挨拶もろくにできない関係になってしまうのでは?
そんな風に思うほど、私たちの関係は冷え込んでいた。
関係?と言ってもやましいことはない。
ただのしがない塾講師と生徒の関係。
ただ、他のの生徒さんの対応に追われ、あいつと話す時間は良くて5分もあればいいくらいであった。
無機質な宿題の進度チェックを除き、質問らしい質問もしてこない。
それどころか、センター予想問題のチェック表の記入の仕方(ただ大問ごとに点数を記入するだけ)、宿題の手をつける順番、正直言って聞くに値しないことばかり聞いてくるのに、私もイライラを隠せなかった。
生理前だったからであろうか?
どうしても推薦入試が近い生徒さんや、勉強習慣付けが必要な高校2年生、英文読解に取りかからなければいけない社会人の生徒さんに時間が取られる。
何せ彼女・彼らは貪欲に宿題をこなし、夢に向かって努力を惜しまない。
後回しにする理由があろうか。
業務を終え、珍しく22時前に教室を出る。
教室の隅で単語帳を眺めているだけのあいつを残して。
非常階段を降り、荷物を端によせ、コートのポケットからマルボロを取り出す。
火をつけ、煙を吐き出す頃、
あいつが降りてきた。
「ごめん、けむいよね。」
風下に向け煙を吐いた。
「いや、大丈夫です。」
こちらの視線にあいつの目が合おうとした瞬間
「じゃ、気をつけてね。」
「さようなら。」
前なら、いっしょに帰ってもおかしくないような状況で
楽しくなくとも普通の会話をすることさえなくなった。
”担当変更?”
そんな邪念が第一によぎる。
どうやら私は商売人に過ぎないらしい。