私が大好きなサザンオールスターズの楽曲の歌詞を題材にして、私が勝手に「短編小説」を書くという、
「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」は、これまで、下記の6本の楽曲を元に、私が「小説化」させて頂いた。
①『死体置場でロマンスを』(1985)
②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)
③『マチルダBABY』(1983)
④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)
⑤『私はピアノ』(1980)
⑥『夢に消えたジュリア』(2004)
いずれも、元々の楽曲も歌詞も素晴らしいが、その世界観を元に小説を書くというのは、
なかなか大変な試みではあるが、やってみると、非常にやり甲斐が有るものである。
という事で、今回、私が「短編小説」の題材に選ばせて頂いた、サザンオールスターズの楽曲は、
1981(昭和56)年にリリースされた、サザン史上に残る名バラード『栞(しおり)のテーマ』である。
この曲は、サザンファンであれば誰もが知っている、名曲中の名曲であり、私も大好きな曲である。
1981(昭和56)年、サザンオールスターズは、4枚目のアルバム『ステレオ太陽族』をリリースしたが、
『栞(しおり)のテーマ』は、その『ステレオ太陽族』に収録されている楽曲であった。
そして、同年(1981年)『栞(しおり)のテーマ』はシングル・カットされたが、セールス的には今一つ伸び悩んだ。
しかし、あまりにも素晴らしい曲であり、その後もサザンファンによる根強い支持を集め、未だにサザンのコンサートでは、よく歌われる楽曲である。
<1981(昭和56)年のサザンオールスターズと、『栞(しおり)のテーマ』>
なお、1981(昭和56)年に公開された映画『モーニング・ムーンは粗雑に』で、
この年(1981年)にリリースされたサザンの楽曲『Big Star Blues(ビッグ・スターの悲劇)』『朝方ムーンライト』『栞(しおり)のテーマ』などが挿入歌として使われた。
その『モーニング・ムーンは粗雑に』で主演を務めていたのが、高樹澪(たかぎ・みお)という女優であり、桑田佳祐と共に、雑誌の表紙を飾ったりしていた。
特に、『栞(しおり)のテーマ』は、まさに映画の挿入歌としてピッタリな、素晴らしい楽曲であった。
という事で、前置きはこれぐらいにして(?)、「原案:桑田佳祐」による、「サザンの楽曲・勝手に小説化」シリーズの「第7弾」、『栞(しおり)のテーマ』を、ご覧頂こう。
<序章・『彼女のシビれる仕草』>
あの年の夏休み、僕と彼女は2人して、海を見に来ていた。
彼女は、憂いを帯びた表情で、少し遠くに見える江ノ島を眺めていた。
海風が、彼女の長い茶色がかった髪を揺らすと、彼女は髪をかき上げた。
僕は、そんな彼女の仕草を見るだけで、ドキドキしていた。
「この仕草が、本当にシビれるんだよな…」
僕は、口には出さなかったが、心密かに、そんな事を思っていた。
<第1章・『幼馴染み』>
先程、僕は一緒に海を見に行った子の事を「彼女」と書いたが、
その子は、本当は「彼女」ではない。
正確に言えば、僕が一方的に好きな女の子の事である。
その子の名前は「栞(しおり)」という。
「栞(しおり)」と僕は、家が近所という、幼馴染みであった。
小さい頃は、近所中の沢山の友達連中と一緒に、僕も「栞(しおり)」も、一緒に遊び回っていた。
子供の頃から、「栞(しおり)」は可愛い子だったが、その頃は僕も彼女の事は、近所の友達の一人と思っていた。
だが、「栞(しおり)」という子は、ちょっと大人っぽい雰囲気の子であり、
今思えば、子供の頃から、少し異彩を放つ存在だった。
「栞(しおり)」の両親は日本人だが、何故か「栞(しおり)」の髪の毛は茶色ががっており、
