【サザンの楽曲「勝手に小説化」㉗】『ハートせつなく~或る「夫婦日記」伝』(原案:桑田佳祐) | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

法政大学野球部を中心として、東京六大学野球についての様々な事柄について、思いつくままに書いて行くブログです。
少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

 私が大好きな、サザンオールスターズ桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材にして、
私が勝手に「短編小説」を書いている、 
「サザンの楽曲・勝手に小説化」 
シリーズは、これまでの所、「26本」を書いて来ている。 
そして、現在は、
『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』
から始まる「4部作」を連載中だが、今回は、
『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』
『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』

…からの「続編」であり、「4部作」の「その3」である。

 

 

それでは、「本編」に行く前に、私が今まで、当ブログで書いて来た、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズの「26本」のタイトルを、ご紹介させて頂く。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)(※【4部作ー①】)

⑬『かしの樹の下で』(1983)(※【4部作ー②】)

⑭『孤独の太陽』(1994)(※【4部作ー③】)

⑮『JOURNEY』(1994)(※【4部作ー④】)

⑯『通りゃんせ』(2000)(※【3部作ー①】)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)(※【3部作ー②】)

⑱『鎌倉物語』(1985)(※【3部作ー③】)

⑲『夕陽に別れを告げて』(1985)

⑳『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』(2008)

㉑『お願いD.J.』(1979)

㉒『恋するレスポール』(2005)

㉓『悲しい気持ち(Just a man in love)』(1987)

㉔『Moon Light Lover』(1996)

㉕『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』(2007)

㉖『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』(1998)

 


…という事であるが、今回、私が書かせて頂く「サザン小説」の題材として選んだのは、1991(平成3)年にリリースされた、原由子の楽曲、 
『ハートせつなく』 
である。 
この曲は、桑田佳祐が作詞・作曲し、原由子のソロ曲としてリリースされた曲だが、
女性の視点から、切ない恋心を歌っている、素晴らしい名曲であり、曲調はポップでありながら、詞の内容は何とも切ない。

その女性心理を、原由子が切々と歌っているが、

『ハートせつなく』

は、私も大好きな曲である。

 


そして、今回は、現在連載中の「4部作」の「その3」として、
『ハートせつなく』
を題材とした小説を書くが、
『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』
『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』

では、主に、「夫」の視点から、「不倫の恋」を描いた。
そして、今回の、
『ハートせつなく』
では、「夫」に裏切られた「妻」の視点から、「不倫の恋」を描く。
果たして、愛していた「夫」に裏切られた「妻」は、一体どのような心境だったのであろうか…?
それでは、前置きはそれぐらいにして、 

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第27弾」、 
『ハートせつなく』(原案:桑田佳祐) 
を、ご覧頂こう。 

(※なお、この小説に登場する個人名・団体名などは全て架空の物であり、実在の物とは関係ありません)

 

<序章・『霧の旗』>

 



「もう、どうして良いか、わからない…」
それが、私の偽らざる心境だった。
私は今、最も大切に思っていた人…私の夫の「裏切り」に遭い、途方に暮れている。
その「裏切り」とは何かと言えば、それは夫の「不倫」である。
「まさか、そんな事は…」
最初は、私も自分でそう信じようとしていた。
しかし、どうも夫が「不倫」をしているらしい…という疑いが出てきて、どうやらその疑いが濃厚になり、そして、それが決定的になった時、私は本当に大きなショックを受けた。
そして、6歳になる娘を連れて、家を飛び出し、そして私の実家へと帰る決断をしてしまった。

 


だが、これから先の事は、まだ何も考えていない。
「五里霧中」
という言葉が有るが、それはまさに、今の私の心を表すのにピッタリな言葉である。
確かに、最近、夫との関係は、上手く行っていなかった。
でも、私達の夫婦は、元々、「大恋愛」の末に、結婚した。
「それなのに、何でこんな事になっちゃったんだろう…」
私は、夕暮れの街を見ながら、溜息をついた。
気がつくと、私の目から勝手に涙が出て止まらなくなっていた。
そして、私は、夫と出逢った頃から、今に至るまでの日々を思い返していた…。

<第1章・『ゼロの焦点』>

 

 

私は、夫に出逢ってからの出来事を、

「日記」

につけていた。

そして、私はその「日記」を元に、夫と出逢ってから今までの事を書いてみる事としたい。
私と夫の「出逢い」…それは、大学時代の「合コン」だった。
私は、中高一貫の女子高に通っていたが、大学も女子大に入った。
女子高では、私も「それなり」に楽しく過ごしていた。
女子高の「恋愛事情」はどうだったのかというと、女子の間でも人気の有る子も居たりしたけど、男女の「出逢い」の機会という点では、それはやっぱり限られていた。
その上、私は女子大に入ったから、「彼氏」を作る機会も、全然無かった。
私は、それまでの恋愛経験は全く「ゼロ」とは言わないが、まあ、それに近かった。

