Startin' over… -94ページ目
何度こうするんだろうと思いながら、さっき来たばかりの道を引き返し、終電へと向かう。

数分前にすれ違ったばかりの、工事作業員、居酒屋の客引き、ガールズーバー勤務と思われる女の子たち、飲みすぎて地面に突っ伏している学生、それの面倒を見る先輩らしき人たち、
フィルムを逆再生しているような感覚。

奴が求めてくれている。
そう思うだけでウキウキした。
面倒くさいことをしていると自分でわかってはいたが、今日は嫌な気持ちが無かった。
最初の夜のように、私に甘えて欲しかった。
〈あれが、本当の奴…〉


教科書さえかばんから抜かなかった。だからクレンジングと日焼け止めしか入る余地はなく、保湿は諦めた。そうまでしてでも、奴に会いたかった。近くにいたかった。


なんとか終電には間に合い、電車を降りてから、軽快な足どりで奴の家に向かう。
奴がどんな反応するだろうか、それだけ考えていた。そのことが、このUターンの辛さを感じさせなかった。
きっと、力強く抱きしめてくれるんだろうな…
この蒸し暑い夜でさえ、心地好く感じた。


曲がり角を出て、奴の家が見える、電気は消えている。しかしたった数十分前にはメールしていた。
寂しく横になっているのだろうか。

呼び鈴を鳴らす。










出ない。





鍵もかかっている。








予想外だった。
飲み会の帰りほど寂しいものはない。
繁華街へ徒歩圏内の場所に住んでいるため、駅へ向かうみんなと別方向。

もう一杯飲みたい衝動にかられる。
しかし明日の一限は物理。ディスカバリーチャンネルの宇宙の映像は美しい。逃すわけにはいかない。


家に入った。
メイクを落とそうと思った。
時間を見るために携帯を開く。
和馬からのメール、家についたらしい。かわいい絵文字つき。
奴からのメール、セックスしたい。


荷物をまとめなおした。
格段にうれしかった。
やはり求めててくれたんだ。
和馬がいたから口に出せなかったんだ。

そのメールには返信しなかった。
びっくりさせて、喜ばせたかったから…
ちなみに会計をしてくれた店員はうちの学部の学生であった。
今日喫煙所で見ました。そう言われた。
また、学校名が入ったライターを使っていたせいかは知らないが、料理を運んできてくれた店員は私に、「コン入(コンピューター入門の授業)一緒です。」と言った。私のパーソナルカラーコーディネートについてのプレゼンにコメントをくれていたらしい。最初はきまずかったが、素直にうれしくなった。
奴はそれからその女の子について賛辞しまくった。ついでに私と比べて。


店を出たあと3人肩を組んで歩く。
いつも私はこんな酔っ払いたちをすり抜けて帰宅する。
しかし今日はその酔っ払いの仲間入り。

「愛してるぞ~」
男二人の肩を叩く。

和馬は終電が近づいている。
〈奴はどうするんだろう…〉
少しばかりか期待していた。
「ちゃんと帰るんだぞ。」
子供に諭すような言い方だった。


寂しくなった。