔基部の回転部が歪み、砲塔が回らなくなっている。


より大口径の榴弾直撃では、砲塔そのものがズレたり、装甲の接合面が剥がれたりしている。


あの「無敵戦車」とまで言わしめたティーガーⅠ型戦車ですら、大口径榴弾の衝撃で「駐退復座機(砲弾発射時の反動を緩和するサスペンション)」が破損し、戦闘能力を喪失させた例が報告されている。


それに榴弾は敵兵が潜む陣地やビルなど構造物破壊には何より有効であるので現在でも榴弾は使われている。


なので前回紹介した徹甲弾(AP)に代表される運動エネルギー弾だけでなく、榴弾(HE)に代表される科学エネルギー弾にも、対装甲用の弾種が多く存在する。



🔵何と言ってもHEAT弾



対装甲用の科学エネルギー弾の決定版と言うべき弾種は「成形炸薬弾(HEAT)」だろう。


これは1880年にアメリカのチャールズ・モンローが発見した物理的原理、名付けて「モンロー効果」に1920年にドイツのエゴン・ノイマンが発見した「ノイマン効果」が加わった「モンロー・ノイマン効果」に基づいて開発された科学エネルギー弾だ。



榴弾内に充填された炸薬の先端部に漏斗状の窪み(成形コーン)状の空間を設ける。その窪みの内側は金属製の薄い内張りが施されている。炸薬の爆発が起こると、窪みの円錐の構造が爆発エネルギーをレンズのような働きをし、エネルギーが一点に集中(集束)し、漏斗の空間の底の位置と対象の位置の一点に炸薬のエネルギーが集中する。


要点は爆発の場合、そのエネルギーは爆発点を中心に四方八方に拡散するが、成形炸薬弾の爆裂のエネルギーの殆ど全てが一方向に集中して進む(指向性)事だ。



この一点に集中した炸薬のエネルギーが装甲を激しく溶かし、穴(穿孔)を穿(うが)つ。これを「メタルジェット」という。このメタルジェットと、集中した爆発の凄まじいエネルギーにより、敵車両の装甲を融解しながら、メタルジェットは敵車両の室内に殺到。敵車両内の機器破壊と兵員を殺傷する。(融解された装甲の金属もメタルジェットの一部となる。)


このHEAT弾による集束した爆発の速度はマッハで約20〜24。


マッハ1が時速約1225km。秒速約340m。(高度0m 気温15℃の時)


ちなみに現状迎撃が困難と言われる「極超音速ミサイル」の速度がマッハ5以上なのだから、HEAT弾の爆発による威力が如何に凄まじいか分かると思う。



取り敢えずHEAT弾の説明、特にメタルジェットに関してはまだ説明不足でHEAT弾の全ては語っていない。(メタルジェットは溶けた金属の事だから物凄く熱い。……て訳ではないんだよなぁ…)が今回はここまでとする。

(長くなるんだわ。コレはコレで)

モンロー・ノイマン効果が起こるHEAT弾が起こす穿孔の図



HEAT弾の発明は、砲弾だけに留まらず、小銃用擲弾(てきだん)や対戦車ロケット弾、そして誘導弾(ミサイル)などに広く導入されている。的確に当たれば速度に関係なく敵車両の装甲を貫けるのだから、大掛かりな装置は必要なく、歩兵が持てる発射装置が作れ、歩兵1人で敵戦車を破壊も可能となったからだ。



成形炸薬(HEAT)弾には運動エネルギー弾に求められる「硬さ・重さ・弾速の速さ」などは、身も蓋も無く言うと必要ない。威力は詰められた「炸薬の性能と量」が全てを決める。



とはいえ動く戦車や車両に当てるを考えるのなら、弾の速度が遅いのはあまり良くない。ミサイルならまだしも、狙いを付けた場所には既に敵は動いて居らず。になるからだ。こうなると未来の敵の位置を予測しての「見越し射撃」が必要になるのだが、弾速が遅いと見越しする度合いが大きくなり、敵車両の未来の位置の予測が難しくなるからだ。



だから砲弾やロケット弾の弾速は速い方が良い。

だが、敵の装甲の貫徹力。コレに関してはHEAT弾に速度は関係はないのだ。




🔵現在の科学エネルギー弾の弾種


①成形炸薬弾(HEAT)

呼び方は「ヒート弾」

構造と効果は前述の通り



②粘着榴弾(HESH)または(HEP)


「ヘッシュ」または「ヘップ」と呼ばれている。炸薬が粘土状にされていて、命中すると、弾殻(容れ物)が潰れ、中の炸薬が敵車両の装甲に炸薬が塊のようにへばり付く。そこで発火・爆発すると、例えるなら装甲に大型ハンマーを押しあて、その押しあてたハンマーに上から別のハンマーを振り下ろし、叩き付けた時のような効果が発生する。


つまり、装甲に押しあてたハンマーの断面積にだけ、巨大なエネルギーが集中する。


これにより、敵車両装甲は激しいエネルギーで歪み、破断・粉砕が発生し、実際には分厚い装甲の内側が破断と飛散を起こし、飛び散った破片が室内の機器を破壊、乗員の殺傷を起こす。


効果は高いが、最近の装甲の進化で以前よりは効果は落ちている。だが対物破壊には今でも大変有効な弾種だ。



③安定翼付成形炸薬弾(HEATFS)


成形炸薬弾は回転してはならない。

回転したままの命中はメタルジェットが分散してしまい、その効果が低下してしまう。


このため成形炸薬弾の砲弾は弾を回転させる「ライフル砲」向きではなく、弾を無回転で発射する「滑腔砲(かっこうほう)」が向いている。


だが無回転の発射は弾の直進性を損なうので、HEAT弾に安定翼を取り付けた滑腔砲用のHEAT弾、HEATFS弾が開発された。



🔵タンデム弾の登場


HEAT弾の最大の問題は「敵車両の装甲の構造」である。


敵車両の装甲がグラスファイバーなど、非金属な物などを使った「複合装甲」や装甲が二重で、間にワザと空間を設けた「空間装甲」だったりすると、たとえ弾が直撃しても穿孔は起きない。


空間装甲だと当たったHEAT弾は最初に直撃した装甲には穴を開けられるが、次の空間によって穿孔のエネルギーは分散してしまい、その次の装甲は貫けなくなるのだ。



そこでHEAT弾を2つくっつけた「HEATのダブル構造」にした「タンデム弾」が作られる。これで1つ目のHEATが外側の装甲に穴を開け、空間装甲を通り抜け、(あるいは複合装甲を貫通し)2つ目のHEATが2つ目の装甲に直撃し貫通。内部破壊の役目をする。つまり1つ目のHEAT弾は「捨て石」でその捨て石が開いた道を2つ目のHEATが通り、敵の装甲を貫く仕組みだ。


最近ではタンデムではなく3つのHEATをまとめた「トリプルHEAT弾」も存在しているという。


タンデム弾の構造