玉川温泉に到着したのは、ちょうど正午を少し回った頃でした。
駐車場に車を停め、坂道になっている道路をゆっくり下っていくと、谷あいに玉川温泉の旅館が姿を現します。
その先に広がっていたのは、想像していた「温泉地」のイメージとはまるで違う光景でした。
目の前に現れたのは、木も草もまばらな、どこか地球の内部をのぞき込んだような荒涼とした空間。
遊歩道に足を踏み入れた瞬間、むわっとまとわりつく湿気と熱気に思わず息をのみます。
季節は秋のはずなのに、体感は夏どころか、もはや別世界です。
視線を上げると、遠くで白い湯気を勢いよく噴き上げる小高い山。
そして右手には、幅は三メートルくらい、激しい音を立てながら、湯気をまとって流れ落ちる温泉の川がありました。
これほどの湯量で流れる“温泉そのものの川”は、正直、これまで見たことがありません。
さらに奥へ進むと、「ザザー、ザザー」と大きな音を立てながらお湯が湧き出している場所にたどり着きます。
「……これが“大噴(おおぶけ)か」
玉川温泉を代表するこの“大噴”は、地下深くから98°C・強酸性 pH1.2 の塩酸を主成分とする温泉が噴き出す場所。
毎分 8,400L という日本一の量の湯が激しく噴き上げています。
地面が呼吸しているかのような迫力に、自然の力を前にしてただ立ち尽くすしかありません。
そのすぐ近くには、年季の入った小さな小屋が建っていて、中ではゴザを敷いて横になっている人たちの姿がありました。
ここは、玉川温泉名物の「天然岩盤浴」。
地熱で温められた大地の上に寝そべり、身体の芯からじんわりと温める——まさに“自然と一体になる”体験です。
観光地というよりも、地球のエネルギーをそのまま体感する場所。
玉川温泉は、そんな言葉がしっくりくる温泉地でした。



