Startin' over… -19ページ目
海の写真を撮りに行く夢を見た。
故郷の浜辺。思い出すのは灰色の空の下、群青色にたなびく水面。
しかし、なぜか季節外れの晴天の元、真っ青に輝いている。
もちろんあいつも出てきた。


仕事でつまらないミスをした。
お客様に授業という形でサービスを提供する。
人からは正論と呼ばれる基本信条も、行き過ぎた場合は悪なのであろうか。
敵は他方向からこちらの弱点をあぶり出し、吊るし上げようとする。

私は欲しくてたまらない。
自分を正しいと認めてくれる人間、男性を。
心なんか支えられても、満足はしないのだろう。
身体ごと、乱暴に受け止めてくれる存在。

あいつと仲直りした。
少しばかり、会話と笑顔を増やしただけ。
どういういきさつでそうなったかはわからないけど。

コンビニ裏の暗がり。
「ねぇ。」
「ん?」
どちらとも言わず、いつもの道を歩いて行く。
「解答持ってきた?」
「え、置いてきたよ。」
「まじかよ。」
「え?なんかまずかった?」
「うーん、あれね禁止になっちゃったの。」
「どゆこと?」
「あれ、私自腹切った奴なんだ。」
「へー、そうだったんだ。」
「違うの、経費降りなかったの。」
人の使い方を見ていると、削減すべき箇所は自明である。
「へー。」
「だけどセンターの過去問もやっちゃったし、あなたやるものもう無いからね。」
「じゃ、明日採点やるよ。教室ついたら。」
「よろしく。」
「先生、いつまでいないの?」
「明後日まで。」
「どっか行くんですか?」

内定先の会社まで、はるばる海峡を越えて行かなければならない。
初めてだ。ここ半年。
平日で2日以上教室を空けたことがあっただろうか。
絶対に漏れが出るだろうから、小坂先生にも全体を注視するよう連絡しておいた。

大通りに出たけど、知り合いに遭遇する確率は高くないと経験的にわかってきた。
ときたま制服姿の女子高生を見ると、距離を開けて歩いてはしまうが。

「寝ようかな。どうすればいい?」
「え、寝たらいいんじゃない?」
「あなた起きれる?こういう時。」
「うん、起きる時間の2時間前とかに起きちゃう。」
「いいねー。自分で体内時計調節できるんだ。」

それから教室のことについて少し話した。
生徒視点からしても、不信に思うことは多々ある。
それどころか、”すべて”ではないから許されるのではという流れで進んでいるおかしな現状。
着せられている濡れ衣はどれだけ重いのか。仲間内でさえそれを推し量ってくれる人間は探すのに苦難を伴うかもしれない。

「こんなこと、生徒さんに話して、いいのかな・・・。」
「いいんじゃないですか。」

その笑顔にどれだけ救われたか。
むしろ、すがりつこうとしているのかもしれない。

「こっち曲がるんでしたっけ?」
「どっちでもいい。」

背後を振り返ることもなくなってきた。
コンビニにフェイクで立ち寄る必要も無し。

もう、家の前だ。



あなたを家に連れて行くつもりはない。
ひょっとすると今すぐ口付けし、火の中にまっすぐ堕ちていくのかもしれない。

挨拶もろくにできない関係になってしまうのでは?
そんな風に思うほど、私たちの関係は冷え込んでいた。

関係?と言ってもやましいことはない。
ただのしがない塾講師と生徒の関係。
ただ、他のの生徒さんの対応に追われ、あいつと話す時間は良くて5分もあればいいくらいであった。

無機質な宿題の進度チェックを除き、質問らしい質問もしてこない。
それどころか、センター予想問題のチェック表の記入の仕方(ただ大問ごとに点数を記入するだけ)、宿題の手をつける順番、正直言って聞くに値しないことばかり聞いてくるのに、私もイライラを隠せなかった。
生理前だったからであろうか?

どうしても推薦入試が近い生徒さんや、勉強習慣付けが必要な高校2年生、英文読解に取りかからなければいけない社会人の生徒さんに時間が取られる。
何せ彼女・彼らは貪欲に宿題をこなし、夢に向かって努力を惜しまない。
後回しにする理由があろうか。

業務を終え、珍しく22時前に教室を出る。
教室の隅で単語帳を眺めているだけのあいつを残して。

非常階段を降り、荷物を端によせ、コートのポケットからマルボロを取り出す。
火をつけ、煙を吐き出す頃、
あいつが降りてきた。

「ごめん、けむいよね。」
風下に向け煙を吐いた。
「いや、大丈夫です。」
こちらの視線にあいつの目が合おうとした瞬間
「じゃ、気をつけてね。」
「さようなら。」

前なら、いっしょに帰ってもおかしくないような状況で
楽しくなくとも普通の会話をすることさえなくなった。

”担当変更?”
そんな邪念が第一によぎる。
どうやら私は商売人に過ぎないらしい。


”風邪気味?”

