役員に対する事前確定給与の留意点 | 中小企業の経営参謀「税理士星川」の戦略、税制、法務、海外展開のお役立ちブログ

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3月決算法人の今期の事業プランに関するご相談を
受けることが多くなってきました。

会社さんによって事業に関するご相談内容は様々ですが、
共通して多く受けるご相談として、

役員給与の設定の件」があります。

役員給与は、会社からの職務執行の委任の対価ですから、
株主総会等で決定する必要があり、基本的には、
定時株主総会で決定されます。
3月決算法人の場合は、通常5月か6月に定時総会が行われます。

法人税法上、役員給与が損金(経費)として認められるには
定期同額」、つまり、一か月以内の期間ごとに支給され、
その事業年度において同額であることが求められます。
(法34条1項1号)

この他、我々のお客様の多くを占める同族会社にとっては、
事前確定届出」された給与の額が、その届出通りに
支給される場合には、損金として認められるという制度も
注目されます。(法34条1項2号)

以上の「定期同額」、「事前確定届出」いわば、ベースの部分と
一時支給の部分をどのように組み合わせて役員給与を設定すると
いうアドバイスを行うというのが主たる業務です。

<事前確定届出給与の制度の利用法>

この「事前確定届出給与」は平成18年の制度の開始から
時間が経ち、だいぶ浸透してきました。
しかし、上記の「ベースの部分」と「一時支給の部分」という
理解が独り歩きし、制度の趣旨がやや誤解されている部分が
出てきているように感じますので、このあたりを簡単に
振り返ってみたいと思います。

先に見たように、役員給与は職務執行の委任の対価であり、
基本的には、委任の対価の総額は、決議により決定され、
これを月額に直したところで月額給与が決定されます。

しかし、資金繰りの都合等から、必ずしも報酬を等分にならすことが
望ましくなかったり、また、職務執行期間の全うに対する報酬という
意味合いから一定の支給時期に一時金として支払う、いわゆる
リテンション報酬の意味を持たせたりという設計があり得ます。

このように、「ベースの部分」と「一時支給の部分」を捉える
ことが理論的です。
そうすると、「事前確定届出給与」の利用が想定される
ケースとは以下のようなものになるでしょう。

小池先生の『誤まりやすい役員給与の法人税実務(第2版)』
(税務研究会出版,2012,p198)は、類似のケースを
「支給時期の決め方としては最も合理的」と評価しています。

つまり、職務の遂行に応じて、半期及び職務終了時
それぞれ一時支給をするケースです。

<確定額の支給時期に関する留意点>

以上に対し、以下のような設計をする会社も多くあります。

これは、年末及び決算時の支給という設計です。
つまり、役員の職務執行期間は翌定時株主総会であるにも
関わらず、その期間の中途において、その報酬を前払いする
というイメージになります。

そもそも、民法648条の定める職務の受任に係る報酬は、
「委任事務を履行した後でなければ、これを請求できない」
と、要は後払いを原則しています。
そうすると、職務執行期間の中途で定期報酬以外の一時金を
受け取ることは民法になじまないのでは…
税法上は、前受として損金にならないのでは…という
心配が出てきます。

この点、法人税法には、詳細な規定がありません
つまり、明確に損金性を否定する根拠はありません。
国税庁は、質疑応答事例の中で、
夏季と年末に役員賞与を支給するケースに対し、
「使用人への賞与が盆暮れの時期に支給されているのが一般の
企業慣行であることを考えると、役員に対して同時期に賞与を
支給することはあながち不自然なことではない」とし、
「役員への賞与の支給時期を使用人への盆暮れの賞与と
同じ時期とし、かつ、毎期継続して同時期に賞与の支給を
行っているときに、事前確定届出給与に係る一定の要件を
満たしていれば、これを事前確定届出給与として
当該事業年度の損金の額に算入することとして
差し支えありません。」

国税庁としては、企業慣行に即すること、また毎期継続的に
このような設計をすることを条件に事前確定届出給与の
損金への算入を認める旨を述べています。

法人税法の規定がない以上、国税庁の適示するような
条件がなぜ要求されるのかが検討されなければならない
とは思いますが、実務上はこのように検討されているという
ことには留意しておくべきです。

先の例のように、年末及び決算時の一時支給を適法に
届け、その通りに支給している場合には、
その役員給与は損金と認められるでしょう。
ポイントは、決議日以後の業務執行期間の対価の額が
確定しているという点に見出されると考えます。

<利益処分的な役員賞与の損金性>

それでは、前期の職務執行の成果に対する賞与に相当する対価を
翌職務執行期間の一定の時期に支給するという届出をした
場合はどうでしょうか?
従来利益処分として扱われていた「役員賞与」を損金算入する
ことができるか?という論点です。

事前確定届出給与の制度の趣旨は、あくまでも職務執行期間の
対価の支給時期にバリュエ―ションを与えるというものであると
考えられることから、本質的には、前職務執行期間の対価を損金として
認めるというところまでこの規定が意図しているとは
考えられません。(同旨、DHCコンメ法人税法34条1項注釈)

ところが制度の仕組み上、この支給額の設定の真意が
事前の「届出書」には反映されないため、
上記のケースと照らして、区別がつかないというのが
現状でしょう。

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税理士、行政書士 星川 望
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