それだけでも目立つ存在だったが、同い年の子達の中でも、大人びた雰囲気が有った。
言い忘れたが、僕と「栞(しおり)」は同い年である。
従って、僕と「栞(しおり)」は、近くの小学校・中学校に通っている時も、ずっと「同学年」であった。
<第2章・『野球少年』>
ところで、僕は野球が大好きな「野球少年」だったが、
小学生の時、僕は近所の少年野球チームに入った。
僕は、自分でいうのも何だか、子供の頃から野球は上手いと自負していた。
その少年野球チームでも、僕はあっという間に頭角を現し、
「エースで4番」
という存在になっていた。
「僕ほど、野球の上手い奴は居ない」
僕は、いい気になって、そんな事を思ったりしていたが、
今思えば、それは「井の中の蛙(かわず)」も良いところであった。
だが、少年野球をやっていた頃、僕は本当に野球が好きでたまらなかった。
「栞(しおり)、試合を見に来いよ」
僕は、そのチームの試合が有る時には、「栞(しおり)」の事を誘ったりしていたが、
「私、野球にはあんまり興味無いから…」
と言って、その都度、「栞(しおり)」には断られてしまった。
本当は、「栞(しおり)」に、自分の「カッコイイ姿」を見せたかったのだが、野球に興味が無いと言われては仕方が無い。
そんなわけで、小学生の頃は、「栞(しおり)」は全く、僕の野球をやっている姿を見た事が無かった。
<第3章・『ライバル』>
その後、僕は中学生になると、当然のように、その中学校の野球部に入った。
中学の野球部には、それこそ「腕自慢」の奴らがゴロゴロ居たが、
そんな中でも、僕は、
「この中で、一番野球が上手いのは、自分だ」
と、信じて疑わなかった。
それぐらい、その頃の僕は自分の野球の才能に自信が有った。
だが、そんな僕の鼻っ柱をへし折る奴が現れた。
それが、僕とは違う小学校の出身で、僕とは別の少年野球チームで、
「エースで4番」
を張っていた、淳之介という男である。
淳之介は、一言で言えば、
「野球の天才」
だった。
淳之介は、とにかく、
「打って良し、投げて良し、走って良し」
という、超万能選手であり、どの能力を取っても、僕は全く敵わないという事が、すぐにわかった。
「こいつには、負けた…」
僕は、素直に脱帽した。
生まれて初めて、僕は、
「世の中には、上には上が居る」
という事を思い知った。
僕は、淳之介こそが、僕の代の「エース」になる事を確信していた。
そこで、僕は投手(ピッチャー)から捕手(キャッチャー)に転向し、
淳之介が投手、僕が捕手という「バッテリー」を組もうと決めた。
「お前がエースで、僕がその球を受ける。2人で、最強のバッテリーになろう!!」
僕は、淳之介に、自分の思いを伝えた。
そして、僕と淳之介は、とても馬が合い、僕らは大の仲良しになった。
<第4章・『恋敵(こいがたき)』>
こうして、僕と淳之介が、中学の野球部で「バッテリー」を組み、絆を深めていた頃、
僕らの野球部の練習を、よく見に来るようになった女の子が居た。
それは、小学生の頃は、
「野球には興味が無い」
と言っていた、あの「栞(しおり)」である。
先程、少し書いたが、「栞(しおり)」も僕と同じ中学校に入っていたが、そんな「栞(しおり)」が、いつの間にか熱心に野球部の練習を見に来ていた。
「一体、どういう風の吹き回しなのか…」
と、僕も最初は思っていたが、どうやら、「栞(しおり)」のお目当ては、淳之介であるらしい事がわかった。
ある時、「栞(しおり)」は、僕にこんな事を言って来たのである。
「あのピッチャーの人、カッコいいよね…」
薄々は思っていたが、どうやら、「栞(しおり)」は、淳之介の事が、とても気になっていたらしい。
「うん、あいつはカッコイイと思うよ…」
僕は内心、穏やかではなかったが、表面上は平静を装い、そんな事を言っていた。
僕にとって、「幼馴染み」でしかなかった「栞(しおり)」は、中学生になり、気が付けば、どんどん魅力的になっていた。
