ウクライナ危機が加速する『グレート・リセット』とは?
2022年3月24日


世界経済フォーラムの創設者クラウス・シュワブは、世界システムの「グレート・リセット」を夢見てきた。彼は、コロナと気候変動危機が、どの国も島国ではないことを示し、あらゆる領域でよりグローバルな協調が必要であると主張してきた。

 

 

『グレート・リセット』は、人間中心の経済システムの構築、資源の持続的利用の優先、インダストリー4.0技術の共通利益への貢献、そして新しいグローバル金融アーキテクチャの構築により、グローバルシステムの再構築を可能にします。

 

1月のダボス会議で演説するWEFのクラウス・シュワブ氏と習近平氏。写真 WEF

 

1月、シュワブは、中国の習近平国家主席を説得し、世界の金融、政治、文化のエリートが集まるスイスのダボスで毎年開催されるWEFの会合で講演を行った。

 

習近平は北京からビデオ中継で演説し、気候変動や経済格差等、地球規模の課題に対処する為の国際協力の強化を訴えた。

習近平は、この演説を通じて、シュワブWEFプログラムの精神に賛同していることを表明した。

 

しかし、習近平は、対立は『破滅的な結果』をもたらすと戒めた。

ドルのリセット

2008年のリーマン・ショックを契機に、グローバルシステムの「リセット」という考え方が広まりました。

 

米国政府は、金融システムの崩壊を防ぐ為に何兆ドルもの資金を投入した。

 

 

塵も積もれば山となるで「量的緩和」(通貨供給量の拡大)に煽られた米国の巨額債務は、最終的に大規模なインフレを引き起こし、世界の基軸通貨としてのドルの役割を損ねると警告する金融・経済専門家が増えてきた。

2014年、オランダの金融ジャーナリスト、ウィレム・ミデルクープが『The Big Reset』を出版した。

 

「金との戦争と金融の終盤戦を出版した。

 

彼は、米国は金融システムのリセットを工作する事で、ドルを支配的な通貨として維持し様とすると主張した。

 

そして、金が新しい金融システムのアンカーのひとつになるだろうと予測した。

 

事実上のドルの切り下げを反映し、金の価格は3倍になる可能性がある。

ウクライナは、従来の「リセット」シナリオを覆した。

 

米国が、ロシアの中央銀行をドルシステムから切り離した事は、云わばゲームチェンジャーであった。

 

米国、ロシアの中央銀行を米ドル取引から切り離す
 

米国政府は、ベネズエラ、北朝鮮、イラン等の国々に対して、ドルシステムの支配力を意のままに行使してきた。

 

しかし、ロシアのドル準備高を没収した事で、世界は警鐘を鳴らしたのである。

米国と、直接同盟を結んでいない国々は、ドルシステムへのエクスポージャーを減らす事に目を向けるだろう。

 

中国はこれまでドル体制におんぶにだっこで、直ぐにドルに挑戦する必要はなかったが、米国が台湾への関与を強めている以上、中国には懸念すべき理由がある。

ロシアをドルシステムから排除した事で、米国の金融パワーが法的制約無しに行動できる事が明らかになった。

 

中国は、既に数十カ国と所謂、通貨スワップ協定を結び、ドルシステムを回避しているが、今後は人民元を中心とした国際取引決済システムを構築する必要性を感じるようになるかも知れない。


世界の債務

ドルシステムの崩壊に関する憶測は数十年前に遡る。

 

ドルベアの主張は、米国の持続的な貿易赤字、財政赤字、増大する国家債務は持続不可能であり、その埋め合わせの為の通貨の増刷には限界がある、と云うものである。

ドルの終焉に関する理論は、金融専門家、経済学者、暗号通貨コミュニティの間で最もホットな話題の1つとなっています。

 

ジム・ロジャース、マーク・フェイバー、ピーター・シフといった著名な投資家は、終末論的な予測をキャリアにしている。

 

億万長者の投資家レイ・ダリオが作った、帝国がどのように、そしてなぜ衰退するのかについてのビデオを何百万人もの視聴者が見ている。

 

その切欠は、常に持続不可能な負債である。

以下のビデオをご覧ください。

 

レイ・ダリオ著「変化する世界秩序に対処するための原則

 

ドル危機に対する最悪の終末予測は、1930年代の世界恐慌を超えるものである。

 

