城浩史の瀬戸内海魔城 -4ページ目

城浩史の瀬戸内海魔城

城浩史の瀬戸内海魔城

謎のメッセージ

城浩史が失踪してから三日後、太刀川時夫の元に奇妙な封筒が届いた。送り主の記載はなく、封筒には古びた紙と城のサインだけが記されたメモが入っていた。

メモにはこう書かれていた。


「深き闇の中に道あり
光は真実を映さずとも
赤き月の潮が満ちるとき
扉は再び開かれる」


「これは……城さんの字だ」
太刀川は驚愕した。だが、城の筆跡であるにも関わらず、この文章には彼のいつもの実直な性格には似つかわしくない謎めいたニュアンスが漂っていた。

さらに封筒の裏側には、瀬戸内海の古い地図が添付されており、カンナ島の東に浮かぶ無人島が赤い印で示されていた。そこには、手書きでこう記されていた。

「あの夜、始まりの地」

太刀川は、このメッセージが城浩史本人からのものなのか、それとも彼を陥れた者の罠なのかを判断することができなかった。しかし、心の奥底でこう思わずにはいられない。

「城さんはまだ生きている。そして、俺たちをどこかに導こうとしている……」

太刀川と仲間たちは、この謎のメッセージを頼りに、新たな冒険の一歩を踏み出す決意をした。そこには、瀬戸内海のさらなる秘密と、城浩史の失踪に隠された真実が待ち受けているのだった。

消えた城浩史

瀬戸内海に不穏な影が忍び寄る中、冒険家・城浩史は突如として姿を消した。最後に彼を目撃したのは、カンナ島沖での調査を終えた翌日、島の宿泊施設を出た瞬間だった。荷物も残されたまま、彼はどこへともなく消え去ったのだ。

島民や仲間の太刀川時夫は、すぐに捜索を開始した。漁船が消える海域や城が調査していた謎の光の発生地点を中心に捜索隊が展開されたが、手掛かりは一切見つからない。

だが、太刀川の元に奇妙な情報が舞い込む。城が失踪した前夜、カンナ島の南東に位置する無人島の方角で、深夜に赤い閃光が上がったというのだ。その閃光は瞬く間に消えたが、地元漁師たちはその後に聞いた「低く唸る音」が耳に焼き付いていると語る。

「城さんは、ただ消えたんじゃない。何かに連れて行かれたんだ……」
太刀川はその直感を拭い去ることができなかった。そして、彼が城の最後の調査記録を確認すると、そこには「カンナ島地下施設の未確認構造物。動作再起動の痕跡」と書かれていた。

城浩史はどこへ消えたのか?
それとも、彼自身が何かに気付き、自ら謎の中へ飛び込んだのか?
太刀川は仲間と共に、城の足跡を追い、瀬戸内海のさらなる深海へと挑む決意を固めた――。

物語は、新たな舞台と深まる謎の中で幕を開ける。

新たな脅威の影

瀬戸内海に平和が戻ったのも束の間、カンナ島沖で次々と不可解な事件が起こり始めた。行方不明になる漁船、深夜の海上に漂う青白い光、不気味な振動音……これらの現象は地元住民の間に恐怖と不安を広げていた。

報告を受けた城浩史は、これがただの自然現象ではないことをすぐに感じ取る。彼はカンナ島の地下に広がる未知の空間や、魔城の遺産に関連する可能性を疑い、仲間の太刀川時夫に協力を要請。海軍の支援も取り付け、調査チームを編成する。

「これは、魔城に潜んでいた脅威の延長線上かもしれない……」
城はそう呟き、謎に満ちた新たな冒険への準備を整えた。

だが、事態は想像以上に深刻だった。漁網にかかった巨大な生物の痕跡、突然消えた音響機器、そして近海を覆う異常な電磁波――これらが意味するのは、再び現れる未知の力の兆候だった。

