前回記事「仏典を読む(その22)観無量寿経1」の続きです。

 息子のアジャセ王子に危うく殺されそうになったイダイケ王妃ですが、宮殿の奥深くに閉じ込められてしまいました。

 

【観無量寿経】2

④ イダイケ王妃は悲しみと憂いのためにやつれ果て、遠く霊鷲山に向かい、釈尊に礼拝して申し上げた。

世尊、あなたは以前から阿難尊者を遣わして私を労わってくださいました。私は今憂いに沈んでおります。世尊をここにお迎えすることは、あまりにも畏れ多いことですから、どうか目連尊者と阿難尊者をお遣わしになって、私に会わせてください。

 イダイケ王妃はこう言い終わると、涙を流しながら礼拝した。すると、釈尊はその想いをお知りになり、イダイケ王妃の前に姿を現した。釈尊の両脇には目連と阿難がつきそっており、帝釈天・梵天・四天王たちは空から一面に天の花を降らしていた。

 

⑤ イダイケ王妃は釈尊の足元に身を投げ出して声を上げて泣き崩れ申し上げた。

世尊、私は何の罪があってこのような悪い子(アジャセ王子)を生んだのでしょうか。どうか私のために憂いも悩みもない世界をお教えください。私はもうこのように濁り切った世界にいたいとは思いません。私はこのように身を投げ出して礼拝し、哀れみを求めて懺悔いたします。どうか清らかな世界を私にお見せください。

 すると、釈尊の眉間にある白毫が光を発し、釈尊の頭上に金色に輝く台形状のイメージ(映像)が現れた。そして、その中には、様々な仏の方々の清らかな世界を見ることができた。

 

 これを見たイダイケ王妃が申し上げた。

世尊、この様々な仏の世界は全て清らかで光り輝いていますが、私は、今、仏の世界の中でも極楽浄土の阿弥陀仏のもとに生まれたいと思います。どうか私に極楽世界の様子を思い描く方法をお教えください。そして、その様子と私の心が一つになり、願が成就する方法をお教えください。

⑥ 釈尊がイダイケ王妃に仰せになった。

私は、今、お前のために、極楽浄土の姿を思い描くための方法を示す。そして、清らかな行を修めたいと願う全ての人々を極楽浄土に生まれさせよう。極楽浄土に生まれたいと願うものは次の三種の善行を行うがよい。

一つには、親孝行をし、師や年長の者に使え、優しい心を持ってむやみに生き物を殺さず十善を修めること。

二つには、仏・法・僧の三宝に帰依し、様々な戒めを守り、行いを正しくすること。

三つには、悟りを求める心を起こし、深く因果の道理を信じ、大乗の経典を口に唱えて、他の人々にもそれを教え進めること。

これらの善行は過去・現在・未来の全ての仏の方々が修める清らかな行なのである。

 

 【メモ】

 ④について、幽閉されたイダイケ王妃は、悲しみの中、霊鷲山にいるお釈迦様に助けを求めると、お釈迦様が神足通(瞬間移動の神通力)を使って姿を現します。ちなみに、「お釈迦様にこのような場所に来ていただくのは畏れ多いので、代わりに阿難と目連を派遣して下さい」というイダイケ王妃の発言が若干失礼です(笑)

 

 ⑤では、イダイケ王妃が、お釈迦様に対して「もう穢れたこの世で生きたくないから、他の世界に生まれるために、仏の方々の世界を見せてください」とお願いします。これに対して、お釈迦様は額のほくろのような毛の塊(白毫)から光を発して、頭上に様々な仏の国の姿を映し出します。すると、イダイケ王妃は、見せてもらった仏の国の中でも、阿弥陀仏の極楽浄土に生まれ変わりたいと言います。イダイケ王妃は実にお目が高いと思いますが、それよりも、信者に対するお釈迦様のサービス精神が旺盛なのと、お釈迦様の額のほくろがプロジェクターとして利用可能なことに驚きです(笑)

 

 ⑥では、お釈迦様が、イダイケ王妃のお願いに応じて、「心の中でどのように極楽浄土をイメージするかについて教える」と宣言しています。この宣言と、観無量寿経の「観」という言葉から分かるように、どのように極楽浄土をイメージするかというのが、この経典最大のテーマとなります。また、極楽浄土に生まれ変わるための清らかな行いについて述べられますが、その内容は、どれも大乗仏教の基本事項となっています。

 

 次回に続きます。