参考書をしまおうとするあいつ。
人の時間を食ってしまうのは、嫌だと考えるが
あいつは気にしていないらしい。
「おれ2年くらいずっと夏休み。」
「600連休くらい。」
これがあいつの口癖。
前回の授業で扱った論説文の要約を添削していく。
原稿用紙に赤ペンを入れる。
中学・高校と要約はしたことが無かったらしい。
原稿用紙に向き合うことに対し、私は誇りに思っている。
例え稚拙な自分の文章でも、書き上げた際にはこだわりと少しの自信を感じる。
ただそれが添削され、赤ペンだらけになると悔しさを感じずにはいられない。
ただそれ以上に、もっといいのを書き上げてやるとリライトする。
受験生時代の要約文の作成にしろ、マスコミ受験の作文練習にしろ
書き上げたときの達成感は何物にも代え難い。
添削なんて、できる身分でも、力も無いけど。
「これ、え?」
「2枚半書いたよ。」
「400~500字指定だよね。」
「うん。」
「いっかお兄さん、ここに20×20って書いてるよね。」
「うん。」
「一枚何字?」
「うそ、え、まじか。いやだ書き直す。」
「うん、君1000字書いてるね。」
「どうりで終わらないかと思った。」
どうりで本文中の文がまるまる入ってるかと思った。
それでも譲歩、前提を排除し短文に凝縮していく作業をする。
指示後は具体的に言い換え、前の文に持って行き後半とすぐつながるように調整。
思いのほか時間がかかる。
論点にずれは無い、はずだ。
ほぼ本文を書いているのだから。
「ここはね、カットしよう。
『人間はスポーツを見るのを好む。』とはっきり言い切ってOK。
その理由として『他人の身体に同調し、限界に挑戦したいから』っていうのは文頭でもいいし、
なぜならで後半に持ってくるのもよし。」
「ふーん。」
と言いたげにあいつが見つめる。
「疲れた?」
「いや、全然。」
「別にね、だめって言ってるわけじゃないんだよ。」
目で相槌を打ってるかのよう。
「自分が書いた文章に赤ペン入れられるのってね、悔しいよね。」
「俺、全然今まで書いてこなかったからなんにもこだわり無かった。」
笑って答える。
”もったいないな”
あいつの少し斜めからものを見たり、深いところまで他人の横に降りて行けたり、
またこっちのボロを引き出しまくるような質問力、新聞記者に向いていると思わずにはいられなかった。
ちなみに何となく経済学部を目指していて、将来の夢は無いらしい。
この前も少し話した。
「ねぇ。」
「何?」
「新聞記者とかどう?」
「え。」
「向いてると思うけど。」
ただでさえ他の19歳と違う人生を送って来たわけだ。
人と違うもの、人には見えないものを見て来たのがあいつだと思う。
添削を離れて思う。
あいつに作文を書かせてみたい。