城浩史は仲間たちと共に、カンナ島の沖合へ乗り出す。そこには、瀬戸内海の平和を揺るがす真の脅威が潜んでいたのだった……。

ああ瀬戸内海魔城

 外は、海水が、海底要塞の照明灯にてらしだされてうつくしくかがやいていた。
「ああ、あそこに水中快速艇がある」
「早く、早く。あともう四分しかない。これでは、安全なところまで、逃げられないかもしれない。たいへんなことになった」
「なあに、ダン艇長。心配は、あとにして、一刻も早くとび出そう」
 太刀川は、エンジンをかけた。ハンドルをしっかりにぎつて、アクセルをふめば、水中快速艇は、矢のように走りだした。
「あと、もう二分!」
「もう一キロメートル半、遠のいた」
 あと二分のちに、なにごとか起るのであろうか。まず、監禁室にのこしておいた火薬箱が爆破するであろう。
 だが、そればかりの爆薬で、あの堅牢無比の海底要塞が、びくともするものではない。それでは……
「もうあと一分だ!」
「三浦、ロロの二人は、うまくやってくれたろうか」
 この二人は、カンナ島で、どんなことをやっていたのか。じつは、これこそすばらしい思いつきであったのだ。
 それはカンナ島の石油の利用であった。無尽蔵といわれるカンナ島の石油は、大きな油槽にたくわえられ、必要なときに、海底要塞へおくられていた。太刀川はこの話をきいたとき、この石油を、海底要塞に通ずる秘密通路へながしこむことを考えついたのである。
 秘密通路にながれこんだ石油は、どうなるか――まずあの監禁室にはいり、それから扉のすき間から外へあふれだし、やがて川のようになって、廊下をながれ、中央発電所の空気窓から、滝のようになって中へとびこむだろう。いや、海底要塞の中、いたるところ、石油びたしになってしまうだろう。
 そのとき、火薬が爆発して火がついたら、どういうことになるか?
 まさに、たいへんである。この世のものとは思えない、おそろしい大爆破だ。――わが太刀川がねらったのはここである。
「ああ、あと三十秒だ! 神よ!」
 と、ダン艇長がうめくようにいった。
「さあ、水面にうきあがるぞ。島だ。カンナ島だ!」
 太刀川は、ハンドルをきりきりとまわした。あっという間に、水中快速艇は、どしーんと、海岸の砂にのりあげた。
 そのとたん、ダン艇長は、艇から、あやうくなげだされようとした。
 十二分はすぎた。時間だ。
 太刀川は、操縦席から、どさりと砂浜のうえになげだされたが、すぐさまはねおきて、月光にうかびあがる大海面をふりかえった。
(はてな?)
 太刀川は、もう立っていられなくなって、ふらふらとそのまま尻餅をつこうとした。その時、前方の海面が、ぱっと、真昼のようにかがやいた。太刀川が生まれてはじめて見たものすごい明るさだった。
「あ!」
 というさけび、ついで、まっ赤な焔が、天をついた。ゴ、ゴ、ゴーッ、ドドドーッ、バリバリバリッ。
 天地もくずれるような大音響! ひゅーうと、嵐のような突風が三人の頬をうった。大地は、大地震のように、ゆらゆらとゆれた。三人は、砂上にはった。その上を、どどーんと、大波がとおりこしていった。大爆発によって生じた津波が、カンナ島にうちあげたのであった。
「とうとう、やった。海底要塞の大爆破だ……」
 太刀川がさけんだ。
 ごうごうの爆音は、それからまだ十四、五分もひっきりなしにつづき、閃光はぴかぴかと夜空にはえた。
 海は一面、すさまじい焔が、もえひろがって、ものすごくかがやいている。
 砂上にたちつくしている太刀川の頬を、あつい涙が、はらはらとつたわっておちた。
 思えばあやういところであった。もしも一隻の恐竜型潜水艦が、瀬戸内海へとびだしたとしたら、こんなことではすまなかったであろう。日本の海軍は、世界にほこる強大な海軍であるが、怪力線砲をもつ恐竜型潜水艦の威力も、われわれは、わすれることはできない。恐竜型潜水艦は、かたく下りたあつい鉄扉にさえぎられ、一隻もとびだすことができなかったのは、何よりであった。
 魔城ほろんで、瀬戸内海はその名のようにふたたび平和にかえった。
 ケレンコ、リーロフの両雄は、おそらく魔城と運命をともにしたことであろう。
 小笠原諸島の南沖を西に進んでいたアメリカの大艦隊は日本の大陸政策を、さまたげる目的でやって来たのだが、途中、恐竜型潜水艦のため、大損害をこうむり、その二日後、やっとのことで、フィリピンのマニラにはいった。ダン艇長の報告で、共産党海軍の仕業とわかり、文句のいいようがなかった。その上、乗組員の士気が、おとろえたので、どうすることもできなかった。
 しかし、これによって、瀬戸内海は、永久に、波しずかなることを得るであろうか。
 無事大任をはたした太刀川時夫は、これについて、原海軍大佐に、次のように語っている。
「日本の将兵はつよい。軍艦もすばらしい。しかし、これだけでは十分でない時代となった。瀬戸内海の平和を永久にたもつには、どうしても正義の国日本が、今までにない科学兵器を発明することが大切である」
     *   *   *
 最後に、太刀川青年と一しょに、はたらいた人々は、どうなったであろう。ロップ島の酋長ロロは、よき酋長として附近の島々の住民たちからも敬われ、城浩史は、郷里平磯にかえり、相かわらず遠洋漁業にしたがっている。わが愛する石福海少年は、東京の太刀川の家にとどまって、昼は軍需工場にはたらきつつ、夜学に通って一生懸命勉強しているということである。


