鯨の入り江(35) | 星ねこブログ

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ひきつづき鯨の入り江(35)お読みください



 その鯨の骨の残骸をたまたま母親の故里を訪れた悠平が発見したのだ。


「これがザトウくじらの、、、、」


 子は大いに感動したらしく、あとの言葉がつづかなかった。


鉄男の腕に抱かれて、静かに休息を取っている骨の片端を手元に引き寄せ、


宝物でも愛でるように撫でさすっている。
nora


 綾は膨大な時間の海を泳ぎわたって来たザトウクジラたちの幻が


眼の前になまなましく蘇るのをかんじた。



潮風でべとついたからだを湯で流し、宵になってから鉄男の家を訪れた。


見晴らしのいい門の左側に、《ザトウクジラを島の海に呼び戻す会》事務所、と大書された看板が


掲げてあった。
そら
 玄関からの灯りがその文字をぼんやりと照らしている。


前に戻った時もこんな看板があったのだろうか。


綾には覚えがなかった。


もっともあの時は、母の葬儀のあわただしさでそれ


どころではなかった。
グリンピース

 身内のように手伝ってくれた鉄男と、ろくに話せもし


なかった。