 


そんなある日の事。
私が通う女子大と、ある大学との「合コン」の話が有った。
女子大で知り合った、私の友達が、とても積極的な子で、その子がどういう伝手を使ったのか、ある大学との「合コン」を主催する事になった。
ちなみに、ある大学というのは、あの有名な福澤諭吉先生が作った学校で、お金持ちの子弟が沢山通っている所…と言えば、まあ、おわかり頂けるだろう。
「ねえ、貴方も来てよ!」
私は、その子…慶子という友達に誘われた時、最初はあまり気が進まず、
「うーん、どうしようかな…」
と答えてしまったが、
「もしかしたら、素敵な出逢いが有るかもしれないよ!!」
と、慶子があんまり熱心に誘ってきた事もあり、結局、その「合コン」に行く事になった。

 


そして、その「合コン」当日。
私の通う女子大と、その大学との「合コン」は、お互いに「3対3」の人数で行われた。

「初めまして…」
都内のお洒落なお店に、私達は集まり、「顔合わせ」を行ったが、最初はお互いに、おずおずといった感じで、ぎこちなかったが、やがて、段々と打ち解けて行った。
その時、私は一人の男の子に、まるで吸い寄せられるように、視線が釘付けになっていた。
その男の子は、あまり口数は多くはなく、一緒に来ていた他の二人の男の子が、何か冗談を言って、場を盛り上げようとしているのを、ニコニコしながら見ていた。
でも、私は、その男の子のそんな所が素敵だな…と思っていた。
そう、要するに、私は第一印象から、その男の子にとても惹かれていた。


<第2章・『眼の壁』>

 



その日の「合コン」は、結構盛り上がっていた。
私達は、お酒を飲んでいた事もあり、お互いの話に、大いに笑ったりしながら、とにかく楽しく過ごしていた。
この「合コン」を主催した慶子も、とても楽しそうな様子だった。
その「合コン」も終盤に差し掛かった頃、私はお手洗いに行くため、席を立った。
お手洗いは、店の奥にあったが、先に中に人が入っていたので、私は壁を背にして、少し待っていた。
すると、そこへ、さっきの男の子…そう、私が素敵だなと思っていた、あの男の子がやって来た。
彼も、お手洗いに行くようだった。
「凄く盛り上がってますよね…」
「ええ…」

私達は、そこで少し話したが、彼は、
「ああいう所、本当はあんまり慣れてなくて、ちょっと苦手なんだけどね…」
と言っていた。
「そうなの!?実は私も…」
思わず、私もそう答えていた。
「友達が、あんまり熱心に誘うものだから…」
私がそう言うと、彼も、
「実は、俺もそうなんだよね…。だから、何か気疲れしちゃった」
と言ったものだから、私も、
「わかる!!私も…」
と答えていた。
そして、私達は顔を見合わせ、フフッと笑ってしまった。

 

 

「なかなか話が合うわね…」
と、私が思っていた、その時、
「ねえ、良かったら、今度ご飯でも行こうよ!!」
と、彼がサラリと言って来た。
私は、ちょっとビックリしたが、彼はあくまでも物腰柔らかで、何というか…人を惹き付けるような天性の魅力が有るように思われた。
だから、私は、
「ええ!!行きましょう…」
と、思わず答えてしまっていた。
そして、私達はその場で連絡先を交換してしまった…。
というわけで、これが、後に私の夫になる人との「馴れ初め」である。

 

<第3章・『愛のきずな』>

 



こうして、「合コン」での出逢いをキッカケに、私と彼は付き合い始めた。
付き合い始めの頃、私は彼の大学に遊びに行った事が有った。
彼の大学のキャンパスは、日吉に有ったが、
私が日吉のキャンパスに行き、キョロキョロと彼を探していると、何やら、彼は女の子達に囲まれ、楽しそうに談笑していた。
その時、そんな彼の姿を見て、私は複雑な心境だったが、正直言って、胸がちょっと痛んだ…。

やがて、彼は私の姿を見つけると、満面の笑みで、私に手を振っていた。
「それじゃあ、また!!」
彼は、女の子達にそう言うと、私に向かって駆け寄って来た。

 

 

