慎吾はいつも電話に出ない。
代わりに、いつも出てくれるのは、留守電サービスの女性の声。
それでも、愛してくれてるから、耐えられた。
だけど今日は、感情のままに当たり散らしたかった。ストーカーのように、また自分のことしか考えずに、何度も何度も電話をかけて、彼を起こした。
慎吾は起きてくれる、奴と違って。
包まれたような気分。
涙が出た。
「なした?」
私の話を聞いてくれた。
すべて。
深夜2時半。
慎吾は私と奴が結ばれたと知った時、正直にジェラシー、と言った。だが奴に甘えろ、大切にしろと応援してくれた。
電話してから行くべきだったな、もう一度電話してみれ、そう言われた。
私は断った。
精神異常者みたいだ、そう言った。
奴が私にするように、どんなに私がひどい言葉を使おうと、慎吾は受け入れてくれる。
たった一人の甘えられる人。
だけど私のものにはもうなりえない。
慎吾みたいになりたかった。
慎吾の穏やかな声と心になだめられ、電話を切った。
私は異常だ。
奴の家にまた向かった。
慎吾に電話することで、そうする大義が欲しかっただけなのでは?
卑怯だ。
ただ、自分が、慎吾にされていたように、奴に、強い腕で抱きしめられたかったから。
こんなじゃ奴を支えられない。
だけど同時にここまでして会いにきた私に気付かない奴に対し、自分勝手な苛立ちを覚える。
したいって言ったくせに…。
やっぱり結果は変わらなかった。
奴は心地好く眠っているんだ。
歩いた。
一匹の白い猫。
まだ若いのだろうか?
親しげな視線で私に寄ってくる。
しばらく対面しあう。
細い声で泣いている。
この子は一人なのだろうか?
やがて細い柵の間をすり抜け、どこかに行ってしまった。
奴は言っていた。
猫のように、フラ~っとどこかに行ってしまい、寂しくなったら寄ってくるような女が理想だと。
だから、慎吾にしたように甘えちゃだめってずっと心に決めていたし、呼ばれない限り会いにも行かなかった。
でも今は…
歩き回った末に古びた駐車場を見つけた。
誰も使っていなさそうなスーパーハウスの手前の、コンクリートに腰を下ろし、感情が込み上げてくるのを待った。
午前3時、声を上げて泣いても誰にも気付かれない時間。
このまま朝までいてやろうか?
ボロボロになった姿を見せてやりたい、そんな気持ちにもなった。
一限開始まで、あと6時間。
ここに居座り、昨日と同じく服で、学校に行くのだろうか?メイクも落とさずシャワーも浴びず。
泣くのをやめてしまったら、歩きだしてしまった。
数時間前、電車からわくわくした気持ちで見てきた景色を逆方向に進む。
足の痛みも麻痺し、大名行列の一員になったつもりで甲州街道を東に向かう。
先人はどんな思いでこの道を歩いていたのだろう。
安政の時代からある商店。心震わされた。
その時の私の故郷、開拓はされていなかった。
異国にいるような気分。
たかが家までの距離なんかで…
結局その日、私は誰一人に連絡せずしてすべての授業を休んだ。
奴に会いたくなかった。
会いたくなかった。
会いたかったけど、自分が惨めすぎた。