Startin' over… -90ページ目
奴と距離を置くなんて言ってたけど、日に日に一緒に行動することが増えた。
喫煙所の人口密度は一時的に低くなった。


「ごめん、レポートやらなきゃ」
「ちょっと図書館寄っていく」
「研究室に質問行ってくる」」
などなどみんなが散っていく。


沙那さんは気付いたらいなくなっている。
すぐ家に帰ってしまったり、いたとしても自習室だったり。
琴美、千恵、結菜、香奈とは入門科目以外の授業は別のものをとっているので、最近は一緒に行動する時間が減って少し寂しい。

そうすると、必然的に残されるのが、奴、和馬、そして私。


そうするつもりはないのに、気付いたらいかにしてテスト勉強から離れるかに一生懸命である。
仮に、自習室にこもったあかつきには、いつも酒が欲しくなる。そんな共通点がある。
連日の気温の高さからして、毎日がビール日和。
この山奥のキャンパスで、たった3人のビアガーデン、悪くはない。


しかし、来年度の奨学金のこともある。勉強しなければ。
それ以前に単位。進級したい。
その点で奴と和馬、先輩である、その点について、無条件に尊敬する。
「出席点は40%、今の時点で3回以上欠席している人は、試験を受ける資格が無いものとします。
テスト形式は論述4問、他は語句説明が少し。
持ち込みは…不可です。」

ざわついていた大教室が急に静かになる。
ノートの端にメモる者、スケジュール帳を出す者、スマートフォンに記憶させる者。


ロシア文字の練習をやめて、プリントの裏にテスト範囲を殴り書く。
〈なんでこんな授業のテストについて…〉



のんきなことに、奴はタバコを吸いに行っている。
私の隣にいる和馬は、奴に電話をかけている。

キャンパスの使用電力が90%を越えたため、冷房がついている場所が限られた。そのため日差しと暑さからの逃避という目的だけのため、奴がとっている広告消費文化論の授業に、私と和馬はもぐりこんだのだ。
つまり、この中でテストを受けるのは奴だけ。


汗だくになった奴がうちわで扇ぎながら、後方の階段から駆け降りてくる。
和馬は涼しげに、東野圭吾を読んでいる。
私は黙ってさっきの走り書きを渡す。
汚い字をまじまじと見つめる奴。
手帳にでも書き込むかと思えば、そのメモを黙ってポケットに入れた。
不覚にも、授業がおもしろかったためノートもとってしまった。
案の定それが返ってくることも、二度と無かった。


〈まったく私は何をやっているんだろう…、ていうか私がいなかったらテストどうなってたんだよ!!〉

だなんて、口に出せない。
後日、女子会に来られなかった香奈と結菜にも話した。

私も奴と距離を置きはじめた。
もっぱら挨拶はするが、喫煙所にいてもできるだけ自分から話をふるのは避け、代わりに沙那さんや和馬さんなど他のメンバーと話すことの方が多くなった。
あの夜を経てから、学校で奴から私に話しかけることは皆無であった。

話しかけたとしても、いつもどんよりとした暗い瞳で冷たいリアクションを返す。
もちろん会話は続かない。
辛かったけど、奴が甘えているだけだと思って我慢していた。本当の奴の姿を私は知っている、そう言い聞かせて。

だから今は無駄な努力をやめただけ。
これですべてうまくいくと思っていた。

ある日、朝勃ちしたから会いたいというメールがきて初めて無視してみた。



午前の授業を終え、喫煙所に行ったら、奴のビー玉みたいな瞳。潤んでいて心細げ。
そして優しく話しかけてきた。
数週間ぶりに。