米国の歴史学者、ハワード・ジン氏が亡くなった。
氏は、公民権運動を支援し、ベトナム戦争・イラク戦争等への批判的立場を貫いて、市民運動に積極的に参加してきた人物でもある。
私たちは、尊敬すべき知識人を、またひとり失った。
ジン氏の訃報は数日前に海外紙を通じて知っていたのだが、日本のメディアがほとんど報じないのに驚き、ここに書いておくことにする。
ハワード・ジン氏のウェブサイト には、追悼記事リンクが多数。
New York Daily News2010年1月29日付記事 には、ベトナム反戦行動で逮捕される若き日のジン氏の写真が載っている。
私の手元には、1966年8月11~14日に東京で行なわれた「ベトナムに平和を! 日米市民会議」の記録がある(雑誌『文芸』1966年10月号)。小田実氏ら「ベトナムに平和を!市民文化団体連合」の呼びかけにより開催された会議で、ハワード・ジン氏もここに参加している(なお、ベ平連の名称が「ベトナムに平和を! 市民連合」と変更されるのは同年10月のこと)。
会議最終日のジン氏の発言を、以下に引用しておく(読みやすさに配慮し、適当な箇所で改行した)。
「先日丸山真男先生の本を読んでみました。というのは、アメリカの政治学者の本を読むのは、もうあきあきしたからですが、丸山先生がおっしゃるには、アメリカはファシズムを採用する必要がなかった。というのは、アメリカはファシズムによらないで、政府が人々の感じ方とか考え方を、非常に上手にコントロールできる国だからだと。
どうやってやるかといえば、人々に自動車を与えたり、テレビを与えたり、コカコーラを与えたりする。コカコーラというのは本当は薬なんですけれども。(笑)
同じようなことを私は日本でも見ました。たとえばマスコミはトップクラスの人々によって支配され、管理されている。わが国ではたとえばこのぐらい、千人、二千人という人々に、こういうホールで話をすることができる。しかしリンドン・ジョンソン(当時の米国大統領 引用者注)はテレビを通じて五千万人に直接話をすることができる。
これをどう突破するかということが、われわれの問題だと思う。アメリカでとくに黒人の公民権運動のなかで、われわれが学んだことは、それを突破するためには、やはり集会だとか、決議だとかだけでは足りないということであります。暴力にはよらないで、社会のなかに一種の不穏な状態をつくり出さなければならない。(拍手)それは政府をいらいらさせてみたり、いや気を起こさせてみたり、窮地に追いこんだりするためです。
こういう話がある。
二人の人間が銃殺隊の前に立たされています。銃殺隊の隊長が、その一人にタバコを差し出す。そうしますとその男はタバコをもらって、地面に叩きつけて足で踏みにじる。もう一人のほうが彼をつついていうには、「不穏なことはやめろ」。
皆さんも私もいま銃殺隊の前に立たされているわけではない。しかしベトナムでは、銃殺隊の前に人々は立たされている。われわれが考えなければならないのは、この戦争におけるこういう状態を変えるために、なにをするかということだと思う。
もう一つ申し上げたいのは、各国の政府は、われわれのあいだに非常にはっきりした一線を引いている。たとえば旅券、査証、国旗、それからいろいろなスローガン、そういうものでわれわれを完全に隔離しておこうとしている。
この日米市民会議は、この隔離をぶち破ったと思う。もっといろんな人がこの壁をぶち破り、この壁を越えていくと思います。こういう方法でわれわれは、われわれのベトナムに対処することができるわけだし、そしてそういうふうにやっていくことによって、ついには戦争のない世界をつくることができる。私はそう思っています」
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