そんな「栞(しおり)」の魅力に、僕は随分前から気付いていたが、
「栞(しおり)」が好きだったのは、僕と「バッテリー」を組む、淳之介だったのである。
「よりによって、栞(しおり)は、あいつが好きなのか…」
僕は、正直言って、淳之介に嫉妬してしまったが、その時は何も言えなかった。
僕は、「栞(しおり)」とは、相変わらずの「幼馴染み」として、会えば子供の頃と同じく、冗談を言い合ったり、バカ話をしたりしていた。
「僕は、本当は栞(しおり)が好きなんだよ…」
心に思う事は、いつもその事だったが、僕は、とうとう言い出せなかった。
そして、そうこうしている内に、高校受験の季節がやって来た。
<第5章・『運命の交錯』>
中学3年生の頃、僕と淳之介は、
「一緒に、甲子園を目指そう!!」
という、何とも大それた約束をしていた。
そして、中学の野球部で、絶対的な「エースで4番」だった淳之介は、
早々と、高校野球の名門・A高校に「学校推薦」での進学が決まった。
だが、僕は「学校推薦」されるほどの野球の実力は無かった。
従って、僕がA高校を目指すには、一般入試を突破するしな無かったのである。
A高校は、所謂「スポーツ推薦」のクラスと「進学コース」のクラスが有ったが、
一般入試を突破して入るのは、後者である。
しかも、その入学試験は、かなり難しく、ハッキリ言って難関であった。
「これは、A高校に行くのは、難しいかな…」
正直言って、僕はそんな事を思っていた。
しかし、その時、「栞(しおり)」は、僕にこんな事を言って来たのである。
「ねえ、一緒にA高校を目指そうよ!!」
「栞(しおり)」の目は本気であった。
彼女は、どうしてもA高校に行きたい、だから一緒に勉強を頑張ろうと、真っ直ぐに僕の目を見ていた。
「目指すって言ったって、A高校はかなり難しいよ?受かるかどうか…」
一応、僕はそう釘を刺したが、「栞(しおり)」は、
「男が、何を最初からウジウジ言ってるのよ!?やってみなければ、わからないでしょ!?」
「栞(しおり)」は、どうやら、本当に本気のようだ。
「お前、A高校に行きたいのは、あいつの為なんだろ…?」
僕は、喉元まで出かかった、その言葉を飲み込んだ。
「わかった。じゃあ、やってみよう!!」
僕がそう言うと、「栞(しおり)」は本当に嬉しそうな顔をしていた。
こうして、僕も「栞(しおり)」も、2人で塾に入り、A高校を目指して、猛勉強に励んだ。
勉強は本当に大変だったが、僕も「栞(しおり)」も、挫けそうな時は、お互いに励まし合い、どうにか辛い時も乗り越えて行った。
そして、運命のA高校の入学試験の結果は、見事に、僕も「栞(しおり)」も合格であった。
合格発表を、僕と「栞(しおり)」の2人で見に行き、2人とも合格であるとわかった時、
「栞(しおり)」は、大喜びし、僕に抱き着いて来た。
「本当に良かった!!夢みたい…」
「栞(しおり)」の目は、感激の涙で潤んでいた。
そして、「栞(しおり)」は僕に、
「また、同じ学校に通えるね!!」
と、屈託の無い笑顔で言っていた。
その時、僕は心の中で、こう思っていた。
「栞(しおり)が好きな人が、僕だったら良いのにな…」
そう、「栞(しおり)」にとって、僕は、あくまでも「幼馴染み」であり、高校受験を一緒に乗り越えた「戦友」ではあったが、僕と「栞(しおり)」は、恋人同士ではないのだった。
僕は、何とも言えず、複雑な心境であった。
<第6章・『それぞれの恋』>
「おう、やっぱり来たか!!待ってたぞ!!」
僕が無事にA高校の入試を突破し、A高校の野球部の門を叩いた時、
既に野球部に入っていた淳之介は、本当に嬉しそうな様子で、僕を迎えてくれた。
その時、僕は「栞(しおり)」と一緒に居たが、淳之介は、僕の隣に居る「栞(しおり)」に目を留めた。
「その子は、確か…?」
淳之介に問われ、僕は改めて、
「この子は、栞(しおり)って言って、僕の幼馴染みなんだ。中学も同じで、ほら、野球部の練習も、よく見に来てただろ?」
