Startin' over… -36ページ目
翻弄された講師はどれだけいるだろうか。
知っているだけで伊藤、藤原、数えればいくらでも上がってくる。
どれも私が信頼している講師ばかりだ。
どうして努力している、責任感のある講師ばかりこのような目に合うのだろうか。
一方で無責任、指導力が無い講師はいきあたりばったりで教室長にふられる
コマをいたずらに片付けて行くだけ。
給料泥棒も甚だしい。
自分で講習をとっていないから、契約にこぎつけるまでの苦労を知らないのだろう。
一生懸命な講師の数人は、カリキュラム作成でどんなに苦労しただろうか。


「じゃあ、土曜日の21時は?」
「いいですよ。」

日本史2コマ、古文が4コマ終えた後。
計7時間授業。
どんだけコマの無駄遣いなのだろう。
本当に合格させる気はあるのか、この会社は。


「ね、それ私にもやらせてよ。」
「だめ。」
「なんで。」
「これ見て。」
「何?」
「半年くらい前めっちゃ課金してた。」
「あら。魔法石何個もってるの?」
「7個。」
「普通はどれくらいなの?」
「うんとねー・・・・・・。」

それからそのゲーム、ポケモン、その他ゲームについてたくさん話してくれた。
一生懸命に話す姿がいじらしい。

「先生ゲームしないの?」
「うん、買ってもらえなかった。」
「そうなんだ。」
「だから大学の授業でゲームとかの話になると死んでたよ笑」
「へー。」
「教授にね、ニコ動のアカウントもってない奴終わってるって言われた。」
「どんな授業?」
「コンピューターの歴史について。すごいよね。ジョブスはさ、ウォズニャック引き入れて
その技術を商売にしちゃうんだもん。70年代にはさ、次はオタクが世界をつくるって予言してたんだって。」
「へー?なんでオタクが世界とるようになったの?」
「元々政府に対抗するための手段としてパーソナルコンピューターを持とうって動きがあったの。
60~70年代はベトナム戦争の反対運動があって、ロックも盛り上がってたよね。」
「ロックとかわかんない。」
「あれ?BUMP聴くんじゃなかった?」
数日前に知ったことだが。
「そこまでロックじゃない。」
「そう。」



時計を見るとまだ10分しか経っていない。
ぽんぽん会話が出てくる。
イライラする待ち時間。
生徒さんに悪影響を出している今日この頃。
感覚が麻痺してきたのか、講師としての根性が腐っているのかはわからないが
私は純粋に会話を楽しんでいた。
ただ純粋に、おもしろい奴だな。
そう思っていた。
その後はSTAP細胞報道について話した。
かの女性ユニットリーダーは、はめられたのではないか。
それが私たちの直感による共通認識であった。
他にも話したけど、あいつは唱われてること、叫ばれることをそのまま受け取ることはない。
ある意味ひねくれているのだが、それは鋭い洞察力に基づくもの。
決してSTAP細胞報道の見解のみから判断したわけではない。
だからこそ、大学に行ってほしい。
刺激的な人間である。

その数日前だった。

朝方に眠り、現代文の構成表をつくるため午前中はカフェで過ごした。
その矢先、教室長からメールが。

開室時間に間に合わない。鍵は自分が持っている。

何回目だろうか。
まずカウントできることからして崩壊している。
13時から授業の生徒さんに影響が出る。
あいつの授業ができない。


急いでエレベーターに乗る。
シャッターの降りた教室、無様なものだ。
そしてあいつ非常階段の隅に目をやると、あいつが待っていた。
某パズルゲームをやっている。

「ごめんね!何分待ってた?」
あいつに事情を伝える。すぐさま他の曜日で振替をさせてもらえないか
お願いする。
「うんとねー、でも授業うまってるよ。」
「え、どういうこと?」
「伊藤先生が今月に夏期講習コマ消化するのに明日5連コマ。」

急な通達。
後に確認したが割引適用で申し込んだコマは、8月中に消化するようにとのこと。
上の気分で決まったらしい。
ふざけんな。
「おはよう。」
オレンジのイヤフォンをはめたままのあいつに声をかける。
「おはようございます。」
驚いた様子もなく、こちらを見る。

きっと本屋か電気屋かチカラ飯にでも行ってたのだろう。
だから偶然会ったに違いない。
わざわざタイミングを見計らって現れた。そんなはずはない。
そういうことにしておこう。

「宿題終わった?」
「え、何のですか?」
揚げ足とりか?こちらの質問力が低いのか。


「あれ、あれだよ。あそこ。」
学校名が出てこない。関西の某私大。
「あーあそこなら終わりましたよ。」
「そう、ならいいんだけど。」

塾までの100mにも満たない道。
二人で並んで歩く。
気になるのは距離が近いこと。
運良く今日は講師スイッチが入っていた。
ただただ講師と生徒の会話をする。
この前と違って。