梅田ベイブルース#7 | BOOGIEなイーブニング!

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3度目のアラームでやっと起きれた。


着の身着のまま木の実ナナ、前日立ち飲み屋から帰ってきて、4時間そのまんまの状態でベッドに横たわっていただけだった。むくりと起きて、熱いシャワーをつま先立ちで浴びた。シャワーから出るとベッドに腰を下ろし、ゆっくりと帰り支度をする。ホテルの備品を片し、使い終わったタオルを畳み、忘れ物がないか2回ほど指差し確認し、立つ鳥跡を残さず、俺は部屋を出た。


もうこのホテルに用はない。緊張ドキドキ人生初のチェックアウトを、蟻のような顔をした中年ホテルマンに悟られないよう、俺は手慣れた手つきで鍵を渡した。


西中島南方駅から梅田駅に向かう電車は座れるほど空いていた。今日は平日の月曜日。大阪の朝のラッシュを想定していたのだが、肩透かしを食らった気分だ。早朝過ぎたか。みんな神妙な面持ちで電車に乗っている。この人たちは、全てリアル関西人なんだと思うと胸熱である。


梅田駅に着き、現地のショッピングセンターに向かう。昨日あれだけ手こずった梅田駅周辺も方角さえ分かれば、いとも簡単に迷わず攻略できた。さて、時間が余りまくった。迷ったときのために予定より2時間も早くホテルを出てしまったのだ。


ショッピングセンターの裏側を撮影して、近くのビジネスビルの中庭にあるオープンカフェのテラスでひと休みした。砂時計の砂のように階段に囲まれて窪んだビルの入口に人が吸い込まれて行く。


そうやって、ぼーっと時間を使っても、まだ1時間以上ある。梅雨真っ只中だというのに湿度も低く、初夏の陽射しが強い。オープンカフェにいる限界を感じたので、移動する事にした。カメラ機材もあり、結構な荷物なのだが、どっかで朝飯でもありつこうかと。しかし、朝の7時からやっている飯屋なんて、たかが知れている、大阪的な食べ物は早々に諦める。せいぜい牛めしの松屋かすき家程度である。梅田のダークゾーンを散策しながら、朝飯を少ない選択肢のどれにしようか吟味する。アーケードの下の薄暗い通りには、ガタイのいい風俗の客引きのお兄さんがいるが、朝から風俗を利用する客なんて滅多にいないのだろう。とくにこちらを見るでもなく仲間と談笑している。

すると突然目見覚えのある立ち食いそば屋が視界に飛び込んできた。あれは昔、京成線の駅ナカによくあった「都そば」ではないか。ちょっと覗くと、なんかいい雰囲気である。俺の知ってるあの都そばなら、スープは薄めの関西のスープなのか、それとも関東の黒くてしょっぱいスープなのか、ちょっと食べたくなり、暖簾をくぐった。



店には、従業員のおばあちゃんのワンオペ。客引きであろう安いスーツ姿の男の客が熱心にうどんを啜っていた。


「けつねうろん!」と言いたかったが、無難にかき揚げそばにした。俺は初見の店で冒険野郎にはならない主義だ。非マクガイバーと呼びたければ、そう呼ぶがいい。




着丼!


緑のたぬきのようなぺらぺらで硬いかき揚げを丼の奥に箸でどかして、まずは琥珀色のスープをすすった。


関西風でダシの効いたスープだった。シマダヤの流水麺のような太くて腰の無いそばをすすると俺は喧嘩に明け暮れた高校生時代にタイムスリップした感覚に襲われた。


マズ美味い。


このかき揚げそばを一言で表現するとこうなる。絶妙なマズさが美味いのだ。大阪の食文化の裾野の広さを知ることができる立ち食いそばだった。白い割烹着が似合うおババに別れを告げ、俺は分厚い透明のビニールで出来た風除けをくぐり店を出た。もう来ないかも知れないし、また来てしまうかもしれない。


都内だと有楽町帝劇の地下にまだあるようだ。


口から昆布ダシの息を吐きながら、俺はプロの顔に戻っていた。そう、プロカメラマンの顔だ。ちょうど7時を少し過ぎた辺り、少しゆっくり目に歩いて、撮影現場のショッピングモールに向かうことにした。前日指示された通り、施設の裏にある従業員出入り口に着いた。10分前ではあるが守衛さんに声をかけ、用件を伝え、担当者を呼び出してもらう。そう、前日にあった〝顔は大泉洋、しゃべりは小藪〟のあのキダさんである。


挨拶もそこそこに早速撮影に取り掛かることになった。最上階にある新しい施設を撮影するのが目的なのだが、各階の施設も一応撮るように代理店側からは指示を受けている。


キダさんと雑談を交えながら、俺はカメラバッグから24-70mmのレンズを取り出した。こいつはCarl Zeissという1846年ドイツのイェーナにあるメーカーのレンズである。カチンと響くマウントロックの音を皮切りに、俺は新しい施設を激写する。


するとキダさんはこう私に話しかけた。「新しい施設だけ押さえてもらえれば、他は前回の写真のままでええんですわ」


アゴが外れそうになった。


前回は閉店間際に撮影したらしく、店内のサイネージなどがちゃんと点きっぱなしの状況だった。しかし、今回は早朝、店もまだ開いてないので、この状態を全部撮影されて、パンフレットに使われても困るという、実にごもっともな意見だった。


俺の仕事は開始僅か15分で突然終わった。


おわり