夕方近くに起きた。
今から行けば、4限のコンピューター入門には間に合う。
どんよりとした空が広がっている。
適当な格好をして、コーヒー一杯飲まずに家を出た。
商店街を歩くうちに、ぽつぽつ雨。
すぐにドシャ降り。
感情のすべてを隠してくれるように、もっと降ってほしい。
空いている電車、空いているバス、山道を抜け、キャンパスに降り立ったとき、昨日のことがフラッシュバックした。
奴に出くわすのが嫌で、あえて対岸にある経済学部の喫煙所に向かった。
携帯を開くといつも一緒にいる友達からのメール。仲間内全員に送られている。「席とったよ!」
「2限の出席カードもらっておいて」
「私のもお願い~」
「お昼どこで食べる?」
私たちの毎日が、そこに凝縮されていた。
眠ったりぼーっとしてた時間に、日常は日常のまま流れていた。
飲み屋にいた時から何も胃に入れていない。
授業に行くのをやめて、学食に向かった。
こんな時間に一人で食べるというのも、たまには悪くない。
もう一度携帯を開いた時、沙那さんからのメール。
慎吾はいつも電話に出ない。
代わりに、いつも出てくれるのは、留守電サービスの女性の声。
それでも、愛してくれてるから、耐えられた。
だけど今日は、感情のままに当たり散らしたかった。ストーカーのように、また自分のことしか考えずに、何度も何度も電話をかけて、彼を起こした。
慎吾は起きてくれる、奴と違って。
包まれたような気分。
涙が出た。
「なした?」
私の話を聞いてくれた。
すべて。
深夜2時半。
慎吾は私と奴が結ばれたと知った時、正直にジェラシー、と言った。だが奴に甘えろ、大切にしろと応援してくれた。
電話してから行くべきだったな、もう一度電話してみれ、そう言われた。
私は断った。
精神異常者みたいだ、そう言った。
奴が私にするように、どんなに私がひどい言葉を使おうと、慎吾は受け入れてくれる。
たった一人の甘えられる人。
だけど私のものにはもうなりえない。
慎吾みたいになりたかった。
慎吾の穏やかな声と心になだめられ、電話を切った。
私は異常だ。
奴の家にまた向かった。
慎吾に電話することで、そうする大義が欲しかっただけなのでは?
卑怯だ。
ただ、自分が、慎吾にされていたように、奴に、強い腕で抱きしめられたかったから。
こんなじゃ奴を支えられない。
だけど同時にここまでして会いにきた私に気付かない奴に対し、自分勝手な苛立ちを覚える。
したいって言ったくせに…。
やっぱり結果は変わらなかった。
奴は心地好く眠っているんだ。
歩いた。
一匹の白い猫。
まだ若いのだろうか?
親しげな視線で私に寄ってくる。
しばらく対面しあう。
細い声で泣いている。
この子は一人なのだろうか?
やがて細い柵の間をすり抜け、どこかに行ってしまった。
奴は言っていた。
猫のように、フラ~っとどこかに行ってしまい、寂しくなったら寄ってくるような女が理想だと。
だから、慎吾にしたように甘えちゃだめってずっと心に決めていたし、呼ばれない限り会いにも行かなかった。
でも今は…
歩き回った末に古びた駐車場を見つけた。
誰も使っていなさそうなスーパーハウスの手前の、コンクリートに腰を下ろし、感情が込み上げてくるのを待った。
午前3時、声を上げて泣いても誰にも気付かれない時間。
このまま朝までいてやろうか?
