1960年、日米安全保障条約改定反対運動のなか、政党や労組等に組織されたデモだけではなく、「誰でも入れるデモをしなければ」という思いから、「声なき声の会」は生まれた。今日存在する多様な市民運動のさきがけともいえるだろう。著者の小林トミさんは、この運動をはじめた中心人物であり、2003年に亡くなるまで、会の運営にたずさわっていた。
『「声なき声」をきけ』は、小林さんが書いた膨大な手記を編集したもの。60年安保からベトナム戦争、湾岸戦争とさまざまな問題を前に、小林さんは反戦の意思表示を続けてきた。それぞれの時代のなかで小林さんが何を考え、何をしてきたのかが、ここにはいきいきと記されている。
印象的なのは、小林さんがいつも不安や戸惑いを抱えつつ運動を続けていた様子がみてとれることである。私たちの世代からすれば、反戦市民運動が活発におこなわれていたとみえる60年安保やベトナム反戦運動の中でも、「みんな去ってゆき、一人になってしまうような夢をみて、ときどきねむれなくなる」ことがあったという。会合の集まりが悪くなったという記述もみうけられる。もちろん、「誰でも入れるデモ」を続けるための運動論的な迷いも、そこにはあった。
それでも小林さんは「各地で地道な活動を続けている人たちからの手紙を読むと勇気づけられた」。「声なき声の会」は、現在でもその活動を継続している。
不安や戸惑いを抱えつつも息の長い運動を地道に続けた小林さんの姿は、あとに続く私たちに勇気をあたえてくれる。私たちの社会の、貴重な財産といえる本だと思う。