既視感 | Startin' over…
あてつけではないけど、後輩と飲みにいった。
授業終了後、何もサインを出さないあいつがもじもじする。

今日引き止めたら、感情が爆発するかもしれない。
ただでさえ教師つらしさを失った教室。
飲む理由には十分事足りていた。

退勤し、例のコンビニで、もっぱらその講師は店内であったが待っててくれた。

「お待たせ!さぁ飲むぞー!あ、セブン寄っていい?金下ろさなきゃ。」

メンズノンノを立ち読みしていた彼、小坂先生は私の後釜として育てたい講師。
あいつと同い年。スーツを脱げば、ちょっとおしゃれな大学生。

圧力がかかっていないか心配だ。
情報共有と名目を打たずとしても、今年に入ってから急速にいっしょに飲むようになった。
もっぱら私が多く払う。
兄さん、こと住田先生ほどではないけれど、おごってもらった分は後輩に返す。
次は自分の番だと思った。

「どこ行く?」
「どこでもいいっすよ。」
「んじゃ、とりあえずこっち歩こう。」

あいつといっしょに帰る暗がりの道。
特別な感情は無くとも男性と歩くのは変な心地だ。
あの子の時と違って、会話がぽんぽん出てくる。

好きになるって辛いものだ。

「どよ、最近飲んでる?」
「いやー、あ、13日飲みました。」
「あらいいじゃない、ちゃんとリア充してるね!」
「あれ、どこ行ったんだっけな?」
「なーに、どこさ。」
「えー、どこだっけかなー。全く記憶に無い。」

デジャブだった。
どこかで聞いた事のあるくだり。

「大問4どうだった?」
「え、何の?」
「前回の模試。復習終わったんだよね。ほら映画の話。」
「え、全っ然覚えてない。やったことが記憶に無い。」

一概には言えないが、男性の記憶ってそんなものなのか?
勉強したこと(した事実)さえ覚えていないとはその程度、という認識は少しばかり短絡的なのではと思わざるを得なかった。


「あ、思い出した!海鮮丼食べました。」

かの日本中からの魚介類が集結する場所へ友達と繰り出したのこと。
「普段地元ばっかだったから、記憶から飛んでました。あ、その日飲んでないです。
次の日でした。」

「どこ行く?」
「あったかいものがいいですねー。」
「じゃ、鍋でもどお?」
「いいっすね。」

二人して、赤になりそうな信号を小走りで渡る。
いつかもあいつと同じことをした。
教材がブリーフケースを胸に抱え、置いていかれぬよう走る。
いつかと同じ。オーバーラップした。


なお生徒さんが帰ったあと、教室にはいたずら電話が二回。
他の生徒さんを見送っていた時、いつもと別の道を歩くあいつの背中を見た。