Startin' over… -89ページ目
「もしもし、俺ん家来るしょ」

え?

え?


トイレットペーパーを持ったまま凍りついた。
駅まで引き返さなきゃならないの?
午後はコーヒーで空腹をごまかしていた。
居酒屋でたらふく固形物を食べる夢が壊れた。



「居酒屋じゃないんだ。」
それを言うので精一杯だった。
「うん、だって飲むだけでしょ」
〈いやいや、お腹空いてますから〉
「うん…あ、家に食材ある?」
「無いけど。」
「じゃあ私そっちの駅まで行くから、駅前の焼鳥屋かどっかで飲もうよ。」
〈本心:わざわざ引き換えして行く気は無いし、無論家なんかにも行くつもりはない、外で飲まないなら冷蔵庫の豚肉早く処理しちゃいたいんですけど!(怒)〉
「なんもいいよ、食べ物はおかんからの煮物あるし。」
〈煮物だけじゃ足りないよ!(泣)〉
「わかった…私今トイレットペーパー持ってるから家に置いて、それから行くね。」
〈肉腐るべやーーしかも明日小テストだし!(怒泣)〉
「え?」
不機嫌な口調。
「どれくらいかかる?俺和馬ん家行くからよぉ」
「あ、そんならいいよ、家開いてなくても、私外で待ってるから。」
〈経験済みだからね〉
「え、いいよ。ゆっくりおいで。危ないじゃん。」
〈この前待ってたんだけどな〉
「大丈夫だって。」
「わかった。じゃあお前来たらすぐ和馬んとこ行くわ。」


そのあとうんざりして家に着いたのは言うまでも無い。
明日の小テストは単位にも響いてくる。絶対に落とせない。
なのに、こんなことになるなら一人で飲んだ方が100倍ましだった。


そのあと、あまりにも行きたくなくて、また今から断ろうかとも迷って、出発するまで30分もかかってしまった。
奴からの電話も2回あった。
無理ならいいよ、そう言われるほど、大丈夫と強く答えてしまう。


冷蔵庫の豚肉と買ってきたたまねぎ、ピーマンが惜しかったので、そいつらを連れて駅まで引き返した。
食事だけ。そう唱えながら。
帰る途中、トイレットペーパーが特売だったので買っていった。
一度家に置いてから、スーパーへ行こうか。


今日は長時間一緒にいたせいか、帰り際の奴は穏やかに見えた。
あんな表情を、毎日見せてくれればいいのに。


何気なく携帯をとったら、奴からのメール。

「和馬ん家寄ったあとでいいなら、飲んでやってもいいぞ。」


琴美や千恵の言葉を思い出した。
だから無視しようと思った。

でも…





でも…






泊まりじゃなくて酒、ただの酒。
一人より誰かとの方が楽しい。
あっさりと電話をしてしまった。
また、飲み屋が多い私の家の近くまで来てくれると思った。
そして、最悪のシナリオが始まるのだった。
女友達の忠告ほど聞くべきものは他に無い。
まさか、ロシア語にДо свиданияするだなんて。
キャンパスの農園近くで夕涼みをしていた。
ビールがあれば、さらに最高。
一緒の二人もそう思っていただろう。

「あーー帰りたくねぇ。」
「飲みたい、」
「勝手に飲めし、お前一人で飲め。」
奴はアメスピをふかす。
自分のことを本気でイケメンだと思ってる。
「ごはん食べるのも面倒くさい。」
ボソッと和馬がつぶやく。〈それ重症だって!〉
和馬の細長い体の秘訣はそれ?

「和馬、今日俺のおかん煮物送ってくるからあとで届けるわ」
和馬がイェーイと控えめだがかわいく喜ぶ。
それから奴は和馬に煮物に使われているたけのこについて語り始めた。

帰るのが遅くなると、いつも家で勉強しなきゃと思う。
だけど自炊して洗い物まで済ませるといつも10時を過ぎる。


「たまねぎ無かった…」
どうやらスーパーにも行かなきゃならない。
おまけに今日はすごくお腹が空いている。
朝はコーヒー、昼はおにぎりと昨日の夕飯のあまりの唐揚げ3つのみ。



何時間この二人と過ごしただろう。

帰って缶ビールを寂しく開けるんだろうなーと思いつつ、家路に向かう。