昼の明け方 | Startin' over…
死にたい気持ち、一人でいることへの虚無感と絶望感、気持ちをコントロールできず、
大学へ行く日だったが休んだ。
耐えきれず慎吾にメールした。
朝日が昇り、ゼミ生に休む旨を連絡し、眠りについた。
どうやら今日は雪が降ったらしいが、昼過ぎに目を覚ました頃には止んでいた。
朝一(昼の13時は回っていたが)で、面談と報告書作成の件を処理。
こんなにも精神をすり減らしていても、仕事をする自分が、どこか変に誇らしげで、笑いまでこみ上げてきた。
きっとこれは同じチームの伊藤先生のおかげ。
当初は噛み合ない所があるかもしれないと、心配であったが今やいい同志である。
何としてもチームで結果を出したい。

それから間もなく、慎吾から電話がきた。
「おはよう。」
「おはよう、大丈夫か?」
「結局休んじゃった。」
「気にするないべ、こんなに一生懸命やってるんだから。」

朝一でメールが入っていた。
生徒からの信頼はあるのだからそれを誇りに思って仕事をするべき、まして今の職場に就職するわけでもないんだから。
本当はもっと、ぶつけたいものは他にあったけど、出てくるものは仕事の話ばかりであった。
”教師”としてアドバイスをくれる。
「俺は嬉しいよ。お前とこんな話ができるなんて。
そうやって一生懸命生徒のこと考えてやってるなんて、教師冥利に尽きるわ。」
ぽんぽんと問題集、宿題の出し方、ゴールまでの間に合わせ方。
あらゆるアドバイスが出てくる。そして楽しげに話す。
やはり彼のいるべき場所は受験指導の場では無いのか。
「だから羨ましいよ、俺からしたら。」

”基礎を徹底的に”。
それができればどんなに簡単だろうか。
それができる講師は少数派だ。
慎吾の授業は違った。
「同じ説明何回したって、そいつがわからないなら伝わるわけがない。
だからこっちが言葉を変えて、そいつがわかる形に落とし込まなきゃいけない。」
私の数学コンプレックスを救った男。
私の家族不信から救った男。
尊敬できる部分は今でもたくさんあり、思い返せば魅了される部分も数えきれないほどある。

そして彼は私の授業の基盤をつくり上げた男。
もし私に幾ばくかの顧客からの信頼と実力があるならば、慎吾無くして得られることは、絶対になかった。
ただ左腕を隠せるがために選んだこの仕事。
成功しているかはわからないけど、思ってた以上は手に入れたのだろう。
そしてまだ終わってはいない。

「引っ張りだこなの、空き時間。」
「いいべさ。」
「バランスとるのが難しい。他の子に偏らないようにするの。」
「時間指定とかしてる?」
「うん、それは。」

質問対応をする際、空き時間と授業時間を聞かれる。
準備時間などを考慮し、生徒さんに時間を伝える。
そういえば、慎吾もそうしていた。
ただ今は、その空き時間さえすべて食いつぶされている。

「限界が無いの。いくらでも求めたらくれると思っている。」

添削、テスト作成、そして雑談。
顧客が求めるサービスは底なしに多い。

あいつにかけられる時間が減っている。

「当たり前だべさ。」
「え?」
「だって求めたら返してくれるんだもん。そりゃしっかりやってる奴のとこには来るよ。」
「そうなの?」

意外すぎる返し。

聞く所によると、かの業界でも力の無い講師のところには全然生徒は寄り付かないとのこと。
だからうまく手を抜いて何年も居座る人間もいる。
慎吾ほどのキャリアになると、その差は歴然。
大学在学中のみでおいても、4年という講師生活の過ごし方が、現在大きな差として顕在化されてきている。

小坂先生が言った。
「先生、社員だと思われてましたよ。」
「え?うそ?」
「生徒さんから信じてもらえなかったし笑
学生だって言ったら、”だってプロじゃないですかー!”って言ってました。
その上、”じゃ、先生何なの?”って言われたから、はい、すいません。って言いました。」

小坂こそプロの仕事をしている。
彼ほど生徒に寄り添い、時間・労力・能力持てる限りのものを捧げ、生徒さんを合格へ導いた。
住田先生も私もいっしょに担当していたが、チームで合格をお手伝いする、この喜びはひとしおだ。
お客様が求めるものを提供できた、最高の瞬間。

センター試験まで一ヶ月。
まだまだやれることはある。
あいつの合格だって、決して諦めはしない。