ボロボロになった姿を見せてやりたい、そんな気持ちにもなった。
一限開始まで、あと6時間。
ここに居座り、昨日と同じく服で、学校に行くのだろうか?メイクも落とさずシャワーも浴びず。
泣くのをやめてしまったら、歩きだしてしまった。
数時間前、電車からわくわくした気持ちで見てきた景色を逆方向に進む。
足の痛みも麻痺し、大名行列の一員になったつもりで甲州街道を東に向かう。
先人はどんな思いでこの道を歩いていたのだろう。
安政の時代からある商店。心震わされた。
その時の私の故郷、開拓はされていなかった。
異国にいるような気分。
たかが家までの距離なんかで…
結局その日、私は誰一人に連絡せずしてすべての授業を休んだ。
奴に会いたくなかった。
会いたくなかった。
会いたかったけど、自分が惨めすぎた。
代わりに、いつも出てくれるのは、留守電サービスの女性の声。
それでも、愛してくれてるから、耐えられた。
だけど今日は、感情のままに当たり散らしたかった。ストーカーのように、また自分のことしか考えずに、何度も何度も電話をかけて、彼を起こした。
慎吾は起きてくれる、奴と違って。
包まれたような気分。
涙が出た。
「なした?」
私の話を聞いてくれた。
すべて。
深夜2時半。
慎吾は私と奴が結ばれたと知った時、正直にジェラシー、と言った。だが奴に甘えろ、大切にしろと応援してくれた。
電話してから行くべきだったな、もう一度電話してみれ、そう言われた。
私は断った。
精神異常者みたいだ、そう言った。
奴が私にするように、どんなに私がひどい言葉を使おうと、慎吾は受け入れてくれる。
たった一人の甘えられる人。
だけど私のものにはもうなりえない。
慎吾みたいになりたかった。
慎吾の穏やかな声と心になだめられ、電話を切った。
私は異常だ。
奴の家にまた向かった。
慎吾に電話することで、そうする大義が欲しかっただけなのでは?
卑怯だ。
ただ、自分が、慎吾にされていたように、奴に、強い腕で抱きしめられたかったから。
こんなじゃ奴を支えられない。
だけど同時にここまでして会いにきた私に気付かない奴に対し、自分勝手な苛立ちを覚える。
したいって言ったくせに…。
やっぱり結果は変わらなかった。
奴は心地好く眠っているんだ。
歩いた。
一匹の白い猫。
まだ若いのだろうか?
親しげな視線で私に寄ってくる。
しばらく対面しあう。
細い声で泣いている。
この子は一人なのだろうか?
やがて細い柵の間をすり抜け、どこかに行ってしまった。
奴は言っていた。
猫のように、フラ~っとどこかに行ってしまい、寂しくなったら寄ってくるような女が理想だと。
だから、慎吾にしたように甘えちゃだめってずっと心に決めていたし、呼ばれない限り会いにも行かなかった。
でも今は…
歩き回った末に古びた駐車場を見つけた。
誰も使っていなさそうなスーパーハウスの手前の、コンクリートに腰を下ろし、感情が込み上げてくるのを待った。
午前3時、声を上げて泣いても誰にも気付かれない時間。
このまま朝までいてやろうか?
ボロボロになった姿を見せてやりたい、そんな気持ちにもなった。
一限開始まで、あと6時間。
ここに居座り、昨日と同じく服で、学校に行くのだろうか?メイクも落とさずシャワーも浴びず。
泣くのをやめてしまったら、歩きだしてしまった。
数時間前、電車からわくわくした気持ちで見てきた景色を逆方向に進む。
足の痛みも麻痺し、大名行列の一員になったつもりで甲州街道を東に向かう。
先人はどんな思いでこの道を歩いていたのだろう。
安政の時代からある商店。心震わされた。
その時の私の故郷、開拓はされていなかった。
異国にいるような気分。
たかが家までの距離なんかで…
結局その日、私は誰一人に連絡せずしてすべての授業を休んだ。
奴に会いたくなかった。
会いたくなかった。
会いたかったけど、自分が惨めすぎた。
私が家をもっと早く出ればよかったの?
いや、早く出たよ。
こんなに早く寝付いてしまうものなの?
ドアの前に立ち尽くす。
帰ろうか。
でも、奴はしたいって言ってた。
電話する?
起こしちゃう。
迷惑だよ。
奴は甘える人が欲しかった。
こんなじゃ、私が執着している。
自分が嫌い。大嫌い。
なにやってるんだろ。
駅まで引き返す?
帰路が遠く感じる。
もう電車は無いんだ。
徒歩で帰る?
ヒールが擦り減るのは嫌。
そんなことより、
私に触れて。
お願い、泊めて。
私はここにいるの!
気づいて、ここにいるの!お願い!