「よく来てくれたね!!」
彼は、いつものように、優しい眼で、ニコニコしていた。
「うん…」
私は、多分その時、あんまり面白くなさそうな顔をしていたかもしれない。
そして、私は、
「さっきの子達は…?」
と、聞いてしまっていた。
私に聞かれ、彼は、
「え?ああ、同じゼミの子達だよ…」
と、答えた。

「ふーん…」

私は、彼の答えを聞き、ちょっと素っ気ない調子(?)で、相槌を打った。
その時、私が、たぶん変な顔をしていたからか、彼は、それを察したのだろうと思うけど、彼は私と手を繋ぎ、
「さあ、行こう!!」
と言って、早々に大学のキャンパスを出て、私を「デート」に連れて行ってくれた。
その後、彼は、あくまでも私を一番に考えて、私を大切に扱ってくれたが、そういう気遣いが嬉しかった。
でも、私としては、内心、
「この人って、モテるのね…」
という事を思っていて、その事がしっかりと脳裏に刻み込まれた。

 


まあ、そんな事も有ったけど、
私と彼は、「ラブラブ」な恋人同士になり、
夏には、一緒に海に行って、楽しいひと時を過ごしたりしていた。

私は、彼に夢中になり、ちょっとの間、彼と逢えないだけでも、
「彼に逢いたい!!」
という事ばかりを思うようになっていた。
遠く離れた場所に居ても、
「今すぐ雲に乗って、彼に逢いに行きたい…」
と思ったりした事も有った。
とにかく、それぐらい私は彼にゾッコンだったし、彼も私を愛してくれていた…。
今でも、私の心は、あの頃の楽しい思い出ばかりが蘇って来ている。

 

<第4章・『黒革の手帖』>

 



そして、その後、私と彼は、まるで当然の流れのように結婚した。
大学を卒業した後、彼はある銀行に就職し、
私は、あるメーカーに勤めるOLになったが、
私達は、大学を卒業し、社会人になってからも、お付き合いを続けていた。
それから暫く経った頃、私は彼にプロポーズされ、そして私は勿論、プロポーズをOKした。

その時の彼のプロポーズの言葉は、未だに私の胸に、大切な想い出として残っている。

私は、今までの人生で、あの時ほど、嬉しくて感激した事は無かった。

 


結婚式には、私と彼の「出逢い」のキッカケとなった、あの「合コン」を主催してくれた子…私の親友の慶子も来てくれた。
「おめでとう!!」
慶子は、まるで自分の事のように、喜んでくれていたが、友達思いの慶子は、感極まって、目を潤ませていた。
私も、そんな慶子を見て、(結婚の当事者は私なのに…)私の方が、「貰い泣き」しそうになってしまった。
こうして、私と彼は結婚し、夫婦になったが、
結婚した後も、私も仕事を続け、私達の夫婦は、
「共働き」
になった。
さっきも書いた通り、彼はある銀行に勤める事となったが、彼は何やら、
「黒革の手帖」
を、いつも肌身離さず、大事そうに持っていた。
「これには、お客様の大切な個人情報が書いてあるから、勝手に見たらダメだよ」
私は彼に、いつもそう言われていたが、勿論、彼に言われるまでもなく、勝手に見るつもりもなかった。
その後、結婚した翌年に、私は娘を生んだ。
待望の子供が生まれ、彼もとても喜んでいた。

「この子のためにも、俺も頑張らないと!!」
そう言ってくれた彼の事を、私はとても頼もしく思っていた。
そして、後から思えば、この時が私達夫婦にとって、幸せの絶頂だった…。

 

<第5章・『砂の器』>

 



さっきも書いた通り、私と夫は、結婚した後も、「共働き」を続け、結婚した翌年には、娘も生まれた。
しかし、子育てに追われ、色々な「すれ違い」が重なって行く内に、段々と私達夫婦の関係に、亀裂が生じるようになっていた。
あんまり細かく話すと辛くなってしまうから、細かくは言わないが、とにかく、私と夫は、お互いにイライラが募り、ちょっとした事で言い争うようになってしまった…。
私達の結婚生活は、まるで「砂の器」のように、脆くも崩れ去ってしまうのだろうか…その頃、私はそんな事ばかり思っていた。 
「私、最近、彼とあんまり上手く行ってなくて…」
私は、親友の慶子に、電話したり、時には会ったりして、夫の事について、よく愚痴を言ったりしていたが、慶子も、そんな私の愚痴に、よく付き合ってくれていた。
「大変だよね。子育てと仕事の両立って…」
ちなみに、慶子も結婚していて、子供も生まれていた。
慶子は、子供が生まれたのを機に、仕事は辞めていたけど、「子育て」の大変さは、よくわかっていたし、私の境遇に、共感してくれていた。
「ねえ、貴方もちょっとはリフレッシュした方が良くない?例えば、娘さんと二人で、夏休みを取って、実家に帰るとか…」
ある日、慶子にそう言われた私は、
「そっか…。そうしてみようかな…」
と、彼女の考えに賛同していた。
こうして、結婚7年目の夏、私は夫より早めの夏休みを取り、少しの間、実家に帰省する事にした。
「ママ、大丈夫…?」
自宅を出て、実家に帰るまでの道中で、6歳になる娘が、私にそんな事を聞いて来た。
「大丈夫よ。でも、どうして?」
私がそう聞くと、娘は、
「ママ、最近ちょっと疲れてるみたいだったから…」
と言っていた。
その言葉を聞いて、私はハッとした。
「この子に、そんな心配をかけてたなんて…」
私と夫は、最近、喧嘩ばかりだったけど、娘には、なるべくそういう所は見せないように、気をつけているつもりだった。
でも、娘は、母親である私の様子がおかしいと、敏感に気付いていたのだった…。

