Startin' over… -51ページ目
「すいません、20分くらい出てきます。」
生徒現状を一切把握していない上での無駄な自習フォローをする巨漢に伝える。
PCは置き去りにし、バッグと新聞だけもって休憩に出る。
あいつはどこに行ったのだろうか。

カツ丼派とは聞いていた。
一方で私は牛丼派。
だけど先日牛丼チェーンの前で鉢合わせた。
いけないこととわかっていながらも、ぼんやり歩くふりをしつつ祭りで賑わう街の中
あいつの姿を探してしまう。
会話が必要な子だ。
私の感情を抜きにしても。

結局例の牛丼屋に入ったが、見事に会うことは無かった。
ポテトサラダの食券を買う。
朝から何も食べていなかった。カフェのコーヒーより安い。
ここに来て正解だ。

「これね、親がいなくてごはん食べて帰る日。」
「そうなんだ。」
授業日程のカレンダーに、バイトのシフトが書き入れられている。
休み希望を出さなかったら、お盆休みはすべて入れられたとのこと。
大量の宿題をこなすため、LINEでシフトを代わってくれる人を探したが無理だったらしい。


一度休憩時間にごはんに誘ったことがある。
あっけなく断られ、脳内で超新星爆発を起こしたこともある。
この講師としてあるまじき好意、いや行為。
勘違いも甚だしいものと家に帰ってから荒れていた。
ただ、あいつの態度が急変するかと思ったがいたって普通。
後日信頼できる友人に分析してもらったが、
「ただ単に家帰ってごはん食べたかったんじゃない?」
という結果だった。
しかも、
「休憩中って言ったから気遣ったんだだと思うよ。
仕事終わりならまだしも。」
と付け加えられた。
超絶副詞句。
その頃のあいつは、英文でもどーでもいい単語に騙され主節を追って読解することができなかった。
「名古屋弁でさ、ありがたいって、なんか役に立つみたいな意味、なんて言うか。」
「helpfulやgratefulみたいな意味?」
「そうそう、そんな感じ。」

祭りの後の、夜の街はさらに賑わいを見せる。
自宅の前は通行止め、また盆踊りに邪魔され道路の横断はできない、
通勤中は出店が並ぶ通りに入ってしまい前に進めない。
教室の中でも、太鼓や笛の音色が容赦なく入ってくる。

休日出勤であることを後輩講師がもらしてしまい、あいつにばれる。
別に構わないけど、頑張ってると思われるのが恥ずかしい。
そんな中、現代文の添削を9時過ぎから始める。
普段甘えてくる女子生徒さんたちは、今日は一斉に祭りへ繰り出している。
事実夕方出勤途中に、浴衣姿の女の子に声をかけられた。

「先生ーー!!」
教室の中と違ってテンションが高い。同じく浴衣姿の友達と一緒だ。
「あーーーー!」
名前が出てこない。
「こんにちは。」
「こんにちは。かわいいねーー!」
褒められても謙遜するような子だ。
「先生と写真とりたい。」
「え、汗かいてないかい?」
友達がカメラを向ける。
この日の気温は33℃。日焼け防止とはいえスーツのパンツに白の長袖シャツは暑すぎる。
祭りの人ごみに巻き込まれ、ただでさえ暑い。
片腕だけ腕まくりし、すでにくしゃくしゃ。

化粧をしていてよかった。
久しぶりにつくった笑顔は笑顔になっているだろうか。

「じゃあ、楽しんでね。」
「はい、さようならー。」

英検の面接練習に付き合ったに過ぎない生徒さん。
合格した。すべて彼女の実力だ。
にもかかわらず、外で、こんなになついてもらえるのは実に幸せだ。

クーラーのきいた教室で、報告業務とスケジュール調整で、無駄に遅くまで過ごす。
自分だけのための仕事。やっていなかったつけを払っている。
その間要約文を作成し、あいつの参考になればと思う。
決して褒められるような文章は書けない。