と言って、淳之介に「栞(しおり)」の事を紹介した。
「ああ!そうだったな。覚えてるよ。そうか、君も、この高校に入ったのか」
淳之介がそう言うと、「栞(しおり)」は、いつもの快活さは何処へ行ったのか(?)、耳まで真っ赤になり、俯いていた。
「栞(しおり)が、また野球部の練習を見たいって言ってたから、連れて来たよ。まあ、そういうわけだから、宜しく…」
僕がそう言うと、淳之介は「栞(しおり)」に向かって、
「栞(しおり)さん、これからも宜しく!」
と、爽やかな笑顔で言っていた。
その時、「栞(しおり)」は、今にも卒倒しそうな様子(?)だったが、
「よろしくお願いします…」
と、聞こえるか聞こえないかというぐらいの、蚊の鳴くような声で、辛うじて返事をしていた。
その後、淳之介と「栞(しおり)」は急接近し、2人は付き合うようになった。
どうやら、淳之介も中学の頃から、「栞(しおり)」の事は気になる存在だったようである。
図らずも、僕は淳之介と「栞(しおり)」の、キューピッドの役割を果たしてしまった。
2人の親密さは、野球部の間でも、かなり有名だったが、僕はそんな2人を、ただ指を咥えて見ているしか無かった。
「聞いてよ、淳之介君ったら、この間ね…」
僕と「栞(しおり)」は、家が近かったので、淳之介と「栞(しおり)」が付き合うようになってからも、僕と「栞(しおり)」は、何かと顔を合わせる事が多かった。
そして、顔を合わせる度に、「栞(しおり)」は、「彼氏」である淳之介について、「惚気(のろけ)話」を、僕にしてくるのであった。
「でも、誰よりも栞(しおり)の事を好きなのは、僕なんだよ…」
僕は、心の中で、そう思っていたが、そんな事を「栞(しおり)」に言えるわけが無い。
こうして、「幼馴染み」と「親友」が、熱烈な恋人同士になってしまったのを、僕は、為す術なく見ているだけであった。
「とにかく、今は野球が上手くなる事に集中しよう!!」
僕は、雑念(?)を振り払うため、それまで以上に野球の練習に没頭した。
中学の頃、淳之介と約束したように、僕には、
「淳之介と一緒に、甲子園に行く」
という夢が有った。
その夢を叶えるためには、まずは自分が野球が上手くなるしかない。
僕は、毎日、暗くなるまで野球の練習に打ち込んでいた。
こうして、野球の練習に明け暮れていた時、思わぬ出来事が有った。
僕や淳之介と同学年で、野球部にマネージャーとして入っていた「澪(みお)」という子が、何と、僕の事を好きだというのである。
「誰よりも一生懸命に練習して、しかも、チームのみんなの事を思っている、そんな姿がカッコイイなって、思ってたよ…」
ある日、「澪(みお)」はそんな事を僕に言って来た。
「澪(みお)」は、「栞(しおり)」とはまた違う魅力が有り、黒髪ストレートが、とても良く似合う子であった。
僕も、「澪(みお)」には急速に惹かれて行き、そして僕は「澪(みお)」と付き合う事になった。
こうして、「淳之介」と「栞(しおり)」、「僕」と「澪(みお)」という、2組のカップルが誕生した。
<第7章・『夢破れて…』>
淳之介は、A高校の野球部でも、1年生の頃から、ずば抜けた才能を発揮し、
何と、1年生の頃からベンチ入りメンバーに入り、2年生の頃には既にチームのエースになっていた。
僕はと言えば、そこまでの力は無かったが、コツコツと練習に励み、3年生の時、ようやくチームのメンバーに入った。
ポジションは、勿論、中学の頃ろ同じ、捕手(キャッチャー)である。
3年生の夏、僕と淳之介は、いよいよ夢の「甲子園」を目指し、必死に練習を積み重ねた。
野球部のマネージャー・「澪(みお)」も、野球部の為に尽くし、懸命に野球部をサポートしてくれていた。
その頃、「栞(しおり)」も毎日、野球部の練習を見に来て、僕達を応援してくれていたが、
どういうわけだか、「栞(しおり)」と「澪(みお)」は気が合ったようで、いつの間にか、2人は友達同士になっていた。