「ううん、大丈夫よ!!」
私は、笑顔を作り、娘を安心させようとしていた。

 

 

そして、私と娘は、私の実家で、暫くの間、「夏休み」を過ごしたが、この時は心身共に、私もリフレッシュする事が出来たし、娘もとても楽しそうにしていた。
「大丈夫か?」
「何か有ったら、またいつでも帰っておいで…」

私の両親も、そう言ってくれたが、私は、
「大丈夫よ!!」
と、答えていた。

しかし、その時、既に私達夫婦の「破局」の危機は、すぐ目の前まで迫って来ていた…。

<第6章・『疑惑』>

 



「まさか…」
最初は、私もそう思っていた。
しかし、どうやら、私は認めざるを得ないように思われた。
「夫が、浮気をしている」
という事を…。
「夏休み」の帰省を終え、私と娘は、自宅に戻った。
しかし…。
私は、夫の様子が、いつもと違う事に、すぐに気付いた。
表面上、夫はいつもと同じように振る舞おうとしていたが、明らかに「何か」が違っていた。
何処がどう違うのか…と言われると困るが、
私も、伊達に7年も、この人の妻として過ごして来たのではない。
だから、夫の様子が、何かちょっと違う…という事は、敏感に察してしまった。

「何か怪しいな…」
と、私が思ったのは、夫が妙に私に対し、機嫌を取るような事を言ったりする事が増えたから…という事もあった。
そんな事は、絶えて久しかったというのに…。
とにかく、夫の様子が何処となく不自然なのであった。
「まさか…。他に女でも出来たんじゃないでしょうね…」
私の心の中で、「疑惑」の黒い影が、少しずつ大きくなっていた…。

 

<第7章・『点と線』>

 



「慶子…。折り入って、お願いが有るんだけど…」
私は、慶子に会い、この頃、夫の様子が変だ…という事を言った。
「最初は、私の思い過ごしかも…と思ったよ。でも、ここ最近、何か『出張』とか言って、帰りが遅くなる事も増えたし…。何か、明らかに彼の様子が変なんだよね…」
私は、本当はこんな事は親友の慶子には言いたくなかったが、言わずにはいられなかった。
ただ、このままの状態が続くと、私の心が壊れて、どうにかなってしまいそうだった…。
その思いを、洗いざらい、慶子にぶちまけていた。

そんな私の「独白」を、慶子は全て受け止めてくれた。

本当に、友達というのは有り難い…と、その時、私は思った。
「そう…。大変だね…可哀想に…」
慶子は心底、私に同情し、寄り添ってくれていた。
「それで、私へのお願いって、何…?」
慶子に聞かれ、私はこう答えていた。
「貴方のご主人に…それとなく、彼の様子を見ててもらえないかしら…?」
実は、慶子の夫というのは、私の夫と同僚…「横浜大洋銀行」の川崎支店という、同じ職場に勤める同僚だったのである。
「勿論、いちいち監視するとかじゃないよ。何か、彼に変わった様子は無いかとか、何となくで良いから、気にかけてもらえないかな…」
私は、こんな事を親友の慶子に頼むのは、本当に心苦しかった。
でも…。
「他に、こんな事を頼める人なんか、居ないから…」
私は俯き、声を絞り出すように、慶子に伝えた。
「…わかったわ」
少し考えていた様子だった慶子は、一言、そう言った。
「本当にごめんね!!有り難う…」
私は、思わず涙を流し、慶子にお礼の気持ちを伝えていた…。

 


