末期患者への医療に取り組む施設。
「余命」何カ月と宣告された人にとって、残りの人生は「余り」ではない。
一日一日、大切にしたいとの思いで、皆、生きている。
施設では、患者の「心の底の希望」に耳を澄ます。
特に、普段の茶飲み話が大切だ。
「医師」「看護師」対「患者」でなく、友人同士としての会話である。
ある時、男性患者がポツリ。
「事情があって結婚式はやってない。妻に悪くて、心残りだ」。かなわぬ夢と、心の奥にしまっていた。
家族・医師・職員が総出で、結婚式を行うことになった。
花嫁衣装の着付けは、ボランティアがしてくれた。
他の患者も設営を手伝った。
本人には当日まで「仮装大会」と、、、
本当の結婚式と知った時の喜びは、どれほどだったか。
今、告知された余命を超え、命を輝かせて生きている。
「子どものころ、ドジョウ捕りが楽しくて」――別の患者の“ポツリ”に応え、皆でドジョウを追ったこともある。
心の思いは、時として、か細いつぶやきと表れる。
それを逃さず、聴き取る力をつけたい。
それには日常から言葉を交わし、心を結ぶこと。
そこから豊かな人生は広がっていく。