「お前らを、甲子園に連れて行ってやるぞ!!」
エースの淳之介は、彼女達に力強く約束していたが、勿論、僕もそのつもりであった。
「頑張ってね!!」
「栞(しおり)」も「澪(みお)」も、僕や淳之介が、自分達を甲子園に連れて行ってくれると、信じて疑わないようであった。
こうして迎えた、高校3年生の夏、甲子園出場を目指した、最後の大会が幕を開けた。
A高校は、エース・淳之介の力投もあって、順調に勝ち進んで行った。
ところが、準決勝の最中、淳之介の肘に異変が起こった。
「投げ過ぎ」が祟ったのか、淳之介は肘を痛めてしまい、それ以上、投げる事が出来なくなってしまったのである。
「淳之介…」
肘の痛みに顔を歪め、途中降板した淳之介を見て、僕は青ざめたが、ベンチで見守っていた「澪(みお)」も、スタンドで応援していた「栞(しおり)」も、真っ青な顔をしていた。
結局、淳之介が投げる事が出来なくなってしまったA高校は、健闘虚しく敗れてしまい、ここで僕達の「甲子園出場」は、夢と消えてしまった。
試合が終わり、両チームの挨拶が終わった後、僕らは泣き崩れてしまったが、淳之介は、声を上げて、泣きじゃくっていた。
「こんな大事な試合で…。みんな、ゴメン…」
淳之介は、皆にそう言って謝っていたが、勿論、誰も淳之介を責める者など居なかった。
ふと、スタンドを見上げると、「栞(しおり)」も両手で顔を覆い、泣いていた。
僕は、じっと「栞(しおり)」の方を見ていたが、その時、「澪(みお)」も僕の方を見つめている事に、その時の僕は気が付いていなかった。
<第8章・『夏祭り』>
こうして、僕らは高校野球を引退し、僕らにも遅い「夏休み」がやって来た。
今まで「野球漬け」だった僕らは、いざ高校野球生活が終わってしまうと、何をすれば良いか、全くわからなくなってしまったが、そんな時、「澪(みお)」が僕に、こんな提案をして来た。
「ねえ、今度、近所の夏祭りに行かない?栞(しおり)さんも行きたいって言ってたんだけど、淳之介君と栞(しおり)さん、貴方と私っていう、4人で行こうよ!!」
「澪(みお)」は、「高校野球お疲れ様会」も兼ねて、その2組のカップルで、「夏祭り」に行こうと言うのである。
僕は、特に予定も無かったし、別に異存は無かった。
「うん、まあ、いいけど…」
僕は、わざとそんな風に、気の無い返事をしてみせたが、実は、内心では、
「これで、栞(しおり)とも一緒に夏祭りに行ける…」
と思ってしまっていた。
「澪(みお)」には本当に申し訳無かったが、実は心の底では、僕はまだ「栞(しおり)」の事が好きだったのである。
こうして、夏祭りの当日を迎えたが、ちょっと久し振りに会った淳之介は、少し疲れた顔をしていた。
「よう、元気か…?」
「うん、まあな…」
僕らは、お互いそんな会話を交わしたが、今更、2人で色々と話す事も無かった。
一方、「栞(しおり)」と「澪(みお)」は、何だか楽しそうな様子であった。
「ねえねえ、金魚すくい、やってみようよ!!」
2人は、そんな風に、キャピキャピとはしゃいでいたが、僕と淳之介は、そんな2人から、少し遅れて歩いていた。
「お前、これからどうするんだ…?」
僕は、色々な意味を込めて、淳之介に聞いたが、淳之介は、
「さあ…。実は、まだ何も決めてないんだ」
と言って、肩をすくめていた。
僕は、淳之介の、少し「投げやり」な様子が、気にかかった。
やがて夜になり、夜空には花火が上がっていた。
僕と「澪(みお)」、淳之介と「栞(しおり)」は、それぞれのカップルで寄り添いながら、花火を見ていた。
だが、僕はと言えば、どうしても「栞(しおり)」の事が気になってしまい、横目でチラチラと、「栞(しおり)」の事を見てしまっていた。
「ねえ、今度は2人で水族館に行こうよ…」
「澪(みお)」は、僕の耳元で、そう囁いていた。
だが、僕はその「澪(みお)」に対し、
「うん…」
と、心ここにあらず、といった風に答えてしまった。