「ねえ。落ち着いて聞いてちょうだい…」
それから暫く経った頃。
慶子が、改まった様子で、私に言って来た。
そして、私は慶子が、彼女の夫から聞いたという、下記の内容の事を、私に伝えた。
「私の夫から聞いた話なんだけどね…」
夫の職場に、最近、榊マリという若い女性の新人が入って来た事、夫が、その人の上司として、よく一緒に行動しているという事、そして…。
「貴方のご主人、最近は『出張』なんて全然行ってないって…」
それを聞き、私は大きなショックを受けた。
でも、その一方で、
「やっぱり、そうか…」
という気持ちも有った。
「それと…。私の夫が、彼を見たって言うの。横浜のボウリング場でね…」
慶子の言葉を聞き、私は動揺していた。
「ボウリング場?どういう事…?」
慶子のご主人が、横浜のボウリング場に行くと、そこに何故か、私の夫が居たという。
しかも…。
「そこには、榊マリって子も居たって…」
やはり、やはりそうだったのか…。
私には「出張」などと嘘を言って、夫は、その榊マリなる女と会っていた…。

 

 

それに、本当はいけない事だと、わかっていたが、私はあの「黒革の手帖」を覗いてしまっていた。

その「黒革の手帖」のカレンダーのページには、いくつか、

「M」

という暗号めいた文字が有った。

恐らく、この「M」というのは、「榊マリ」の事を示していたに違いない。

その「M」の字が書いてある日に、夫は榊マリと「密会」していたのであろう…。
「…これで、全ての『点と線』が繋がったわ…」
私は、ポツリと呟いていた…。

 

<終章・『天城越え』>

 



こうして、夫の「不倫」を確信した私は、すぐさま、行動に移った。
「ほら、支度して。お祖父ちゃん、お祖母ちゃんの所に行くよ」
私は、娘にそう告げていた。
「…また行くの?ねえ、パパはどうするの?」
娘にそう聞かれたが、私は有無を言わさず、
「良いから。早く着替えなさい」
と、ピシャリと言った。
今、夫は、榊マリなる女と、外でコソコソと会い、「逢瀬」を楽しんでいる…。
そう考えると、私の腸は煮えくり返りそうだった。

そして、私は手早く旅支度を整えると、
「実家に帰ります」
という書き置きを残し、娘を連れて家を出た。
私は、娘を連れ、ついこの間、「帰省」していたばかりの、実家へと向かっていた…。

 


私の実家は、天城峠を越えた所…伊豆半島の下田に在る。
夜の天城峠の上に、水色の月が浮かんでいた。
「結婚しよう。これからも、ずっと一緒に居よう!!」
その月を見上げる私の胸には、かつて、優しい眼で私を抱きしめ、私にプロポーズをしてくれた時の彼の姿が思い浮かんでいた。
でも、今、彼の心には、私は居ない…。
今、彼の心には、他の女が居て、彼は他の女を抱きしめている…。

「ママ…」
夜空に浮かぶ水色の月を見上げ、涙が止まらずにいた私に、娘が抱きついて来た。
「ごめんね…」
私はそう言って、娘の事を離さないよう、固く固く、抱きしめていた…。

(つづく)

 

 

『ハートせつなく』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:原由子

 

涙を誘う夕暮れの街

夏の日の想い出を噛みしめる

夜空に浮かぶ水色の月

あの男性(ひと)の面影を映してる

 

やさしい瞳(め)で私を抱いてくれた

最後の言葉が胸に残る I'm callin’

 

ハートがせつなくて 誰より愛していたのに

夢を見る頃はもう二度と帰らぬ I’m fallin'

悲しいこの気持ち 本当の恋に落ちたのに

今頃あなたは誰かを愛してる

 

…I'm feelin' blue…

 

心にしみる情熱の旅

日に焼けた恋人がたわむれる

二つの影が浜辺に落ちて

口づけを交わしたら離れてく

 

このまま今私は雲に乗って

あなたのところへ飛び出したい I'm callin'

 

心がちぎれちゃう あんなに信じていたのに

雨の降る音が夏の終わりを告げ I'm fallin'

これ以上愛せない 素敵な恋に落ちたのに

この頃私はひとり泣き濡れてる

 

やさしい瞳(め)で私を抱いてくれた

最後の言葉が胸に残る I'm callin’

 

ハートがせつなくて 誰より愛していたのに

夢を見る頃はもう二度と帰らぬ I’m fallin'

悲しいこの気持ち 熱い恋に落ちたのに

今頃あなたは誰かを愛してる

誰かを口説いてる

誰かを抱きしめる

 

…I'm feelin' blue…

…I’m waitin' for you…