改正教育基本法が参院可決・成立 59年ぶり初の見直し

 安倍首相が今国会の最優先課題に掲げた改正教育基本法が15日、参院本会議で与党の賛成多数で可決され、成立した。戦前の教育の反省から「個の尊重」をうたう基本法は、制定から59年を経て「公の精神」重視に転じた。国会での論戦では、教育への国家介入強化の懸念も指摘された。「教育の憲法」とも呼ばれる基本法が改正されたことで、来年の通常国会以降、多くの関連法や制度の見直しが本格化する。 
 前文と11カ条という短さの現行法に比べ、改正法には「大学」や「私立学校」「家庭教育」など、新たに七つの条文が加わった。条文の数以上に大きく変わったのは、「個」の尊重から「公」の重視へという根幹をなす理念の変更であり、論争の的になってきた「不当な支配」論に一定の整理がなされたことだ。 
 改正法の前文でも、現行法にある「個人の尊厳を重んじ」という表現は引き継がれた。だがさらに、「公共の精神を尊び」という文言が加わったことに特徴がある。 
 「個」の尊重は、教育勅語を中心とする戦前の「国家のための教育」の反省のうえに築かれた、日本国憲法に通じる理念だ。保守層は「行き過ぎた個人主義がまかり通り、公の尊重が置き去りにされている」と繰り返し改正を求めてきた。 
 国会の審議で、とりわけ議論された末に、新設されたのは「愛国心」条項だ。「伝統と文化を尊重し、我が国と郷土を愛する態度を養う」という表現をめぐり、改正反対派からは「一方的に国が望むような価値観を押しつけるのはおかしい」という指摘が相次いだ。 
 安倍首相は「日本の伝統と文化を学ぶ姿勢や態度は評価対象にする」と答弁しており、学校現場に与える影響は少なくないとみられる。 
 もう一つの大きな変更は、国の教育現場への介入がどこまで正当化され得るのか、という点だ。 
 だれのどういった行為が「不当な支配」にあたるかは、法廷闘争にもなってきた。教職員組合や教育の研究者の多くが「教育内容への国家介入を防ぐための条項だ」と位置づけるのに対し、国は「法に基づいた教育行政は不当な支配にあたらない」という立場をとってきた。 
 最高裁は76年の大法廷判決で「どちらの論理も一方的」として、国家はある程度教育内容を決められる一方、不当な支配の主体にもなりうるとの解釈を示した。 
 今回の改正で、教育行政は「法律により行われる」と明記されたことで、国の介入が「不当な支配」と解釈される余地が狭まることは確実だ。
(2006年12月15日21時55分 朝日新聞)
引用 http://www.asahi.com/politics/update/1215/008.html

防衛庁の省昇格も成立し,1925年の治安維持法と普通選挙法の同時成立と似たような印象を受けています。

当初治安維持法制定の背景には,共産主義活動の活発化に対抗しようとする為政者の意識があったようです。
当時の日本共産党や共産主義者たちは,今日客観的に見ればごく少数の勢力に過ぎなかったものの,
その主張は暴力革命に対して肯定的で,実際に虎ノ門事件のようなテロが発生しています。
参考 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BB%E5%AE%89%E7%B6%AD%E6%8C%81%E6%B3%95

湾岸戦争やイラク戦争など不安な中東情勢,ここ最近では北朝鮮の核実験と,
国防を意識せずにいられない要素が多々見られる現実。
また,教師や塾講師による事件・事故,不祥事,学力低下問題などによって
教育に対する危機感を募らせざるを得ない現実。
14日の教育基本法案と省昇格関連法の同時可決は,国民にとって,
どちらが飴でどちらが鞭かはわかりませんが,法を変えても問題解決にはつながらないでしょう。
日本が強硬になればなるほど相手国も強硬になるものでしょう。
防衛庁が防衛省へ昇格することは,火に油を注ぐものかと思います。
テロ撲滅を世論に訴えてイラク戦争を開戦したブッシュの政策によって,
アメリカ国民はいっそうテロの脅威の中で生活しています。
愚かなリーダー達が,日本にアメリカと同じ道を歩ませないか,
60年前に終わったはずの軍国主義という過ちを再び繰り返さないか不安です。

本題の教育基本法に関しては,愛国心問題がやはり気になります。
06年6月1日の教育基本法衆議院特別委員会答弁において小泉前首相は,
 「態度というのは心のあり方を実際の行動で示していくことである。
  態度ということを考えると,どのような態度をとるか,
  それがどういう心をもっているかということにつながってくる。態度と心は一体である。」
 「態度も心も両方大事である。子どもに対して愛国心があるのかどうかは評価できないだろう。
  愛国心というのは自然に日常生活の中ではぐくまれるものである。
  自然に涵養され,それが態度になってあらわれるものである。」
 「(通知票について)実際の生徒を評価する項目として,
  この子には愛国心があるかどうかという項目は必要ないと思う。」
と言っています。
一方,臨時国会で安倍首相は
 「日本の伝統と文化を学ぶ姿勢や態度は評価対象にする」
と答弁しています。
やっぱりアベコベですな。
そもそも内面の自由を制限している愛国心の強要は,
憲法第13条 
すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

