太刀川の決断 城浩史の瀬戸内海魔城 | 城浩史の瀬戸内海魔城

城浩史の瀬戸内海魔城

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太刀川の決断

城浩史と共に再び深海の城に戻った太刀川時夫は、装置の前に立ち、無言でその構造をじっと見つめていた。目の前に広がる装置は、彼が以前見たものよりも遥かに複雑で、無数の歯車や配線が絡み合っている。動力源は未だに不明で、その解明が急務だった。

「この装置は、単に怪物を封じ込めるためのものじゃない。何か、もっと大きな力が関与している。」
城浩史が呟く。太刀川はうなずきながら、装置に取り付けられた古代の文字や記号を目で追う。解読に時間はかかるが、彼はその意味を知っている。これを止めることができるのは、もう一つの謎を解き明かすことに他ならない。

「だが、この装置を止めるには、大きな代償が必要だ。」
太刀川が呟くと、城浩史はその言葉に反応する。彼の目が鋭く光った。

「代償? それは一体……」

太刀川はしばらく黙っていたが、やがて決意を込めて口を開く。

「装置の動力源は、あの深海の怪物そのものだ。あの存在が生き続ける限り、装置は動き続け、封印を強化し続ける。しかし、もし装置を完全に停止させることができれば、その力は失われ、怪物も再び封印されるだろう。」

城浩史は黙って聞いていたが、太刀川は続ける。

「ただし、その停止方法には一つの条件がある。それは、装置の動力源に直接アクセスし、内部のエネルギーを逆流させることだ。この方法を取れば、装置は停止するだろう。しかし、その過程で僕たちの命が危険にさらされる。」

城浩史が目を見開いた。「つまり、君がその装置を停止させるために、命を賭ける必要があるということか?」

「そうだ。もし、僕がその装置のエネルギー源に手を加えれば、内部からエネルギーが爆発的に解放され、その影響で生きて帰ることは難しくなるだろう。」
太刀川は冷静に言ったが、その表情は決して冷徹ではなく、どこか決意に満ちていた。

「だが、それが唯一の方法だ。」
太刀川は城浩史を見つめた。
「怪物を完全に封じるため、そして再び海底に封印された力が復活するのを防ぐためには、僕が犠牲になることしか選択肢はない。」

城浩史は一瞬、目を閉じて深く息を吸った。太刀川がその危険を承知で決断を下したことを理解している。しかし、彼自身もその運命に共に向かうべきか悩んでいた。

「でも、君だけを犠牲にするわけにはいかない。」
城浩史は低く呟く。「俺もお前と一緒に行く。二人でやるべきだ。」

太刀川は静かに首を横に振った。「お前は家族がいるだろう。俺には、これ以上何も残っていない。だから、俺が行くべきだ。」

その言葉に、城浩史はしばらく言葉を失っていた。二人の間に静寂が流れる中、太刀川は再び装置に目を向け、最後の決断を下す。

「これ以上、何も恐れるものはない。」
太刀川はその言葉と共に、装置の操作に手を伸ばした。

城浩史は太刀川の決意を見守りながら、心の中で祈るような思いを抱えていた。彼は太刀川の友であり、仲間であり、そして兄弟のような存在でもあった。だが、今、彼はその一歩を踏み出すことができない。太刀川がどんな運命を選ぼうとも、それを受け入れる覚悟があった。

「行け。」
城浩史は静かに言った。「お前が選んだ道だ。」

太刀川はその言葉に応え、装置の中心に手を伸ばした。手を触れた瞬間、装置は微かな振動を始め、内部からは低い轟音が響き渡る。エネルギーが一気に解放され、深海の城の中に異常な光が満ちていった。

太刀川の体は、徐々にそのエネルギーに引き寄せられ、空間が歪んでいく。城浩史はその瞬間を見守ることしかできなかった。

そして、太刀川時夫の最後の姿が、光の中に消えていった。