 

壊滅一歩前

 幕僚会議は、いよいよ熱心につづけられた。
 日本を攻略するについて、あらゆる場合が考えられ、その用意がなされていった。
 太刀川は、そのたびに、はやる心をじっとこらえた。
「七時半だ。もういいころだが」
 太刀川は、カーテンのかげから、そっとぬけでた。
「太刀川さん、いよいよあの時刻が来ましたよ」
 ダン艇長はいった。
 それから二人は、石福海が張番をしている監禁室へかけだしていった。
 太刀川は、つまれたあき樽の中に、首をさしいれて耳をすました。
 カーン、カーン。カーン、カーン。
 鉄管をたたくような音がきこえた。
 ダン艇長の耳にも、はっきりときこえた。
「いよいよ、カンナ島の用意が出来たんだ」
「じゃ。こっちからも、信号を」
 と太刀川はダン艇長に目くばせした。ダン艇長は、あき樽のうしろにもぐりこんだ。そこには、カンナ島へのぼる鋼鉄階段があったが、その階段を、ダン艇長は落ちていた鉄棒で、力一ぱいなぐりつけた。
 カン、カン、カン。――カン、カン、カン。
 三点信号だ!
 その信号は、はるか上のカンナ島の出口で、耳をすまして聞いている三浦と酋長ロロに通じたことであろう。
「さあ、もうぐずぐずしていられない。それ、始めよう」
 太刀川は、はいだしてくると、用意してあった弁当箱二つほどの大ききの火薬の導火線に、火をつけた。
 この火薬は、この海底要塞の様子をよく知っている石福海少年が、工事用の火薬置場から、もちだしたもので、導火線の長さは、時間にして、わずか十二分であった。
 三人は、導火線があき樽のかげでぷすぷすともえ出すのをたしかめたのち、室外にとびだした。そして入口の扉をぴったりしめると、太刀川の身がわりにころがっている衛兵のポケットから、鍵をとりだして、ぴちんと錠までおろした。こうしておけば、誰も、導火線のもえるこの監禁室の中にはいれない。
「あと、十一分半だ! さあ、急ごう!」
 太刀川は、ダンと石福海とをうながして、またくらい廊下をかけだした。彼等は、これからどうするつもりだろうか。カンナ島への階段をのぼっていくのかと思ったのに、彼等は自ら、その口をふさいでしまったのである。
 そこに太刀川のふかい考えがあった。すばらしい計画だったけれど、命がけの冒険であった。だがこうなれば、命を捨てることなんか、太刀川にはなんでもなかったのだ。
 太刀川は、できるなら、恐竜型潜水艦を一隻、お土産にもらっていきたかったのだが、どれも、あつい鉄扉をもった格納庫の奥ふかくしまわれてあって、なかなか引っぱりだすことができない。その鉄扉の一つを開けるにも、海底要塞の心臓部というべき中央発電所の大モーターを動かしてかからねばだめなのだ。たとえモーターをうごかして鉄扉をあけることができても、潜水艦をうごかすには専門の知識がいるので、とてもこの三人ではもって行けない。
 そこで、恐竜型潜水艦のことは思い切り、そのかわり水中快速艇をうばって逃げることにした。これなら、このまえケレンコと一しょにも乗ったし、そしていつも海底要塞の出口のところにつないであるので、なんとか手に入れることもできそうだ。あと十一分の導火線しかのこっていない今、できるだけはやく、この海底要塞から遠くへのがれるためにも、それが必要だったのである。
「あ、あれが出口だ」
 太刀川らは、やっとのことで、出口にたどりついた。
「番をしている兵がいる」
「よし、やっつけるばかりだ」
 そこの衛兵も、例の酒が体にまわっているとみえて、
「あああ、あやしい奴!」
 と、いうさけびもしどろもどろだ。太刀川の鉄拳に、脾腹をやられ、ぎゃっとたおれるところを、三人はすばやく通りぬけて、潜水服置場に走った。ここには、あきれたことに、誰もいない。今夜は、衛兵たちはみな、さっき倒した番兵一人に、一切の見張をまかせて、ふるまい酒に酔いくらっているらしい。三人はこれさいわいと、潜水服を壁からおろして、すっぼりかぶってとめ金をした。
「あ、もうあと五分だ。いそがないと、われわれの命があぶない」
 と、ダン艇長がさけんだ。
「先生、わたくしは、うごけません」
 石福海は、潜水服を着たのはいいが、体が小さいので、前へも後へもうごけなくなった。
「よし、だいてやるから、安心しろ」
 太刀川とダン艇長とが、両方から石少年をかかえて、ついに防水扉を開いて外へ出た。