<9回裏2死、法政が奇跡の逆転サヨナラ勝ち!!>
5-6と1点ビハインドの法政は、
9回裏、2死2、3塁の一打逆転サヨナラのチャンスを作り、
打席に入るのは、3番・向山。
しかし、向山は、立教・手塚の投球に全くタイミングが合わず、
変化球を2度空振りし、たちまち、2ストライクと追い込まれた。
カウントは、1ボール、2ストライク(1-2)。
この時、正直言って、打席の向山は、あまり打てそうな雰囲気は無いように見えた。
向山の表情も、心なしか、青ざめているように見える。
「これは、もうダメかな…」
と、私も半ば観念しかかっていたと、白状しておこう。
そして、立教・手塚の次の投球を、向山は辛うじてバットに当てた。
そして、その打球は、高いバウンドとなり、手塚の頭上を超えた。
打球の行方を見ると、力無い、緩い打球が、三遊間の前に転がっている。
「向山、走れ!!」
法政側のスタンドから、一斉に絶叫が起こった。
立教の三塁手・敷名が、猛ダッシュして、この打球をカットしたが、何処にも投げられない。
その間、向山は全速力で1塁を駆け抜け、3塁ランナー・船曳が、同点のホームを踏んだ。
こうして、向山の執念のタイムリー内野安打により、
法政は、あと1アウト、1ストライクを取られたら敗北するという土壇場で、
遂に6-6の同点に追い付いた(法政6-6立教)。
法政側のスタンドからは、大歓声が起き、
皆、口々に何かを叫び、わめきながら、喜びを爆発させていた。
前述の通り、この日はプロ野球併用日だったため、
9回裏に同点に追い付いた時点で、法政の負けは無い。
しかし、法政としては、ここは一挙に試合に引っ繰り返したいところである。
6-6の同点に追い付き、なおも2死1、3塁という、一打サヨナラのチャンス。
ここで、打席には4番・中山が入った。
「中山、絶対に決めろ!!」
押せ押せムードの法政側スタンドの応援のボルテージは最高潮に達し、
打席の中山に、大声援が送られた。
すると、この場面で、思わぬ事態が発生した。
立教・手塚が、一塁へ牽制球の偽投をするような、妙な動きを見せたのである。
この時、法政側のスタンドに居た、何人かの目ざといファンから、
「あっ!!」
という声が上がった。
そして、法政のベンチから、選手達が一斉に飛び出し、
「ボーク!ボークだ!!」
と、口々に叫び、アピールをした。
ここで、一塁塁審は、即座に手塚にボークを宣告。
まさかの、サヨナラボーク!!
3塁ランナーの斎藤卓が、手を叩きながら、サヨナラのホームイン!!
思わぬ形で、激闘に決着がつき、法政は9回裏2死から、劇的な逆転サヨナラ勝ちを収めた(法政7-6立教)。
こうして、法政は敗北目前の土壇場から、奇跡的な逆転サヨナラ勝ちで、立教に連勝。
法政は、勝ち点3を奪取したのである。
法政の選手達は皆、一斉に雄叫びを上げ、抱き合って歓喜を爆発させた。
そして、法政側のスタンドでは、一斉に凄まじい大歓声が起こった。
法政側スタンドに居た人は皆、誰彼構わず、ハイタッチをしたり、抱き合ったりして、喜びを分かち合った。
「奇跡だ!奇跡が起きた!!」
法政ファンから、期せずして、そんな声が起こっていた。
そして、感激の涙を流す、女性ファンの姿も有った。
私もまた、法政の劇的な逆転サヨナラ勝ちに、飛び跳ねて喜び、
言い知れぬ感動が、心の底から湧き上がって来るのを感じた。
今シーズン、何度も奇跡的な逆転勝ちを演じて来た法政だが、
この立教との2回戦こそ、今季のベストゲームではなかったかと、私は思っている。
この試合の感動は、この先も、ずっと忘れる事は無いであろう。
そして、あの向山のタイムリー内野安打は、法政の勝利への執念、優勝への強い思いが乗り移っていたかのようであり、
今もなお、私の脳裏に焼き付いて離れない。
試合後、法政ファンは皆、誇らしげに、勝利の校歌を歌った。
そして、法政は立教に連勝し、勝ち点3を挙げる事となった。
試合後、私は法政の応援団やチアの人達に、
「おめでとうございます!」
と、声を掛けたが、彼ら、彼女達は、
「有り難うございます!絶対に、優勝します!!」
と、自信に満ちた表情で言い切っていた事が、強く印象に残った。
法政は、勝ち点3を挙げたとはいえ、
慶応が何処かで勝ち点を落とさない限り、優勝の可能性は無い。
しかし、応援団やチアの人達は皆、今季の法政野球部の戦いぶりを見て、
既に優勝を確信しているような表情を見せていた。
その充実した表情こそが、今季の法政の戦いぶりの素晴らしさを、
何よりも雄弁に物語っていたのである。
(つづく)