憲法第19条
思想及び良心の自由は,これを侵してはならない。
を侵しており,明らかに違憲でしょう。

憲法第98条第1項
この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。
従って,可決された教育基本法の少なくとも愛国心にかかわる部分は無効であると判断できそうですが・・・。

教育再生会議などでイギリスをモデルとして見習うなら,こういうことも見習ってもらいたいものです。
 ◇Patriotism is the mother of the war.  愛国心は戦争の母である。
  (イギリスの格言)
 ◇Patriotism is the last refuge of a scoundrel.  愛国心は悪党の最後の逃げ場である。
  (イギリスの哲学・文学者サミュエル・ジョンソンの警句)
休憩をはさんで16:45から再開された参議院特別委員会は,
与党不在,野党のみの審議となり,
18:00過ぎに,教育基本法案が採択された模様。

タウンミーティングやらせ問題等,
国民の不審が晴らされない中での強行採決は国民を馬鹿にしているとしか思えません。

美しい国日本を目指す安倍首相。
タウンミーティングのやらせ問題の責任は,給料返還で許されるとでも思っているのか!
彼の内閣はアベコベ内閣である。

<教育基本法>「与党の横暴」野党4党が抗議集会

 与党の単独採決で教育基本法改正案が衆院を通過した16日、野党は4党合同の抗議集会を国会内で開いたほか、東京・有楽町で幹事長・書記局長らがそろって街頭演説を行い「与党の横暴」を国民に訴えた。対する与党は野党の審議拒否を批判し、単独でも審議を進める強硬姿勢を崩しておらず、双方が正当性を主張しながら一歩も引かない緊張状態がしばらく続きそうだ。
 抗議集会には民主、共産、社民、国民新党の衆参議員約150人が出席。いじめや履修不足、タウンミーティングのやらせ問題が拡大する中での採決に「徹底審議を要求しているのは野党、審議拒否したのは与党だ」(又市征治社民党幹事長)などの非難が相次ぎ、民主党の鳩山由紀夫幹事長は「参院でこの恨みを晴らそう」と徹底抗戦へ野党の結束を呼びかけた。
 これを受け4党の参院国対委員長が同日、扇千景参院議長に野党抜きで審議に入らないよう申し入れたほか、夕方には鳩山氏らが街頭に繰り出し「安倍晋三首相は子どもたちに規範意識が必要と言ったが、規範意識が一番欠けているのが首相、文部科学省だ」(市田忠義共産党書記局長)などと気勢を上げた。
 一方の与党は衆院本会議での可決後、自民党の中川秀直幹事長が「審議は十分尽くされた」と記者団に強調。特別委の与党筆頭理事を務めた町村信孝前外相は自民党町村派の会合で「静々粛々と採決できた」と語り、採決に欠席した野党の「戦術ミス」を皮肉った。【山田夢留】
毎日新聞 2006年11月16日 20時54分 (最終更新時間 11月16日 23時39分)
 引用 http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061117k0000m010103000c.html

4月に発表された与党による改正案がどのように審議され,
どのように変わったのかまったく知らされないまま強行採決とは,与党の暴走と非難されて当然ですなぁ。
しきりに100時間も審議したとは言いますが,タウンミーティングのやらせ問題あたりを考えるに,
はじめからミーティングで意見を聞く姿勢は見られず,
どのような意見があったとしても,内容も結論も変わらない状況がつくられていたということでしょう。
民間なら30分で終わるような内容であっても,
100時間という状況だけをつくりたかっただけでは?と,疑ってしまいます。

与党案第2条・第10条には次のように書かれています。
(教育の目標)
第2条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
1 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
2 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
3 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
4 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
5 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

(家庭教育)
第10条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
本法案によると,いじめ問題などが起こっても,
 「お宅のお子さんの教育が間違っているから,いじめが起こるんです!」
などと,学校や教育行政は言うことができますなぁ。
子どものいじめによる自殺が起こっても,
自己の保身としか思えない発言をする校長や教育長には,大変ありがたい法案となるわけですなぁ。

そもそも,
家庭の教育方針に国が干渉するあたりは非常に不愉快です。
とかく,愛国心の問題が取り上げられますが,教育の目標に掲げられている以上,
家庭でもいわゆる愛国心教育を行わざるを得ないでしょう。
家庭教育の自主性を尊重しつつ,第2条達成のために努力しなさい。
つまり,方法は家庭に任せるものの,目標は家庭に一任ではなく,第2条に書いてある通りということです。

在日コリアンやアイヌ民族などに対する配慮も足りませんな。
日本にいる以上,国内法に従うことは当然です。
彼らが日本人になった背景を考えると,いかがなものかとも思いますが・・・。