路地裏に咲く花 | 宇都宮 彫耀

宇都宮 彫耀

日々の出来事や想いをブログに綴ります。


5月2日(火)
仕事で腰を少し痛めた。
今までの経験から3〜4日程度で治まりそうな感じの痛み。
一応念の為に、GW中は仕事や出掛けるのは控えて安静にする事にした。

夜、くみの義理の妹から電話がかかってきた。
義理と言っても親族ではなく、絆で繋がっている義理の姉妹だ。
一瞬電話にでる事をためらう。
最後に話したのは葬儀の数日前、妹は酔ってグダグダになっていて酷い状況、絶対に来ると言っていた葬儀にも来てはいなかった。
それから1〜2度電話がきたけれど、もう俺は話をしたくなくて避けていたんだ。
あれから半年が経った。
もしまた酔って電話をかけて来たのなら、今後一切の縁を切るとハッキリ言うつもりで電話に出てみた。

妹は酔っていなかった。
控えめで普段の優しい声だった。
俺と息子を心配して最近の様子を聞いてきた。
また、心の支えであった姉がいなくなってしまった事に、今も現実感が全く無いのだと言っていた。
そりゃそうだろうね。
葬儀前から今に至っても、1度もコチラに来ていないのだから。
来れない事情があるのかも知れない、でも俺としては何で来ないのか
不思議でしょうがなかった。
この数年間、長く依存している酒で常に酔っている妹は、病気と闘っているくみとまともな話が出来てなかったと思う。
論より証拠で、最後に俺と話した時も全く会話になっていなかった。

俺も数ヶ月は普通の精神状態じゃなかったから、今は冷静に相手の話を聞く事ができている気がする。
こんな時くみだったら何て言うのかなって、自分の考えよりも、くみの気持ちになって妹の言葉を受け入れるようにしていた。
時には厳しく、時には甘えさせてあげて、そしていつも妹を心配していたくみをずっと見てきた。
妹にとって、その大きな存在を失ってしまった気持ちを俺は理解出来ていなかったかもれない。
いつも酒に逃げて溺れる程苦しむ弱い心を、一方的に俺が見放してしまうかどうかの瀬戸際だった。
酒はやめている、仕事は目標に向かって頑張れている、結婚したい人がいるとも言っていた。
その言葉のどれもが後ろ向きではない。
きっとくみなら応援する。
そう思ったら、俺も素直になるべきじゃないのかなと感じたんだ。

妹の太ももには、駆け出しの頃のくみが手掛けた牡丹の刺青が入っている。
その上の方には2匹の蝶々、その内の1匹は俺が色を入れたんだ。
お姉ちゃんとトシくんの彫った刺青を、一生身体に残したいからと肌に刻んだ想い。
当時の気持ちを今でも大切に思っていてくれている事は嬉しかった。
足首の方には妹が自分で彫った梵字が入っている。
今となってはちょっと訳ありで、消すかカバーアップをしたいと願っているようだ。
今回その相談もあり、どちらにしても俺にお願いしたいと頼まれた。
くみがいたら、きっと彫ってあげなよと言うだろうね。


1年半程前だったか、くみが妹から背中に千手観音を頼まれたと言っていた。
でも闘病中って事もあり、くみに下絵を描く余裕はなかった。
俺が以前描いた下絵を少しいじって使えば?って話をした事もある。
妹はくみから、私はもう彫る事が出来ないからトシくんに彫ってもらいなよって言われていたそうだ。
とりあえずは足首のカバーを引き受ける事にした。
背中となると完成まで数年かかる。
本気でその覚悟があるのかどうか…それを確かめてから、やるかやらないは決めようと思う。

先日、事情をある程度知っている友人からお前はお人好し過ぎると言われた。
だから利用されたり裏切られたりするんだと。
もちろん、こんな俺を心配してくれての言葉だから快く受け止めている。
頼まれたら断れないお人好しなんだからと、くみにもよく言われていた事だ。
性格上それも確かにあるかもしれない。
ただ、人から止めておけと言われて、はいそうですねって言う事を聞く素直な性格でもない。
一旦自分の心にぶつけてみて確かめたりもする。
人の話を聞いて違和感を感じたのなら、それはきっと今の自分の気持ちに相反している事なのだと思う。

別に優しいだけのお人好しでいたいとは思っていない。
周りからそう思われてるのは仕方ない事だけど。
ただ俺は、器の小さい男にだけは絶対になりたくないだけなんだ。
大抵の事は受け入れるし相手の気持ちを尊重したい。
過去の過ちや確執を、時間をかけても許し合えるような人間性でいたい。
弱く脆いメンタルの部分でも、心に寄り添っていられるような人でありたい。
利用したいのならすればいいし、裏切って好きなだけ心に槍を投げつけてくればいいと思う。
それでも俺は投げ返したりはしない。
その痛みの分だけ強くなれるから。
その痛みの分だけ俺は俺らしく生きて行けるから。

7月頃に、出張彫りを兼ねて八王子へ行こうと思う。
たくさんの思い出がある街だから、辛くなったり切なくなるかもしれない。
それでも1人で行ってくるよ。
まだきっと俺は必要とされているのだから。

日の当たらない場所でも構わない。
佇む誰かの孤独な心を、そっと励まして生きて行きたい。


路地裏に咲く花のように。