ちょうど買い置きの本がなくなったところで、家にすでにあった本で、次男の学校の推薦図書にもあったこの本を読むことにした次第です。
この作品の存在は、映画も含めてかなり前から知っていましたが、この歳になってようやく読む機会を得ました。
敦煌の石窟から大量の経典が発見されたことから着想を得たフィクションですが、実存した国とその元首を登場させつつ、主人公が戦火から経典を守るため、それらを敦煌の石窟に隠すという結末が歴史的事実に繋がるよう構成されている壮大な歴史小説です。
舞台は11世紀、宋の時代の中国とその西域で、科挙に失敗した青年が主人公です。その青年趙行徳は、ひょんなことから西域の国、西夏に惹きつけられ、西方へ旅することになり、いつの間にか西夏の漢人部隊に組み込まれ、敦煌周辺の紛争に巻き込まれていきます。
その過程で彼の人生に大きな影響を与えたのが回鶻(ウイグル)の若い娘と、仏教の経典との出会いです。
後者が作品の主要テーマであり、前者は作品全体に彩りを与える重要な出来事となっています。
冒頭、主人公の科挙での失敗は、面接を待っている間に居眠りしてしまう、というおよそ考えられないようなことが原因ですし、城内の市場で出会った女から渡された一枚の紙切れに記された西夏文字が、縁もゆかりもない西域への旅のきっかけになるというのは相当突飛な設定という気がします。
また、西方への旅の途中の描写にもやや粗さはありますが、壮大な歴史小説だからこそ、細部にこだわることが馬鹿らしくもなります。
そもそも一人の人間の存在自体が本当に小さなものであることを如実に示す作品です。
あくまで娯楽小説の一つとは思いますが、作中の人物になりきって、歴史の荒波に翻弄されながら長い道のりを旅する気分を味わうことでこの作品の醍醐味を感ることができるでしょう。