感染爆発を防ぐなら、ネットワーク理論で示されるようにハブを抑えることが有効である。また感染が重症になるのは、子供ではなく高齢者や持病のある人だそうだ。そしてオープンエアでは感染しづらく、閉鎖空間での濃厚接触が主要な感染経路となる。

 以上を考えると、小学校の閉鎖は優先順位は低い。児童の行動範囲をGPSで追った分析があるが、ほとんど校区内に限られていた。そして、もし児童が感染したにしても、症状は重篤にはならない。教師たちを除けば感染範囲も校区に限られる。したがって児童間の感染については、感染が分かった段階で、その学校を閉鎖すれば十分であることが分かる。

 優先させるべきは、高齢者間の感染を拡大するハブを抑えることだ。その意味で例のクルーズ船は、ハブで高齢者も多く閉鎖空間と最も抑えるべきポイントだった。一般の高齢者の生活時間を調査した資料によれば、活動が閉鎖空間でなされる参加者多数の活動で、趣味・娯楽にさく時間で多い順に並べると、パチンコ、邦楽、カラオケである。そうすると優先して閉鎖を要請すべきなのは、パチンコ、カラオケの各店舗、邦楽イベントになることが分かる。リストには上がっていないが、デイサービス施設やスーパー銭湯、そして人工透析などの病院関係も優先対象になる。

 これらを抑えておけば、仮に広範に若年層・中年層に感染が広がっていたにしても、高齢者や持病のある人々にはなかなか感染が広がらないので、重篤な症状に至る人的被害は相当に抑えられる。五輪開催に拘って感染者数を抑えるのが主眼になるのなら別だが、人命を救うのを目的に施設閉鎖するのならパチンコ、カラオケなどの順である。

 ごく簡単な分析で、ここまで分かる。もっと緻密に対象を絞るなら、例えば携帯電話の膨大なGPSデータを元に、高齢者の空間移動を分析し、その集積場所を突き止めることができるだろう。同時にそこでの濃厚接触の人数も割り出せるので、これらを元にノードとリンクにおいて精確で膨大なネットワークを描ける。そうすればハブを優先的に抑えた時に、どこまで抑えれば感染爆発の臨界値を下回るかも次数分布にもとづいて計算できる。まだこのネットワーク分析を行っていないのだろうか? 学校閉鎖を優先させるというのは、分析がまだなのかもしれない。困ったものだ。