そんなこと言ったって出勤しなけりゃいけないことに変わりはない。
それどころか

「39℃の熱が出てしまい授業をすることができません。」

やや中堅になりつつある女の子の講師から。
社員のアドレスが知らされてないが故、朝一で私の元にLINEが来た。
よくあることだ。

「大丈夫ですよ。私が代講することになりました。」

ゆっくり休むよう言ったあと、今度飲みに行こうという一言を付け加え返信した。

疲れが溜っているのか?皆。

日曜の夕方から、十数時間に渡って飲み会をした。
朝方の繁華街。始発待ちのホームは程よいほどに賑やかだった。
寒さが身にしみた。レザージャケットの季節はもう過ぎてしまったのか。
そのせいとは言わないが、今朝から喉が痛い。


朝方から昼にかけて十分すぎるほどの睡眠をとり出勤。

「はい、お待たせ。では英作ください。」
「やばい、文法けっこう間違ってると思うけど。」

某私立大学の最後の大問。
一つの話題に対し自分の意見を書くというもの。
悪くない。シンプルな文法で書かれていて、先日教えた論理展開に則っている。

「SVO。supposeの後ろthat省略した。」
「そこまで考えてなかった。笑」

でもいい。意見表明。その理由。形式はしっかりしている。

「お、いいじゃない。ただね、whileのかたまりあるじゃない、対比関係になってないよね。」

While we tend to be indifferent to drivers when we`re on a sidewalk, So・・・
(私たちは歩道にいるとき、運転者には無関心になりがちな一方、だから・・)

その後にすぐ意見のまとめに入ってしまっている。
この後ろに車道を自転車が走る際の問題点をドライバー目線で書き、事故が起こりかねないことなど危険性を指摘できれば説得力のある文章になるだろう。

「そっか、例えばit is probable to be hit by cars.とか?」
「おお!いいじゃない!素晴らしい!!」

元々の国語の力もあるのか。そして6月から構文力を鍛えた結果なのか。
さらっと受け身の文を投入してしまう彼女の力に感心した。
センターならあとプラス20点。どうしても強化したい。

私立対策とセンター対策の両立。
時間割の構成が悩みどころである。


それと自分の英語力の強化が問題である。
冬期講習に向けて、私大の過去問研究の貯金を作らねば。

「では次回はセンター2013年。よろしくね。」
「ありがとうございました。」
「だんだんできるようになっていくね。頑張って。」

次は高2の英語。範囲は完了形。
中学英語から弱かったが、深く知ると理解できる子。
復習し定着させるのが最重要課題。
その次は医療系志望の高3。入試前の仕上げ。
発音問題にさえ着手できた。あとはイディオム・単語など直前まで伸びる範囲を徹底的にやり込み知識を整理するだけ。関係詞の問題はお手の物。
そして最後のコマはあいつだ。

レッドブルを一口飲み、もう一戦。
「解いてみた?」
「うん。」

志望校2校のうちの片方の赤本。
私の母校の問題。
きれいに文法問題だけ間違えている。

「おお、わかりやすいね。」
前回の面談で指摘したばかりの伸び悩み部分。
「時間無くてね、適当にやったら間違えてた。」

聞いているのは単語かもしれないが、文法機能を無視しては得点できないようになっている。

「はい、それじゃあ正答入れてノートに書き写してください。構文とってください。」
「どっから?」
「ん。そのメインの文から。」
「Whenから?」
「そこいらない。I was 以降でOK.」

メインの文、すなわち主節を見抜く練習、どれだけしてきただろうか。

「そのthatの役割何?」
「接続詞?」
「じゃあその後ろのwas builtは?なんでいきなりV’があるの?」
「あ、そうか。」

これで読解問題がすべて正解していたのが不思議でたまらない。
といっても去年散々過去問演習をしていたのだから、初見の問題ではない。
故に本番の得点を予想する判断材料にはならない。
それを如実に示すかのように、センターの過去問と予備校の予想問題集で得点の開きが大きかった。

「最近ね、喉痛い。」
「そう、風邪気をつけなきゃね。」
「うん。乾燥してるからさ、風邪ってほどじゃないけど喉ヒリヒリすることある。」

今日はいっしょに帰った。
どうってことない会話をして家の近くまで。
だけど先週一週間は壁ができて、そりゃひどかった。