読み始める前は、原発の話なのだろうか、などと考えていましたが、実際の内容は、宇宙人であることを自覚する家族4人を中心としたSF小説的なものです。ただし、小説中では、人類全体を滅亡させられるような核爆弾を開発した人類が、今後どうなっていくのか、どうしていくべきなのか、という大きなテーマが論じられており、そういう意味で「ミシマの予言」といえなくもないですが、ある意味で時代を超越した普遍的なテーマを扱っているからこそ、現代に読んでも違和感を感じないような作品になっているということでしょう。
中心的登場人物は先に挙げた家族4人で、それぞれ水星、金星、火星、木星を故郷としていて、人間の姿を借りて素性をかくしながら地球人として生活しています。家長の重一郎は、核実験や水爆開発で滅亡への道をひた走る地球人に警告を与え、人類を救うための活動を続け、妻と娘は父を支えますが、息子は政治の世界を目指して政治家に近づいたりするなど、独自の生活を送ります。また、娘は純潔を守り続ける大変美しい大学生ですが、文通相手で自らも金星から来たと名乗る男(じつは名うての女たらしなのですが)に陶酔状態に付け込まれて妊娠させられてしまいます。
そのような中でも重一郎は活動を続けますが、ある時、同じ宇宙人で、重一郎とは逆に人類滅亡を目論む仙台の大学助教授たちの来訪を受け、激しく論争することになります。その後、胃癌で倒れた重一郎は死を覚悟しますが、故郷の木星からの迎えの啓示を受け、ある夜、家族4人とともに迎えの宇宙船に乗りこもうとするところで作品は終わります。
宇宙人や終末思想といった非日常的な題材を扱っているものの、テンポよく展開が進み読者を飽きさせず、登場人物の論争部分は『カラマーゾフの兄弟』を彷彿とさせる哲学的思想が溢れ出すなど、小説としては極めて秀逸です。改めて三島由紀夫の才能の奥深さを感じることのできる作品でした。