「世界に通用する韋駄天は、必ず現れる!」
と、大見得を切り、日本のストックホルムオリンピック参加へ向け、断固たる決意を示した嘉納治五郎(役所広司)。
そして、その嘉納治五郎の熱意に心を打たれた、「東大運動会の覇王」三島弥彦(生田斗真)。
この二人のタッグにより、日本は漸く、オリンピック参加へ向けて、動き出した。
<嘉納治五郎、天狗倶楽部との交流を深める…東京オリンピックへの第一歩!?>
「いやー、感動しましたよ、嘉納天狗!平和のための祭典、オリンピック!素晴らしいですね!」
三島弥彦は、感に堪えないと言った表情であった。
三島は、嘉納を、自らが所属する天狗倶楽部の部室へと招いた。
そこは、天狗倶楽部の面々の熱気に満ちていたが、
彼らは、純粋にスポーツを愛するという気持ちが溢れており、
その事は、充分に嘉納にも伝わっていた。
「いやー、どうやら私は君達を誤解していたよ。最初は、暑苦しくて、接しにくいと思っていたが…」
嘉納は、天狗倶楽部の面々を、改めて見直した様子であった。
そして、嘉納は、医者に止められているという酒を、天狗倶楽部の面々と共に酌み交わした。
その席で、嘉納は、作家の押川春浪(武井壮)や、「早稲田のヤジ将軍」吉岡信敬(満島真之介)などの天狗倶楽部のメンバー達から、
「小樽水産の佐々木や、慶應義塾の井出伊吉など、全国には、快足自慢の凄い奴らが、ゴロゴロ居る」
という情報も聞く事が出来た。
すると、嘉納は、
「それなら、オリンピック参加のために、予選会を開いたらどうかな。公式にタイムを測り、良い記録を出した者を、日本の代表としてオリンピックに送り込むんだ」
という提案をした。
嘉納の提案に、天狗倶楽部の面々も、「おーっ!!」「それは良い!!」と一斉に盛り上がったが、
三島だけは「僕は、反対だな」と、意外にも反対の意を表明した。
「三島君…?」
三島の意外な反応に、嘉納は戸惑ったが、三島は、
「予選会なんて、みみっちい事を言わずに、どうせなら東京でオリンピックをやりましょうよ!嘉納天狗!!」
と言ったのである。
「東京…オリンピック?」
今まで、思ってもみなかった発想に、嘉納は驚いたが、
天狗倶楽部の面々は、「おーっ!!」「やってやろうぜ!!」と、更に盛り上がった。
この時点で、日本はまだ一度も、オリンピックに参加した事すら無かった。
しかし、「いつの日か、東京オリンピックを開催する」という、
気宇壮大な目標が、この時初めて、嘉納治五郎の胸に刻まれたのであった。
<嘉納治五郎、オリンピック代表を決める予選会の開催を発表>
その後、嘉納治五郎は、日本のオリンピック参加と、
オリンピック参加のための予選会を開催する事を、記者会見で大々的に発表した。
そして、もし世界に通用するようなレベルの選手が現れなかった場合、
潔く、日本は今回のオリンピック参加を辞退するという事も、同時に発表した。
なお、参加費用などは、全て嘉納が主宰する大日本体育協会が負担するという条件であったが、
その事を知った、人力車夫の清さん(峯田和伸)も、
「俺も、絶対オリンピックに出てやる!」
と、すっかりその気になっていた。
しかし、後の古今亭志ん生である、美濃部孝蔵(森山未來)は、
「やめとけって、無理だよ。参加条件は、中等学校の学生か、学歴は中等学校卒業以上だってよ。おめえ、小学校しか出てねえじゃねえか」
と言って、清さんの出鼻を挫いた。
清さんは歯ぎしりしたが、それでもまだ諦めきれない様子であった。
なお、オリンピック参加反対の立場を崩さない、永井道明(杉本哲太)は、
「選手の健康管理は、どうするのか?死人が出たりしたら、どう責任を取るおつもりですか?」
と、嘉納に食い下がったが、
「スタート地点から折り返し地点までの間に、何箇所も中継地点を設け、そこに医者も配置する。何か有ったら、すぐに伝令を使って、本部に報告させる」
という、万全の対策を取ると話し、不承不承ながら、永井に予選会開催を了承させた。
<嘉納治五郎と天狗倶楽部、羽田に競技場を作る!!>
オリンピックの予選会を開催する事が決まったのは良いが、
当時の日本には、陸上競技のためのスタジアムは存在していなかった。
そこで、嘉納は東京・羽田の地に、競技場を作る事にしたが、
羽田に行ってみると、雑草が生い茂る、何も無い原野であり、
ここに競技場を作る事は、至難の業と思われた。
途方に暮れる嘉納と可児徳(古舘寛治)であったが、
そこへ、三島弥彦、押川春浪、吉岡信敬をはじめ、天狗倶楽部の一同が、姿を現した。
「大丈夫です!ここに、立派なスタジアムを作ってやりましょう!」
彼らは、嘉納と可児に対し、力強く言った。
そして、三島は、
「建設費用は、兄貴(三島弥太郎)に言って、出させますよ!」
と言って、嘉納を安心させると、
「さあ、取り掛かろうぜ!!」
と言って、天狗倶楽部の面々は、一斉に競技場建設へ向けて、原野へと飛び出して行った。
もはや、嘉納治五郎は、天狗倶楽部の事を、妙な暑苦しい団体だとは思っていなかった。
天狗倶楽部は、何処までも気風の良い、熱い心を持った、スポーツを愛する素晴らしいグループである事は、疑いようも無かった。
<嘉納治五郎、遂に病に倒れる>
しかし、嘉納治五郎は、無理が祟ったのと、
医者から禁じられているという酒を、天狗倶楽部の面々と共に痛飲してしまった事もあり、
持病の糖尿病が悪化し、遂に倒れてしまった。
「世界に通用する韋駄天は現れるなどと、大風呂敷を広げ、みんなを巻き込んでしまったが…実は、随分前から諦めていた」
と、嘉納は病院のベッドで、可児に対し、とうとう弱音を吐いた。
「韋駄天など、居ない」
嘉納は、すっかり弱気になっているようであった。
「先生、そんな事はありません!韋駄天は、必ず居ます!!」
可児はそう言って、嘉納を元気付けようとした。
そして、嘉納に無断で、予選会の優勝者に授与するための優勝カップまで作ってしまったと、嘉納に話した。
「これ、いくらかかった?」
嘉納は、何とも複雑な表情で、その優勝カップを見つめるのだった。
東奔西走の末に、遂に倒れてしまった嘉納治五郎であるが、
そんな嘉納の前に、果たして、待望の韋駄天は現れるのであろうか?
(つづく)