心の中で、何度も奴の名前を叫ぶ。
だけど声にならない。
ドアを叩く。
でも強く叩けない。
原チャが通る。
開けて。
会いにきたんだよ。
ドアを隔てて数メートル先のところに奴がいる。
触れたいのに、触れられない。
こんなに近くにいるのに、奴は知らない。
ここにいること。
私がいること。
だけど、自分のわがままが勝って、電話をかけてしまう。
タクシーが通る。
虚しく響く着信音。
お願い出て。
私に気付いて。
端から見たら、人ん家の前に長時間突っ立った不審者。ストーカー、別れを受け入れられない元カノとしか思われないだろう。
こんな深夜に。
警察に通報されたっておかしくはない。
びっくりさせたかった。
そんな言い訳通用しない。
奴に、気持ち悪がられるんではないかと怖くなった。そして嫌われるんではないかと。
自転車が通る。
近所迷惑になるから、ドアも強く叩けない。
なんて愚かなんだろう。
ここにはもう立っていられる場所は無い。
奴の家を後にした。
周辺をぶらぶら歩く。
誰もいない。
公園までやってきた。
ベンチ?
誰かが寝ている。
私に気付いたようだ。
サンダルに砂が入る。
どうでもよかった。
ここにも居場所は無い。
歩く。
住宅しかない。
一周した。
また奴の家。
呼び鈴を押してしまった。ドアノブを引っ張ってしまった。
ドアを軽く叩いた。
窓を叩いてしまった。
通行人と目があった。
電話してしまった。
ドアを右腕全体でおもいっきり叩いてしまった。
何も変わらなかった。
ただ、右腕の痛みが、骨まで伝わるだけ。
誰にも必要とされてない虚無感に襲われた。
私は、どこに…
また奴の家を後にした。
慎吾に、電話してしまった。
いや、早く出たよ。
こんなに早く寝付いてしまうものなの?
ドアの前に立ち尽くす。
帰ろうか。
でも、奴はしたいって言ってた。
電話する?
起こしちゃう。
迷惑だよ。
奴は甘える人が欲しかった。
こんなじゃ、私が執着している。
自分が嫌い。大嫌い。
なにやってるんだろ。
駅まで引き返す?
帰路が遠く感じる。
もう電車は無いんだ。
徒歩で帰る?
ヒールが擦り減るのは嫌。
そんなことより、
私に触れて。
お願い、泊めて。
私はここにいるの!
気づいて、ここにいるの!お願い!
心の中で、何度も奴の名前を叫ぶ。
だけど声にならない。
ドアを叩く。
でも強く叩けない。
原チャが通る。
開けて。
会いにきたんだよ。
ドアを隔てて数メートル先のところに奴がいる。
触れたいのに、触れられない。
こんなに近くにいるのに、奴は知らない。
ここにいること。
私がいること。
だけど、自分のわがままが勝って、電話をかけてしまう。
タクシーが通る。
虚しく響く着信音。
お願い出て。
私に気付いて。
端から見たら、人ん家の前に長時間突っ立った不審者。ストーカー、別れを受け入れられない元カノとしか思われないだろう。
こんな深夜に。
警察に通報されたっておかしくはない。
びっくりさせたかった。
そんな言い訳通用しない。
奴に、気持ち悪がられるんではないかと怖くなった。そして嫌われるんではないかと。
自転車が通る。
近所迷惑になるから、ドアも強く叩けない。
なんて愚かなんだろう。
ここにはもう立っていられる場所は無い。
奴の家を後にした。
周辺をぶらぶら歩く。
誰もいない。
公園までやってきた。
ベンチ?
誰かが寝ている。
私に気付いたようだ。
サンダルに砂が入る。
どうでもよかった。
ここにも居場所は無い。
歩く。
住宅しかない。
一周した。
また奴の家。
呼び鈴を押してしまった。ドアノブを引っ張ってしまった。
ドアを軽く叩いた。
窓を叩いてしまった。
通行人と目があった。
電話してしまった。
ドアを右腕全体でおもいっきり叩いてしまった。
何も変わらなかった。
ただ、右腕の痛みが、骨まで伝わるだけ。
誰にも必要とされてない虚無感に襲われた。
私は、どこに…
また奴の家を後にした。
慎吾に、電話してしまった。