Startin' over… -92ページ目
「もしもし、あ、ども、琴美です(笑)」

拍子抜けしたような奴の反応が、電話からもれる声から伝わってくる。

前に琴美と私が学食で空き時間を潰してたとき、沙那さんが奴や和馬を率いてきたことがある。
なので琴美は唯一私のグループの中で、先輩方と面識がある。


適当にテレビ番組の話などで、盛り上げてくれている。あたかも奴が私にしたことをまったく知らないように。
機知に富んでいて陽気。そして私の気持ちに寄り添ってくれる。琴美が女優に思えた。


〈きっと、やりたくなったから電話してきたんだろうな…〉


電話は琴美から千恵を経由し、私に回ってきた。
3人で楽しく飲んでることだけ伝えた。
明るい口調になるよう努めながら。
電話では話しきれないので、21時から琴美の家の近くの居酒屋で飲むことにした。
途中から千恵も合流。

実家暮らし組には時間が遅いこともあり、声はかけなかった。


二人はカルピスサワー、私はビールを飲みつついろいろ話した。

私に傷ついてほしくない、ということを強く言われた。
もっと自分を大切にしてほしいとも。
でも私が奴との関係をつづけたいなら、止めはしないと。
そして、私はどうしたいのか、と聞かれた。


学校で、奴とギクシャクするのだけは御免だった。
二人だけでどうにかなるならいい。
だがそこには沙那さんや和馬さんも関わってくる。
きっと沙那さんは、すぐに感づくだろう。
そして沙那さんが奴に怒りを向けたら、間に挟まれる和馬さんは無言のまま困惑するだろう。

今日は、奴を前にして普通を装える自信が無かった。だから学校をさぼった。


そして、飲んでいる途中に、奴からの電話。

「私が出たろっか?」
私は琴美に携帯を渡した。
「大丈夫?こっちゃんたち連絡とれないって心配しているよ。昨日飲みに行ったからといって潰れていることはないとは思っているけど、心配なのでメールしてます。これ見たら電話かメールくれるとうれしいです。」


絵文字が一切使われていないが、懐の温かさを感じさせるメールに、改めて沙那さんの優しさを感じた。
とても申し訳ない気持ちになった。
琴美たちのメールは、日常茶飯事の連絡メール、まさか連絡とれないと感じてたなんて、思ってもいなかった。
だけど今日は誰とも話したくなかった。


これ以上心配をかけたくない。
深入りしようとする文面ではなかったが、きっと沙那さんは私が話してくれるのを望んでいるのだろう。
決して言えない。
沙那さんは私の感情を汲み取って、私の味方についてしまうだろうから。そして臆することなく大事な友達である奴に立ち向かっていってしまうだろう。
言えない。
決して言えない。
奴が大切に思っている女性になんて。



心配かけたことを謝り、大丈夫であること、琴美たちに今から連絡することをメールで簡単に伝えた。

すぐに明るいテンションの返信がきた。


潜伏していた図書館から出ると、空は真っ暗で雨は上がっていた。
ライトアップされた水たまりは、その光を反射している。

適当にベンチを見つけ、琴美に電話をかけ直す。
「もしもし、こっちゃん本当にごめんね。
沙那さんから聞いてさ…」


そして今まで誰にも話していなかった、奴とのこと、すべて話した…