クリーニング屋に行く時間が作れず、思い切ってエマールでスーツを洗う。
体験授業。
自分の力が試される場面である。
思えば4年間、ただ稼ぎたいの一心でこれらを引き受けて来た。
料金に見合うと思って頂ければ、自分の担当になって頂ける。
午前1時までファミレスで過去問をサーフィンしていた。
覚えるとのと、教えるのでは勉強の仕方が異なってくる。
もちろん後者の方が面倒だ。
今日も追試を行った。
「ちょっと、21時からだよ。」
「帰んないよ、日本史の教科書しまっただけ。」
結局昼間は余裕があったものの、授業後の自習フォロー、外部での事務作業、
そして夕方からの授業で結局この時間。
生徒さんそれぞれに宿題を用意し、必要に応じて英語や現代文の添削をする。
あいつばかり見ているわけにはいかない。
お互いの間にある、妙に腹の底まで見せたかのような空気感。
周りに作用することはあるのだろうか。
「はい、お待たせ。何分いる?」
「って、もう30分も無いじゃん。」
単なる文法テストだ。10分で終わらせてほしい。
「いいから時間決めて。」
今日で4回目。
「え、1個目のやつも含めて?」
「あ、忘れてた。」
「う、言わなきゃ良かった。」
「そうだよ時制とこも再試だったね、待ってて!印刷してくる。」
あいつが少し不服な表情をする。
お盆休み前に膨大な量の宿題を渡したときのように。
でもなぜか少し楽しそう。
「はい、じゃあ12分12分でやってね。」
「時間ないよ。」と言いたげな目。
今日は藤原先生に頼んで、あいつへこれからの勉強の仕方をアドバイスしてもらった。
去年の繰り返しにはさせまい。
絶対に大学に戻らせる。
そして二つの志望校の両方に合格、それ以外の選択肢は無い。
向かいのブースで二人は授業をしていたが、
彼女の言葉だからこそ、響いた模様。
なぜ私だと伝わらないのか、トホホな気分になったが
少しでも合格に近づくなら嬉しい限りだ。
このチームで動けることに感謝する。
生徒さんの残り人数が少なくなった教室で、
思いっきり赤ペンで丸をつける。
私の丸は馬鹿みたいにでかい。テスト用紙やノートを、破いてしまうことも
しばしばある。
だが、小学生から高校生、さらには社会人の生徒さんまで
このでか丸を欲しがって下さる。
「そのことについて考えずにはいられない。」
二通りの書き換えを出した。
I can`t help thinking about it.
I can`t but think about it.
昨日はどちらもing形。今日はbutの文に、なぜか”物”という単語をぶちこんできやがった。
あいつがひょこっとこちらをのぞく。
あえて声はかけない。
何とか丸は連続している。
「ちょっと。」
「え、何?」
「これ。」
「あ~忘れてた。」
「倒置でしょ。if無いんだからshould前に出して。」
「あとここ。」
「うわ~。」
ほめられるのと、おこられるの、
どっちが嬉しいのか、この子は。
「一個わかんないとこあった。」
「どれ、これかい。」
「そう。」
「え、待って。」
( )が無駄に二つある。
「間違えたの?」
「・・・はい。問題ミスです。・・正解!」
()に×をつけ、またそれ以外の英文が合っていたのでどちらにせよ正解。
恥ずかしいことに初回テストでは問題ミスが3問あり、すべて正解にした経緯がある。
ただそれでも合格点には達していなかった。
「何点?」
「50分の、49!はいよく頑張った!合格です!」
「やった~。」
気が抜けたように喜ぶ。
「明日英語だけですか?」
「ううん、両方やるよ。」
「何持ってくればいいですか?」
「ううんと、サイードとネクステ。」
ただただ、生徒と講師。
「明日はもう一個の追試やります。」
「はい。」
くしゃっと笑う。
「さようなら。」
「さようなら。」
23時に教室を退勤。
ひんやりした夜の空気は、一人で歩くのにちょうどいい。