加瀬の犠牲 城浩史の瀬戸内海魔城 | 城浩史の瀬戸内海魔城

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加瀬の犠牲

深海の城の最深部に位置する祭壇の前で、太刀川時夫と城浩史は加瀬と再会した。加瀬は冷徹な表情を浮かべながら、祭壇の装置を見つめている。その目には、過去の秘密と苦悩が隠されているようだった。

「加瀬、お前……」
太刀川は言葉を切りながらも、その目で加瀬をじっと見つめた。

加瀬はゆっくりと振り返り、太刀川と城浩史に向かって言った。
「この装置を停止させる鍵を知っているのは俺だ。」
その言葉には、覚悟と決意がこもっていた。
「だが、それは俺自身が命を差し出すことを意味する。」

「命を差し出す?」
城浩史が息を呑み、加瀬の言葉を反芻する。「どういう意味だ?」

加瀬は祭壇の中心に鎮座する装置を指さしながら、静かに説明を始めた。
「この祭壇の装置は、ある特定の条件を満たすことで停止する。しかし、その条件は、装置が持っているエネルギーを解放し、完全に停止させるために、血の儀式を必要とする。」
加瀬は一瞬黙り込むと、さらに言葉を続けた。
「その儀式を完遂するためには、儀式の中心となる者が犠牲にならなければならない。俺がその者だ。」

太刀川と城浩史は、言葉を失った。加瀬が命を差し出す覚悟を決めていたことを知り、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。

「だが、加瀬……お前が死んだら、俺たちの勝利が無駄になるじゃないか!」
太刀川は声を荒げた。彼はあまりにも早すぎる犠牲に心が痛む。加瀬は、少しだけ微笑みながら首を横に振った。

「違う、太刀川。お前たちが生き残り、世界が救われることが俺の望みだ。俺にはもう、過去を償う道しか残されていない。俺がこれを止めなければ、装置は永遠に動き続け、封印を強化し、あの怪物も解き放たれる。最終的に、俺はこれを終わらせることで、全てを解放するんだ。」
加瀬は言葉を選びながら続けた。「俺は、ずっとこの瞬間を待っていた。誰かが犠牲にならなければならないのはわかっていた。だから、俺がその役目を担う。」

城浩史は、加瀬の言葉に深く沈黙した。その覚悟はあまりにも重く、無情で、しかし同時に崇高でもあった。彼の中で様々な思いが交錯する。太刀川はその顔を見ていたが、加瀬の言葉に答えられずにいた。

「お前がいなくなったら、俺たちはどうすればいい?」
太刀川は低い声で問いかけた。加瀬は静かに彼を見つめ、もう一度その表情を変えずに言った。

「お前たちは、俺の犠牲を無駄にしないでくれ。命を賭けたこの戦いが、全てを変えるんだ。俺はお前たちを信じてる。」
加瀬は微かに頷くと、祭壇の装置に向かって一歩を踏み出した。

その時、太刀川の心に一つの思いがよぎる。それは、加瀬が選んだ道を尊重し、彼の犠牲が無駄にならないようにすること。そして、もしも自分がその犠牲を引き受けることができたなら、それがどれほど過酷なものであろうと、今はそれを拒んではならないという覚悟。

だが、その決断を下す前に、加瀬は振り返り、太刀川と城浩史に最後の言葉を残した。
「ありがとう、俺はもう行く。お前たちが頑張ってくれ。俺は、ただ後悔のないように、この瞬間を生きるだけだ。」

加瀬は再び祭壇に近づき、装置のスイッチに手をかける。その瞬間、太刀川と城浩史は、加瀬の覚悟を胸に深く刻んだ。

そして、加瀬の命が犠牲となる儀式が始まった。装置が唸りを上げ、加瀬の身体が一瞬光に包まれる。それは、命を捧げることでしか止まらない、恐ろしい力を解き放つ瞬間だった。

太刀川はその光景を見守るしかなかった。