新☆ババコ戦記2 | BOOGIEなイーブニング!

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い犬になりさがったのか。

 エンボス加工されたトイレットロールを見ながら、俺は自問自答を繰り返していた。このお尻に優しい感触のトイレットロールを使うがあまり、俺は大事な何かを失ってはいないか。

牙だ。
あの時、確かに持っていた、
野生の牙を俺は失っていた。




 平凡なある日、会社の先輩が突然、青色のA4サイズくらいの封筒を渡してきた。そう、健康診断の申し込み用紙の入った封筒である。前の会社ではこの健康診断の義務を逃げに逃げまくって25年間、結局一度も受けずに済んだ。
 しかし、この会社でそれは通用しないらしい。
診断する日にちも既に抑えられている。今まではのらりくらりとかわしてきたが、今度ばかりはそうも言ってられない。
 ロックンローラーが健康診断なんて、ちゃんちゃらおかしいだろ?体に悪いものこそがロックだ。キースリチャーズが養命酒呑むか馬鹿野郎!
タバコ、タトゥー、バイク、ドラッグ、セックス、ストロング酎ハイ、夜更かし、エースコックでかまるもやし味噌ラーメン、キャベツ太郎、ガリガリ君は1日に2個食うぜ、ロッケンロー!
 そんな破天荒な俺だが、今まで頑なに健康診断を拒否してきた本当の理由がある。

注射が恐いの。

 針でチクッと刺されるの恐いの。
もし、看護師さんの手元が狂って、針の先っちょが折れてしまい、血液を通り心臓まで達したら死んじゃうんだぉ。
 小学生の頃そんな情報が出回り、俺は恐怖で注射が嫌いになってしまった。元来平熱が高いのも手伝って、俺は殆どの注射をパス(回避)できた。
 注射の列の先頭に並んで熱を測り、注射されてないのに腕を押さえてワザと痛がって、保健室の前でみんなが並ぶ前を通る嫌な子供だったのだ。
 そんな俺に青紙が来た。一昨年社員を癌で亡くした会社だ。健康には半端なく気をつけている。

ヘルスハラスメントかってぐらいだ。

 そんなヘルハラな会社で健康診断を回避できるワケもなく、いよいよとうとう俺はまな板の上に乗ることにした。そして、診断を受ける病院だが、会社の近くのほぼ健康診断専門みたいな病院を選んだ。
 君たちはファーストババコ戦記を覚えているだろうか。
俺は過去にババコを通して幾多の闘いを繰り広げてきた。そうあのババコ戦記だ。全6話からなるあの物語を覚えていた者は幸せである。
 そこに出てくる通称ガッツタンク(ババコ糞野郎)、の職場で、そいつのおじいちゃんが医院長を務める病院で診断を受けることにした。10年前に百日咳にかかった時に行ったっきりだが、俺の知る唯一の病院だからだ。
 運が良ければあのガッツタンクと5年ぶりの対決もあり得る。いや、ありえないか。ヤツはあの病院の営業部だった。
 しばらく青紙を放置していた。検診はまだ2カ月も先の話しだし、見るだけでそれこそブルーになる。

青紙だけにな。

 俺は積み上がった原稿の上にぽんと置き、青紙はそのうちにどんどんと原稿の山の下敷きになっていった。
 仕事の波がひと段落したのでデスクの原稿を片していたら、その青紙がひょっこりと俺の目の前に現れたのだ。恐る恐る封を開けてみる。
 検査日まであと1週間であるということと、前日から食事を摂ってはいけないということが記されていた。そして、キャップがショッキングピンク色の蓋の検便容器が2つ入っていた。

人生初の検便である。

 プレッシャーで押し潰されそうだ。きっと飲食業界の人は、この検便を毎回スマートにこなすのだろう。

俺にはちゃんと出来る自信がない。

 しかも前日と当日の朝の2回検便するという。初めての検便なのに、メジャーリーグ初打席にサイクルヒットを打つような芸当を求められていた。
 前々日に今生の別れとばかりに酒を浴びた。散々遊びまくったツケがきっと来る。俺はそのまま入院して、もうシャバには戻って来れないだろう。

 翌晩には酒と水、そして晩飯を断ち、家に帰ってから検便の儀をすることにした。こんな時に俺のカラダが便利なのは、便座に座るとすぐにウンコが出るところである。特殊能力とでも言っておこうか。

座、即、便


なのである。

 しかし、心配なのは、小生、前日の呑みが祟って若干の切れ痔気味である。これも本当の切れ痔の人に言わせると切れ痔などではないらしいのだが、ひょっとするとトイレットロールに微かに鮮血が付くか付かないか瀬戸際の状態なのだ。こいつが原因で「お前は癌だ!」とかなると厄介である。しかし、健康チェック用紙には、そんな俺の心配事を書き込む欄などどこにもなかった。
 いよいよ便器のなだらかな部分にナガセールという紙を敷いて便座に座った。そして、一気に…

危ない!

 座った途端、習性で先におしっこをしてしまった。危なくナガセールが己の小水で流れてしまうところだった。ここで俺は忍者のように途中でおしっこを止め、ちょっと濡れたナガセールをたくし上げ、先におしっこを絞り出した。この間、若干の便意を我慢する。

おしっこ出す
おしっこ一旦止める
おしっこ出す
ウンコ止める
ウンコ出す


 こんなブルーインパルスみたいな複雑な芸当を瞬時にやってのけるのは、俺がいかにババコと真摯に向き合い、そして闘ってきたかが判るだろう。
 ナガセールにおしっこが付いてないのを確認し、元の位置に戻してから、もう一度ウンコをナガセール上に器用に着地させた。

粘度も程よく
実に採取しやすい状態だ。


 お尻にチカラを入れてウンコを途中で終わらせてから、俺はショッキングピンクの蓋の容器をひねり、耳かきのようなウンコ採取のスティックを取り出した。スティックの先端は溝が引かれている。爪楊枝の尖った部分ではなく、逆側の柄の方みたいな形状なのだ。これにウンコを絡めて取るのだが、めっちゃ採取量の塩梅が難しい。少なすぎると検査に支障が出るかもしれないし、多すぎてもなんか恥ずかしいし、気持ち悪い。できれば先端の溝の部分に厚さ1ミリのウンコを万遍なく巻けたら最高である。しかし、繊維質の多いウンコはそんな綺麗に俺の思う通りの形状で付着してくれてはいなかった。8回ほどチャレンジし、精神のギリギリ限界手前でなんとか納得いく形状のウンコを採取でき、震える手を殺しながら狭い入り口のカプセルに戻した。

 あとは明日の朝、もう一回検便をすればいい。不安なので5時30分に目覚ましをかけて、俺は布団に潜り込んだ。緊張してかなかなか眠りにつけなかったが、やがて深い闇が俺を覆った。

つづく