「それじゃあ、またね…」
花火が終わり、僕と「澪(みお)」、淳之介と「栞(しおり)」の、それぞれのカップルに分かれ、帰路に着いた。
そして、暫く歩いていると、「澪(みお)」が立ち止まった。
「澪(みお)、どうした…?」
僕が「澪(みお)」に問いかけると、「澪(みお)」は俯き、涙を堪えていた。
「私、知ってるのよ…」
「澪(みお)」は、そう言葉を絞り出した。
「貴方、本当は栞(しおり)さんの事が好きなんでしょ?今日だって、ずっと栞(しおり)さんの事を見てたでしょ。私、わかってるんだから…」
とうとう、堪え切れず、「澪(みお)」は涙を流していた。
「ねえ。何で栞(しおり)さんに、自分の気持ちを伝えないの!?そんなんだから、周りの人も傷付けてしまうのよ…」
「澪(みお)」はそう言って、僕の方をキッと見上げると、
「私、帰る!!さよなら…」
と言って、そのまま走り去ってしまった。
僕は、呆然として、「澪(みお)」の後ろ姿を見送っていた。
「そうだ、自分に意気地が無いばっかりに、僕は澪(みお)を傷付けてしまった…」
僕は、激しい罪悪感と自己嫌悪に苛まれていた。
こうして、「夏祭り」は苦い思い出となってしまったが、それから暫く経った、夏の終わり頃、
久し振りに「栞(しおり)」から僕の携帯に、連絡が有った。
「ねえ、海を見に行こうよ…」
「栞(しおり)」はそう言っていた。
こうして、僕と「栞(しおり)」は、2人して湘南の海を見に行く事となった。
<終章・『栞(しおり)のテーマ』>
「淳之介ったら、酷いのよ…。高校野球を引退してから、ずっと上の空で。私の事なんて、全然、興味無いみたい…」
江ノ島を見ながら、「栞(しおり)」はそう言って、自分の本音を吐露していた。
「栞(しおり)」の頬には涙が伝っていたが、僕は、黙って「栞(しおり)」の言葉を聞いていた。
「何か、こんな話ばかり聞かせちゃって、ゴメンね…」
「栞(しおり)」は謝ってくれたが、僕は、黙って首を横に振った。
気が付くと、江ノ島の向うに、夕日が落ちようとしていた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか…」
「栞(しおり)」がそう言った時、僕は意を決して、「栞(しおり)」に対し、
「栞(しおり)、話したい事が有るんだけど…」
と言った。
「…なあに?」
「栞(しおり)」は、僕の顔を覗き込んだ。
僕はドキドキしていたが、僕は「栞(しおり)」に、思い切って、自分の気持ちを伝えていた。
「栞(しおり)、僕ほど、君の事を好きな奴は居ない…」
その言葉を聞いた、「栞(しおり)」は、真っ直ぐに僕の目を見ていた。
そう、「栞(しおり)」が高校受験の時に見せていた、あの時の目と同じであった。
僕と「栞(しおり)」は、ただお互いに見つめ合っていた…。
『栞(しおり)のテーマ』
作詞・作曲:桑田佳祐
唄:サザンオールスターズ
※彼女が髪を指で分けただけ
それが シビれるしぐさ
心にいつもアナタだけを映しているの
恋は言葉じゃなく 二人だけの Story, yeah
Lady my lady my lady
I wonder if you can love me
Oh, No…
彼氏にナニを云われ 泣いているのか
知らないフリでも
涙の中にいつも 思い出が見えるから
渚にしなやかに通り過ぎてく Melody, yeah
Lady my lady my lady
I love you more than you love me
Oh, No…
☆つれないそぶりの Long-brown-hair
ね、どうしてなの なぜに泣けるの
ひところのアナタに戻る
この時こそ大事な Twight-light-game
※くり返し…
このまま二人して 小麦色の Memory, yeah
Lady my lady my lady
No one could love you like I do
Oh! No…
☆くり返し…