フランツ・カフカ『失踪者』 | ホーストダンスのブログ

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カフカの『失踪者』を読みました。

カフカの作品を読んだのは本当に久しぶりのことです。『変身』、『審判』、『城』という代表作を読んでカフカは卒業したつもりになっていましたが、先日、日経新聞の日曜版の中でこの作品が紹介されていて興味を持ち、読んでみた次第です。


あらすじや内容は予想していた通りの「カフカワールド」で、カフカの作品をいくつか読んできた人にとっては期待を裏切らない作品だと言えるでしょう。

主人公カールは17歳のヨーロッパの少年です。(15歳、16歳という別年齢に設定されたバージョンもあったそうですが)カールは年上の女中に誘惑され、子どもを設けてしまったために家を追い出され、船でアメリカに行くことになってしまった少年です。

カールが船から降りようとするところから物語は始まります。傘を忘れたことに気づいたカールが船内に引き返したところで船員と船長との間のトラブルに巻き込まれますが、そこで偶然、アメリカで上院議員をしている叔父に出会い、彼に引き取られてアメリカに上陸します。(全く身寄りのないアメリカに単身渡航し、一から身を立てていく少年の冒険物語という感じで始まるのですが、いきなりの突飛な展開に読者は驚かされるでしょう)

裕福な叔父の下でアメリカ生活をスタートさせたカールは、英語や乗馬を習わせてもらい、何不自由ない暮らしを送ります。しかし、ある日現れた叔父の友人の家に泊まりに行ったことが叔父の逆鱗に触れ、叔父の家を追い出されてしまいます。

右も左もわからないアメリカで突然放り出されたカールは放浪の旅を始めます。途中出会った二人の若者と野宿をしていたとき、たまたま知り合ったホテルの調理主任の中年女性に気に入られ、そのホテルのエレベーターボーイとして働き始めます。

そこでは仕事も順調に覚え、女友達もできますが、ケンカ別れした二人の若者のうちの一人が酒に酔った状態でホテルに現れたことがきっかけで、ホテルをクビになってしまいます。

再び放浪の身となったカールは、仕方なく二人の若者の暮らす高層マンションに居候することになります。そこには肥満した女性のブルネルダが女ボスとして君臨しており、カールを含む3人はブルネルダの奴隷のような形で暮らすことになります。


作品はここで一旦絶筆となりますが、その後日談的な短編が断片的に残されており、追録的に収録されています。それらを読むと、カールの放浪の旅は広大なアメリカの地で果てしなく続いていくかのように思われますが、今となってはカフカの構想がどうだったのからわかりません。カフカの当時の書簡によると、この時点でカフカはかなり行き詰まっていたようなので、このような未完の作品となることは作者自身も許容していたのかもしれません。

あるいは、解説にあるように、仮にこの物語が続いていたとしても、どこかの時点で同じようにサドンデス的な終末を迎えるのは作品の主題からして当然の帰結と考えることもできそうです。

ただ、非常に魅力的な作品だっただけに、もう少しこの作品の世界に浸っていたかった気もします。カフカらしい、不思議な魅力に満ちた作品としておすすめします。