虹色の人魚 | 宇都宮 彫耀

宇都宮 彫耀

日々の出来事や想いをブログに綴ります。

1/28(日)

前日の不思議な感覚を残したまま、その日も毎朝のルーティンに入る。

Mちゃん達家族はリビングに集結、暖かいコタツに潜り込んでまったりしている様子。

俺はお泊りしてもらったの部屋の布団を押入にしまい込んだ。

それから2階の空き部屋に置いてある、くみの服が入った袋を6つほど下に運んでいた。

2階とガレージにあるくみの洋服は軽く2トントラック1台分。

程度の良い物を売るか譲るかで、残りは処分するようにと、ある程度は分別して袋詰めしてある。

下に運んだ服の中から、今回Mちゃんと娘ちゃんが気に入った物を譲る事にしていた。

突然グラグラと家が揺れる。

少し強い地震だった。

リビングへ行くとMちゃんと娘ちゃんが真顔でこう言った。

孫ちゃんが昨日

「明日地震くるよ〜」って言っていたと。

これには本当に驚いた。

地震の予知まで出来るなんて…

こう言う予言的な事は今ままで無かったし、今回が初めてだよって2人もかなり驚いていた。

当の本人はYouTubeでアンパンマンを見てご機嫌な様子。

それからくみの部屋へ移動して服を選んでもらっていた。

実はその前に、孫ちゃんがおねーちゃんの部屋に行こうって、娘ちゃんの手を引いてくみの部屋に入っていたそうだ。

部屋の白い棚には、ぬいぐるみや小物、くみが最後に描いた人魚の絵も飾ってある。

孫ちゃんが絵を見て、可愛いね〜虹色だねって言ってたそうだ。

不思議な事に、昨日泊まったこの部屋がくみの部屋だとは誰も教えていない。

それなのに孫ちゃんは、おねーちゃん(くみ)の部屋って認識していたんだよね。

これは本当に驚きの連続だよ。


棚の物に触れなかったんだね?と俺が言ったら「ここはいじっちゃダメなんだって~、おねーちゃんが言ってた〜」と孫ちゃんが応える。

すると続けてMちゃんが言った。

「カメラついてるから廊下行ったらいけないんだって〜カメラがあるから、行けるのおとーさんだけだって〜」って孫ちゃんが言ってたと。

カメラ?それは外にはあるけど廊下にはない。

でも何も知らない子供に対して、その言いまわしは…何かくみらしいと感じたんだ。

廊下もだけど、そこから先は荷物が所狭しとギュウギュウに置いてある。

うちは1階部分が2世帯に分かれていて、くみ専用の部屋と玄関・キッチン・バス・トイレが引っ越し前から確保されていた。

そこのスペースの片付けに関しては、食品以外は全て俺が1人で分別して少しずつ整理している。

くみの残した痕跡を誰にもいじられたくないからだ。

くみにとっては今でも自分の領域であるし、俺の思いもくみが1番よく知ってると思う。

だからかな。

俺がMちゃん達に伝える前に、くみから孫ちゃんへ色々と伝えてくれたんだと思う。

前日の夜くみの部屋から聞こえた話し声、きっとその事なんだろうね。

俺は今まで、くみからは色んな呼び方をされていた。

でも最近かな、1年ほど前から『おとーさん』って呼ばれるようになっていたんだ。

孫ちゃんは普段から「おとーさん」って言葉は一切使ってないとの事。

そんな偶然ないでしょ。

もう間違いなく、くみからの言葉だと疑いようのない気持ちになった。


孫ちゃんを抱っこして外に出てみた。

3台並んでる車を見ながら、どの車が1番好きか聞いてみた。

すると右端のくみのラパンを指さして、「これがいい〜」って答える。

何でこれがいいの?と訊ねると、「キレイ〜、乗った事あるよ〜」ってオイオイ…ちょっと言ってる事がおかしいぞ??

そのままラパンの鍵を開けて、抱っこしたまま運転席に座ってみた。

車内はまだ、くみの匂いが残っていて胸がキューッと締め付けられる。

あれからこの車には誰も乗っていないし、たまに俺がエンジンをかけているだけだ。

助手席の足元にある、キラキラした小物がたくさん入ってるケースを見て、「おもちゃがいっぱい〜」と言って孫ちゃんはとても嬉しそうだった。

前日の夜に目を開けて寝ていた姿、一瞬くみに見えた事を思い出した。

もしかしたら…だけど。

くみが孫ちゃんに入ってきて、齢も4才まで戻っちゃってて、そこからの「乗ったことあるよ〜」の言葉だったのかもしれない。

それなら合点がつくと感じたんだ。


この家は不思議と人が集まる。

そして、リビングは居心地が良すぎて帰りたくなくなると皆が言う。

くみがこの家を選んだ理由に、みんなで集まってワイワイ楽しくやりたいって事が1番の希望だった。

気付けば…それはもう叶ってるじゃんと思った。

孫ちゃんは、本人も周りもしらない事を、この家に来て奇跡のような事を自然に話してくれる。

娘ちゃんも、ここに来て母親であるMちゃんの言っていた事がわかってきたと、自分で自分の変化を感じていたようだ。

くみの願いの家だからね。

きっと守ってくれてるから、不思議なパワーが家に宿っているような気もする。


くみの描く絵は大胆でダイナミック、どちらかと言うと男っぽい絵をずっと描いていた。

俺と出会う前の絵は、全体的に少し寂しげで、心の奥底の悲しみを感じるような雰囲気がしていた。

難病と大病を患わってからは、優しい色合いと少し子供っぽい絵を描くように変わってきた。

その時々で、くみの描く絵には自分自身の思いを重ねていたような気もする。

あの虹色の人魚の絵に左手をかざしてみる。

くみの生きる希望と、優しい気持ちが柔らかく、そして温かく手の平に伝わってくる。

思い返せば…

大阪で入院中に絵を描き始めた時、尻尾の形で悩んでいてアドバイスを求められた。

少しの間だったけど、くみと一緒に絵と向き合えたのは久し振りで、今思えば本当に貴重な時間だったと思う。

俺のラクガキもそのままでね、手早く色を塗って仕上げた人魚はカラフルな虹色だった。

そして大阪の看護師さんがクリニックに飾ってくれた。


その絵は俺にとっても大切な思い入れがある。

くみも虹の橋を渡って、笑顔で向こうから手を振ってくれているんだろうね。

いつでも会えるからねって。

そんな事を想像させてくれたのは、虹が大好きな孫ちゃんのおかげだ。


可愛い女の子だし、もっと仲良くなって遊んであげたいと思う。


アオちゃん、

家に来てくれてありがとう。

Mちゃんと娘ちゃん、

連れて来てくれてありがとう。

またいつでもみんなで来てよ。


くみも一緒に待ってるからね。