銀行の閉鎖、救済措置、資本規制、食糧不足、停電、必需品の配給等が予想される。

ドル危機は世界中に波及するというのが大方の見方である。

 

ドルと米国債の需要は崩壊し、金利は急騰する。

 

また「スーパーインフレ」が起こり、何百万人もの人々が仕事、生活資金、年金を失うという見方もある。

アジアからの教訓

現在のドル問題の核心にあるのは、以前のリセットである。

 

1972年、米国のニクソン大統領は、ドルと金を切り離し、世界に衝撃を与えた。

 

これにより、米国政府はドル紙幣を金と交換する義務を免れた。

ベトナム戦争で国庫を圧迫していた米国は、ドルを金から切り離す事で、必要なドルを単純に印刷する事ができる様になったのである。

 

ニクソンは、サウジアラビアに、米国の軍事的保護と引き換えに、ドル建てでしか石油を売らない様に説得した。

 

ドルは、米国経済の強さと、世界の不可欠な通貨としてのドルの役割に裏打ちされることになる。

1970年代半ばになると、日本は超高効率的な輸出機械が勢いを増し、米国経済の強さを試されることになった。

 

僅か10年の間に、日本の電子機器メーカーは事実上米国の家電業界を一掃してしまった。

日本の自動車メーカーも同じ事をする恐れがあり、米国政府は、米国の自動車産業を救済する為に介入せざるを得なくなった。

 

1985年、米国は、日本からの輸出を食い止める為に、日本に円の切り上げを強要した。


中国が世界経済に参入した時、米国経済は日本の「ジャストインタイム」効率に殆ど適応していなかった。

 

米国企業は、中国の巨大な市場、熟練した労働力、そしてインフラの質の高さに惹かれた。

 

米国企業は中国の巨大な市場、熟練した労働力、質の高いインフラに惹かれ、何百万もの仕事を中国にアウトソーシングし、米国の産業基盤は更に衰退していった。

中国はドルの恩恵にあずかり、何億人もの人々を貧困から救い出した。

 

その余剰資金を国内の社会・公共インフラや、史上最大のインフラプロジェクトである「一帯一路(Belt and Road)構想」に投じた。

その間、何百万人もの米国人が、アメリカンドリームが地平線の彼方へと後退していくのを目の当たりにした。

 

何百万という製造業の雇用が消え、米国の金融業界は自由裁量を与えられる様になった。

 

ニクソン大統領以降の数十年間、米国の主要政党の大統領は、世界恐慌を引き起こした過度の金融投機の再発を防ぐ為に、1940年代にフランクリン・ルーズベルトが導入した金融規制を徐々に撤廃していった。


真のリセット

昨年末、米国の国家債務は30兆ドルに迫り、世界の債務は300兆ドルに達し、その殆どがドル建てである。

 

インフレを防ぐ為に金利を上げると、この負債をどう処理するのか、銀行家は夜も眠れない。

ウクライナ紛争は、この問題をより深刻にしている。

 

ロシアを、ドル体制から排除する為には、世界金融システムの見直しが不可避であるが、それには非常に大きなコストが掛る。

中国は、ドル体制に大きな投資をしており、ドルの軟着陸を図る事は間違いないだろう。

 

しかし、中国はセーフティネットとして人民元を中心とした決済システムを並行して構築し、ドルシステムへのエクスポージャーを減らすだろう。

 

産油国を含む事実上全ての非西洋諸国は、中国の貿易と投資への依存度を高めている一部のヨーロッパ諸国と同様に、人民元システムに接続する事になるだろう。

 

ウクライナ危機で加速する中銀デジタル通貨の台頭
 

中国は、石油を始めとする無数の原材料の世界最大の輸入国であるだけでなく、必要不可欠な消費財、グリーンテック、インダストリー4.0テクノロジーの世界最大の生産国でもあります。

 

デジタル人民元の導入により、中国は新たな金融アーキテクチャを一から構築する事が可能になります。

デジタル・マネーはインダストリー4.0.テクノロジーの最前線と中心的存在となる。

 

クラウス・シュワブは、彼が想定していた様なものではないにせよ、少なくとも技術的な大リセットの一部を手に入れる事ができるだろう。

ヤン・クリッケは、様々なメディアの元日本特派員、香港の「アジア2000」元編集長、「ライプニッツ、アインシュタイン、中国」(2021)の著者である。

 

この記事は、Asia Timesに掲載されたものです。

 

グレート・リセットを加速させるウクライナ